クローンだった私と、兄

柚木ゆず

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 全ての真実は、両親の日記帳にあった。
 私――佐々木春香は小学5年生の時に、買い物中の交通事故で死んだ。佐々木春香は兄同様親想いのいい子で、両親は酷く悲しんだ。そして両親はやがてそんな現実を受け入れられなくなって、法律で禁止されているクローン人間の制作を依頼した。
 その結果誕生したのが、私。二人目の佐々木春香だ。

 けれど。それでも、両親に幸せな日々は戻らない。

 私は佐々木春香と全く同じ遺伝子、全く同じ姿を持つ人間だけど、現代――2030年の技術では、脳にあった記憶の移植までが限界。性格までは完全に再現できなかった。
 そのため『佐々木春香』だけど『佐々木春香』じゃない生物が傍にいる生活に耐えられなくなり、やがて二人はこの家と家族を捨てて逃げたのだ。

「……そっか…………そういうことなんだね……。二人がいなくなったのは、そういうことだったんだ……」

 私を勝手に生んで、勝手に嫌になった。
 私が完全な佐々木春香じゃないから、ここから去ってしまったんだ。

「なによ、それ……。ふざけないでよ……っ。耐えられないのは、私の方だよ……っ!」

 小学5年生より前の記憶は、全てニセモノ。
 この顔、この身体、この声も、ニセモノだった。
 それだけなら、まだいい。

 どんな時でも妹想いな、優しい優しいお兄ちゃん。
 私が世界で一番大好きな、お兄ちゃん。

 あの人から向けられていた愛は、ニセモノだった。
 あの人は私が『佐々木春香』のクローンだから、そうしてただけ。私に本物を姿を重ねていたから、ああしていただけだったんだ……!!

『僕はね、春香の笑顔が見れたら幸せなんだよ。やっぱり、大切な人にはニコニコ楽しく生きてもらいたいからね』

 以前口にしていた言葉も、全て嘘。
 あの人が案じているのは、私じゃなくて『佐々木春香』。本物の妹を可愛がりたいけど、もうできないから――。私を本物だと自分に言い聞かせて、自分が満足するためだけに可愛がっていたんだ。

「…………私はずっと、道具にされていただけだったんだね……。そう、なんだね………………」

 ものすごい勢いで、心が黒く染まっていくのが分かった。
 涙の流れる量に比例して、胸の奥にある『闇』は増えていって――。十分後、くらいかな。涙が枯れてしまうまで泣いた…………泣かされた私は、淡々とキッチンに向かった。

「……クローンでも、身体の仕組みは人間とおんなじ。心臓を刺せば、死ぬよね」

 私は包丁を見下ろしたあと、マジマジと胸を見つめる。
 菌が入れば風邪をひくし、擦り剥けば血が出る。ここを刃物で突き刺せば、こんな偽物の人生を終わらせられる。

「……でも……。今すぐには、終わらない……」

 自殺するのは、お兄ちゃんと思っていた男の前。
 大好きな妹が死ぬ姿を。死んだ姿を。もう一度見せてから死ぬ。

「私だけ、泣いて苦しむのは不公平だもん……。一緒に絶望してもらうからね、お兄ちゃぁん……っ」

 私にはニンと笑い、この感情と表情を一度引っ込めて――。佐々木夏樹の帰りを待つのだった。

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