クローンだった私と、兄

柚木ゆず

文字の大きさ
8 / 11

しおりを挟む
「は、はるか……? そんなものを持ってきて、どうするんだい……?」
「決まってるでしょ。自分の心臓に刺すのよ」

 私は包丁を逆手で持ち、いつでも突き刺せる状態にする。

「どっ、どうしたの春香っ!! なにがあったんだっ!?」
「……………………私、知っちゃったんだよ。自分がクローンだってね」

 そう告げると、佐々木夏樹の表情が激変。瞬く間に青ざめたものになった。

「偶然、お父さんとお母さん――と思っていた二人のクローゼットが雪崩を起こして、片付けていたら遺影と日記帳を見つけたの。私、頭がこんがらがっちゃった」
「……はる、か……」
「だってこの記憶もこの身体も、自分のものじゃなかったんだもん。誰だってそうなるよね? ……だけど一番ショックだったのは、アンタに裏切られたこと。アンタから向けられていたもの全てがウソだったことが、一番辛かったわ」

 ずっと二人三脚で暮らしてきた、唯一の家族。誰よりも大切だった人に裏切られた事実が、何より痛かった。

「……アンタが親切にしてくれるのは、私が『佐々木春香』だから……。妹と同じ顔や声で笑ってくれるから……。だったらそんなヤツが目の前で死んだら、悲しいよね?」
「春香……っ。待ってっっ! 僕は――」
「うん、分かってる。これから出てくるのは、言い訳だって分かってる。二度も死んだところを見たくないから、必死になるよね」

 珍しく狼狽えている佐々木夏樹に対し、口元を緩めてプッと嗤う。
 そうそう。それそれ。最期に、そういうのを見たかったんだよね。

「私で遊んでくれたお礼に、最高の光景を焼き付けてあげる。愛した妹と同じ姿の女が死ぬ様子を、楽しんでね」
「……春香……。少しだけ、時間をください」
「嫌だよ。だってこんな人生、少しでも早く終わらせたいんだもん。絶対に嫌」
「…………お願い、春香。2分でいいから、僕に時間をください」

 急に佐々木夏樹の顔から動揺が消えて、私の目を真っすぐ見つめてきた。
 どう、して? どうして突然、慌てなくなったの?

「お願い、します。2分だけ、僕に時間をください」
「…………………………いいよ。2分だけ、自殺を待ってあげる」

 こんな状態で死んでも、大きなショックは与えられない。そこで私は首を縦に振り、それを見た佐々木夏樹は両親だった二人の部屋に入っていった。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...