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第4話 現婚約者と前婚約者 エメリー視点(1)
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「ま、まさか……。え、エメリー……。アイツが――あの御方が……。こんやく、しゃ……?」
「おや。貴方は、オーレン伯爵家のガエル様ですね? ええ、そうなのですよ。このベルナール・ルクナが、エメリー様の婚約者です」
肩の少し下まで伸びた、艶のある金髪の髪。澄んだブルーの瞳。奇跡のような位置に配置された、品のある形の良いお鼻と唇。そして、爽やかで優しい雰囲気を纏う長身。
数多の長所をお持ちの方が――ベルナール様がやって来られて、品よく微笑まれました。
「ベルナール様、申し訳ございません。ご到着までに済ませるつもりだったのですが、間に合いませんでした」
「エメリー様は、何も悪くはありませんよ。それに――。一度直接、ご挨拶をしたいと思っていましたので。むしろ、非常に有難いことですよ」
すぐに左右への首振りを行ってくださり、私、お父様やお母様にも、お気遣いの微笑を浮かべてくださいました。
ですが、そういった柔らかな色は、すぐに消えます。ブルーの瞳には静かな怒りが含まれるようになり、お顔はオーレン様へと向き直りました。
「僕の記憶が確かなら、貴方は婚約を一方的に解消したあと彼女を罵り、『お前なんかに会いに来ることは二度とない』と言い放ったそうですね? ……一体、何をしに来たんだ?」
「ひぃっ! あっ、それは、ですね……っ! いっ、以前から、謝罪をしたいと、思っていまして……。そ、それに、だ、大事なお願いも、ありまして……。お、お伺いをさせていただいた次第でござます……」
ルクナ家は侯爵家の中でも最上位で、圧倒的な格上。そんな方から鋭い視線で貫かれ、オーレン様は青ざめてしまっています。
「……謝罪、ね。当人は、なんと仰られているんだ?」
「そ、それは……。その…………。ええと………………」
「僕は答えを求めているんだ。その様子なら、返事はあったはず。なんと仰られているんだ?」
「…………ひ、必要ないと……。お詫びは微塵も要らないと……。言……おっ、仰られました……!」
最初は、どうにか誤魔化そうとしていました。ですがそうしてしまえば大変なことになると察し、声を震わせながら白状をしました。
「なるほど。被害者が不要と言っているのだから、その話はそこでお仕舞いだ。もちろん『大事なお願い』とやらの話も、お仕舞だ」
「そっ、そんな……っ。るっ、ルクナ様っ、ご慈悲を……!! あの女から――そっ、そうっっ! 平和を乱す悪辣な女からっ、この哀れな男をお助けくださいませ……!!」
ベルナール様は有名な人格者ですので、『どんなに怒っていても、悪事を知れば正義感によって救ってくださる』という思惑があったのでしょう。今度は額から血が出るほどに地面にこすり付け、死に物狂いで懇願を始めました。
それは、酷く逆効果だと――余計に状況を悪化させてしまうものだと、知らずに。
「おや。貴方は、オーレン伯爵家のガエル様ですね? ええ、そうなのですよ。このベルナール・ルクナが、エメリー様の婚約者です」
肩の少し下まで伸びた、艶のある金髪の髪。澄んだブルーの瞳。奇跡のような位置に配置された、品のある形の良いお鼻と唇。そして、爽やかで優しい雰囲気を纏う長身。
数多の長所をお持ちの方が――ベルナール様がやって来られて、品よく微笑まれました。
「ベルナール様、申し訳ございません。ご到着までに済ませるつもりだったのですが、間に合いませんでした」
「エメリー様は、何も悪くはありませんよ。それに――。一度直接、ご挨拶をしたいと思っていましたので。むしろ、非常に有難いことですよ」
すぐに左右への首振りを行ってくださり、私、お父様やお母様にも、お気遣いの微笑を浮かべてくださいました。
ですが、そういった柔らかな色は、すぐに消えます。ブルーの瞳には静かな怒りが含まれるようになり、お顔はオーレン様へと向き直りました。
「僕の記憶が確かなら、貴方は婚約を一方的に解消したあと彼女を罵り、『お前なんかに会いに来ることは二度とない』と言い放ったそうですね? ……一体、何をしに来たんだ?」
「ひぃっ! あっ、それは、ですね……っ! いっ、以前から、謝罪をしたいと、思っていまして……。そ、それに、だ、大事なお願いも、ありまして……。お、お伺いをさせていただいた次第でござます……」
ルクナ家は侯爵家の中でも最上位で、圧倒的な格上。そんな方から鋭い視線で貫かれ、オーレン様は青ざめてしまっています。
「……謝罪、ね。当人は、なんと仰られているんだ?」
「そ、それは……。その…………。ええと………………」
「僕は答えを求めているんだ。その様子なら、返事はあったはず。なんと仰られているんだ?」
「…………ひ、必要ないと……。お詫びは微塵も要らないと……。言……おっ、仰られました……!」
最初は、どうにか誤魔化そうとしていました。ですがそうしてしまえば大変なことになると察し、声を震わせながら白状をしました。
「なるほど。被害者が不要と言っているのだから、その話はそこでお仕舞いだ。もちろん『大事なお願い』とやらの話も、お仕舞だ」
「そっ、そんな……っ。るっ、ルクナ様っ、ご慈悲を……!! あの女から――そっ、そうっっ! 平和を乱す悪辣な女からっ、この哀れな男をお助けくださいませ……!!」
ベルナール様は有名な人格者ですので、『どんなに怒っていても、悪事を知れば正義感によって救ってくださる』という思惑があったのでしょう。今度は額から血が出るほどに地面にこすり付け、死に物狂いで懇願を始めました。
それは、酷く逆効果だと――余計に状況を悪化させてしまうものだと、知らずに。
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