お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました

柚木ゆず

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第4話 現婚約者と前婚約者 エメリー視点(2)

「レステラ侯爵家のファスティーヌ! あの女は我がオーレン家の商会を狙っているのです!! すでに現当主夫婦は何らかの形で操られてしまっておりまして!! 大変な事態となってしまっているのでございます!!」

 できる限り多く、ベルナール様の正義感を刺激できるように。先ほどよりもレステラ様の悪事を強調して、オーレン邸での出来事を説明しました。

「このままでは我々――我々はともかくっ、善良な領民にまで何かしらの影響が出かねませんっ! その可能性がっ、危険性が非常に高くっ! ですのでどうかっ!! 領民のためにっ!! お力をお貸しくださいっっ!!」
「……領民。貴様はそこを、利用するのか」
「利用っ!? とんでもございませんっ!! この男は昔から、領民第一でございます!!」

 そんな話は、聞いたことがありません。むしろファスティーヌ様と関係を持って、気が大きくなったのでしょう。何度か、悪い噂を耳にすることもありました。

「こちらはっ、心よりの言葉でございます……!! 領民に何かあったら、死んでも死に切れませんので……!! どうか、領民をお守りくださいませ……!!」
「………………。エメリー様。この件の対応を任せていただいても、よろしいでしょうか?」
「はい。お願い致します」

 わざわざ体全体を向けて確認をしてくださり、私は姿勢を正しつつ頷きを返します。そうすると「ありがとうございます」と仰ってくださって、表情と態度が再び変化。それらが冷たく厳しいものとなって、オーレン様へと向き直りました。

「…………いいだろう。領民に関しては、僕が守ってやろう」
「本当でございますかっ!? あっ、ありがとうございますっ!! こっ、これからどうしましょうっ!? わたくしはどうすればよろしいでしょうかっ!?」
「さあね。貴様のことは知らない。好きにすればいい」
「…………。え……?」

 大喜びをしていたオーレン様は、石像のように固まりました。

「僕は、領民を守る――領民である方々に、何かしらの悪い影響が出ないように動くだけだ。貴様たち一家のことは知らない。どうしようもない下衆、愚者3人がどうなろうが興味はないさ」

 オーレン様の父ヒューゴ様と母グレース様。お二人から正式な謝罪は一度もなく、嬉々として息子を応援していた。その事実をベルナール様も御存じですので、そう言い捨てました。

「邸外に被害が出ないように、僕は動くだけだ。邸内の事は知らない。家の平穏を取り戻したければ、自力で何とかするんだな」
「そ、そんな……。ご、ご慈悲を――」
「領民が第一、なのだろう? それ以上何を望むんだ?」

 ベルナール様の視線と声音が、鋭く低くなります。
 この方は人格者故に、民の利用を酷く嫌います。オーレン様は知らず知らず、最悪の選択肢を選んでしまっていたのです。

「そ、それは……。その……っ。いっ、色々事情がございまして!! どうにかわたくしをたすけて――」
「テリエス卿。この男はチャンスを欲しがっておりましたので、曰く悪女と戦うチャンスを与えましょう」
「そうですな。……お前達、この件は不問とする。門外にある馬車までお送りしてやってくれ」

 ですのでオーレン様は解放されることとなり、警備の方々によってオーレン家の馬車に乗せられました。

「全ては身勝手な婚約解消から始まったこと、貴様が蒔いた種だ。これまでの行いを後悔しながら、必死になってもがくといい」
「おっ、お待ちくださいっ!! たっ、助けてっ!! 助けてくださ――」

 速やかなる退去の指示が出ていますので、馬車は出発。猛スピードで車は遠ざかってゆき、すぐに蒼白のお顔と大声は聞こえなくなってしまったのでした――。

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