お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました

柚木ゆず

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第9話 決着がつく日 ガエル視点(2)

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「な、なんだ……? どうなっているんだ……? 昨日、何度もはたかれた影響か……!?」
「違いますわよ。まんまと引っかかってしまった影響、ですわ」

 なっ!? 椅子から立ち上がり頬に触れていると、背後にある扉がギィと開いた。

「ファスティーヌ……! 紅茶とお菓子の用意を……っ。洗脳の準備をしに、行ったんじゃなかったのか……!?」
「ええ、そんな事はしていませんわよ。だって――。洗脳の準備なら、とっくに出来ていたんですもの」

 ヤツは小馬鹿にするような笑みを浮かべ、ベッドを指さした。……いや、違う。ベッドの下を、指さした。
 なんだ……? そこに、何があると――っっ!!

「こ、小瓶が……! 蓋の開いた、小瓶が、ある……!!」
「その瓶の中身は、洗脳効果のある香りを放つ液体ですの。創作物の登場物は、現実にも存在していましたのよ」

 それは、知っている……! 予想していた……!!
 だがっ……っ! なぜだ……!?

「俺と小瓶は、何メートルも離れている……! 嗅いでいないのに……っ。なんで作用してしまっているんだ……!?」
「あら、貴方はちゃんと嗅いでいますわよ。空気中に充満した、においをね」
「く、くうき、ちゅう……」
「貴方が訪れる前に栓を開け、時間をかけて部屋を満たしていましたの。そして洗脳には5分間臭い続けることが必要だから、わたくしは室外へと出て室内で待たせていた。だから貴方だけが、そうなってしまっていますのよ」

 そ、そんな方法があっただなんて……! 思いも、しなかった……っっ。

「お義父様とお義母様と違って、怪しんでいる貴方は大人しく嗅いでくれないんですもの。ちょっとだけ、頭を使いましたのよ」
「く、くそ……! くそぉ……!! くそぉ……!!」
「わたくしを暴くつもりが、残念でしたわね。……催眠状態となった状態で、こうして指をパチンと鳴らす――。そうすれば貴方は鳴らした者、つまりわたくしの言う事を聞きたくなってしまいますのよ」

 この女は、忌々しい女。敵、なのに……っ。服従したいと、お役に立ちたいと、思い始めている……!!

「や、やめろ……! やめてくれぇ……っ! 逆らわないっっ! 素直に商会は譲るからっっ! 元に戻してくれっ! せめて俺だけでもっ、解いてくれ!!」

 絨毯に額をこすり付け、懇願する。
 洗脳されてしまったら、それはもう俺であり俺ではない! 嫌だ!! 怖い!! そんな人生は嫌だ!!

「お願いしますっ!! お願い致しますっ!!」
「お断り、ですわ。だってこれを入手するために相当苦労しましたし、なにより不自然にならないよう、1年間も好きではない男と一緒にいたんですもの。キスだって、したんですもの。その分を、利子をつけてしっかりと払ってもらいますわ」

 ニヤリ。彼女は悪魔のような笑みを浮かべ、そうして俺は――

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