26 / 27
第14話 結婚式で思うこと 父ロンドル 母ミラス 視点
しおりを挟む
ベルナール様と、結婚を前提にして交際をすることになった。そんな話を始めて聞いた時、わたし達は不安になった。
ルクナ侯爵家のベルナール様。身分の差などで直接的な交流はなかったものの、その評判は存じ上げていた。そしてこの屋敷にいらっしゃるようになったことで、直接性質を理解することができた。
真摯。正義。
評判通り――それ以上の人格者なのだと、すでに理解をしていた。
けれど……。
『愛しき彼女を、エメリーを生涯幸せにすると誓います』
ベルナール様ほどではないとはいえ、好青年と賞されていたガエル様――ガエルは、あのようになってしまった。
平然と娘を捨て、あの子は心ない言葉と態度によって傷ついてしまった。
――我が子の幸せを願わない親なんていない――。
だから、不安だった。
幸せそうにしているエメリーを見ていると、喜びよりも不安がやってきていた。不安で仕方がなかった。
でも。
ベルナール様が交際の報告にいらっしゃられた際、その後半で、そんなモヤモヤは全て消えてしまった。
『テルエス卿、ミラス様。僕は第2のガエル・オーレンにはなりませんよ』
『エメリー様はこれまで出会った女性の誰よりも、美しい心をお持ちでした。……勿論彼女は、美しい方です。けれどわたしはエメリー様の、心、性質に惹かれておりますので。エメリー様がエメリー様である限り、つまり一生涯、愛し続けますよ』
『……と説明をさせていただいても、やはり不安になってしまうと思います。ですのでテルエス卿、ミラス様。ここに、誓約書を用意いたしました。万一わたしからこの婚約を解消した場合は、貴方様がたが望むお好きな罰を受けるとお約束します』
ベルナール様はわたし達をも案じてくださっていて、わざわざ正式な書類を用意してくださっていた。圧倒的に格下の者に行うようなことではない行動を、当たり前のように行ってくださっていた。
だから――
『いえ、そちらは結構でございます。……ベルナール様、ありがとうございます。娘をよろしくお願い致します』
『素敵な方と出逢うことができて、本当によかった。ベルナール様。娘を、よろしくお願い致します』
わたし達は誓約書へのサインを断り、揃って頭を下げた。喜びの涙を溜めながら、感謝の気持ちを告げたのだった。
だから――
「「おめでとう。エメリー」」
――純白のウェディングドレスを纏い、誓いのキスを交わした娘に――エメリー・ルクナとなった娘に。わたし達は、心からの祝福の言葉を贈ったのだった。
ルクナ侯爵家のベルナール様。身分の差などで直接的な交流はなかったものの、その評判は存じ上げていた。そしてこの屋敷にいらっしゃるようになったことで、直接性質を理解することができた。
真摯。正義。
評判通り――それ以上の人格者なのだと、すでに理解をしていた。
けれど……。
『愛しき彼女を、エメリーを生涯幸せにすると誓います』
ベルナール様ほどではないとはいえ、好青年と賞されていたガエル様――ガエルは、あのようになってしまった。
平然と娘を捨て、あの子は心ない言葉と態度によって傷ついてしまった。
――我が子の幸せを願わない親なんていない――。
だから、不安だった。
幸せそうにしているエメリーを見ていると、喜びよりも不安がやってきていた。不安で仕方がなかった。
でも。
ベルナール様が交際の報告にいらっしゃられた際、その後半で、そんなモヤモヤは全て消えてしまった。
『テルエス卿、ミラス様。僕は第2のガエル・オーレンにはなりませんよ』
『エメリー様はこれまで出会った女性の誰よりも、美しい心をお持ちでした。……勿論彼女は、美しい方です。けれどわたしはエメリー様の、心、性質に惹かれておりますので。エメリー様がエメリー様である限り、つまり一生涯、愛し続けますよ』
『……と説明をさせていただいても、やはり不安になってしまうと思います。ですのでテルエス卿、ミラス様。ここに、誓約書を用意いたしました。万一わたしからこの婚約を解消した場合は、貴方様がたが望むお好きな罰を受けるとお約束します』
ベルナール様はわたし達をも案じてくださっていて、わざわざ正式な書類を用意してくださっていた。圧倒的に格下の者に行うようなことではない行動を、当たり前のように行ってくださっていた。
だから――
『いえ、そちらは結構でございます。……ベルナール様、ありがとうございます。娘をよろしくお願い致します』
『素敵な方と出逢うことができて、本当によかった。ベルナール様。娘を、よろしくお願い致します』
わたし達は誓約書へのサインを断り、揃って頭を下げた。喜びの涙を溜めながら、感謝の気持ちを告げたのだった。
だから――
「「おめでとう。エメリー」」
――純白のウェディングドレスを纏い、誓いのキスを交わした娘に――エメリー・ルクナとなった娘に。わたし達は、心からの祝福の言葉を贈ったのだった。
109
あなたにおすすめの小説
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。
百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。
半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。
のだけど、ちょっと問題が……
「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」
「おかしいわよね、お母様!」
「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」
「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」
という具合に、めんどくさい家族が。
「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」
「よく、言い聞かせてね」
私たちは気が合うし、仲もいいんだけど……
「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」
この婚約、どうなっちゃうの?
従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィオレッタはとある理由で、侯爵令息のフランツと婚約した。
しかし、そのフランツは従姉である子爵令嬢アメリアの事ばかり優遇し優先する。
アメリアもまたフランツがまるで自分の婚約者のように振る舞っていた。
目的のために婚約だったので、特別ヴィオレッタは気にしていなかったが、アメリアにも婚約者がいるので、そちらに睨まれないために窘めると、それから関係が悪化。
フランツは、アメリアとの関係について口をだすヴィオレッタを疎ましく思い、アメリアは気に食わない婚約者の事を口に出すヴィオレッタを嫌い、ことあるごとにフランツとの関係にマウントをとって来る。
そんな二人に辟易としながら過ごした一年後、そこで二人は盛大にやらかしてくれた。
突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました
景
恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。
メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる