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第6話(3)

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「貴方ほどの『大物』が動かれるなんて。余程のことがあるようですね」
「さようでございます。本日は、国王陛下からの『お願い』をお伝えするべく、参上いたしました」

 何人もの屈強な護衛に囲まれ、丁寧にお辞儀をする長身の男性。この方は、アドリク・オルジー様34歳。
 この国の現宰相であり、代々この国の宰相を務める名家の現当主様です。

「家はともかくとして今日の移動先は教えていないのに、よくここが分かりましたね。宰相閣下自慢の、情報網ですか?」
「この手の行動は大変失礼と承知しておりますが、本日お伝えしたい御話は非常に大切なものでしたので。英雄様の目撃情報を収集し、特定を致しました」
「『陛下からのお願い』、貴方はそう言っていましたね。どういった内容なのかを、端的にお教えください」
「…………。少々、お待ちくださいませ」

 オルジー様は周囲を見回し、人気(ひとけ)のなしを確認。念のため護衛の方に周囲を見張らせ、そのあと向き直られました。

「マティアス様のお望み通り、端的に申し上げます。『明日ご都合がよろしい時間に、会っていただきたい者がいる』『マティアス様のもとへ、その者を連れて伺いたい』。以上の二つでございます」
「……なるほど、会わせたい人がいるですか。それは構いませんが、その場所は変更していただきたい。あの家は、そういったことに使用したくないのですよ」
「承知致しました。ただ陛下は『人目は避けたい』と仰っておりまして、王城はいかがでしょうか?」
「そこなら人目につきませんし、落ち着いて話せますね。では場所はお城で、そうですね。時間は、正午に伺うとお伝えください」
「マティアス様、感謝いたします。……イリス・マーフェル様」
「はっ、はいっ!?」

 予想外に名前を呼ばれ、おもわず声が上擦ってしまいました。
 こちらにお話が振られるなんて、思ってもみませんでした。な、なんなのでしょうか……!?

「陛下は、貴方様との接触も希望されております。明日(あす)は何卒、ご同行をお願い致します」
「わ、私もですか……? しょ、承知致しました」

 戸惑っていたら、(大丈夫だよ。俺もいるから)という声が聞こえてきました。ですので小さく膝を曲げ、私も参加をすることになりました。

「マーフェル様、御協力ありがとうございます。明日は送迎用の馬車を手配しても構いませんでしょうか?」
「そちらは、お気持ちだけ頂いておきます。その日はその後、市場に行くつもりですので」

 明日はもう一つの思い出の場所で、お買い物をする予定になっていました。
 豪奢な馬車で移動すると、目立ちますもんね。マティアス君は、やんわりとお断りをしました。

「翌日は自前の馬車で移動を行い、伺います。陛下にそうお伝えください」
「畏まりました。マティアス様、そしてマーフェル様。突然の来訪、申し訳ございませんでした。失礼致します」

 オルジー様はお手本のような一礼を行い、多くの部下の方と共に去っていかれました。
 私達それを見届けたあと、自分達の馬車に乗って帰宅。その後は2人で晩ご飯を作ったりお喋りをしたりして、引き続き楽しい時間を過ごしたのでした。
 そして、就寝前には――

「公園でも言ったように、隣には俺がいる。明日は、何も心配要らないよ」

 ――優しく頼もしく、マティアス君は微笑んでくれたのでした。
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