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第9話 うごめく悪意 俯瞰(ふかん)視点(1)

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「マティアス……っ。生意気な男ですわ……っ!」
「ああ、まったくだ。実に話の分からない男だよ、アイツは……!」

 イリスとマティアスが、去った直後のこと――。王の間の床にはカップやソーサーの破片が散乱し、国王ルシアンと王女エーナは怒りで顔を真っ赤にしていました。

「王女に向かって、あの態度。ふざけてますわ……!」
「国トップに向かって、あの態度。ふざけている……!」

 2人は国王と王女。立場上今までは、大抵の者は従順。服従してきました。
 そのため彼らはここまで思い通りにならなかった事はなく、理不尽に悪態をついていたのです。

「生まれも育ちも、ゴミみたいなくせに……っ。歯向かうなんて許せませんわ……!」
「魔王を倒したくらい・・・で調子に乗りおって……! 不愉快極まりない……!」

 魔王ワオズや魔物の存在は、全人類にとって脅威。言わずもがなルシアンとエーナにとっても、最大の悩みであり不安の種でした。
 ですが、喉元を過ぎれば熱さを忘れる。他国の王族、貴族や国民と違い、彼らからは――愚か者からは、すっかり感謝の気持ちがなくなっていました。

「目の前にいる相手を、誰だと思っているのだ……!? この身の程知らずが……!!」
「お父様……っ。思い出しただけで、腹が立ちますわね……っ。っっっ!!」

 2人は椅子をひっくり返したり残ったお茶菓子を床に投げつけたりして、更には――

「「死ねっ!! 揃って死ね!! 苦しんで惨たらしく死ね!!」」

 ――まるで子供ような暴言を吐き続け、そんな時間が10分程経過。ひたすら物に当たった彼らはようやく落ち着きを取り戻し、思案を始めました。

「あの男はクズだが、英雄の称号は無視できん。どうにかして、わたしの息子でありお前の夫にしなければならない」
「ええ、そうですわ。……どうしましょうか……」

 さっきまで『死ね』を連呼していた2人は、揃って眉を顰めます。


 父親は、他国のうるさい声を封じ込めるため。
 娘は、自分に箔をつけるため。


 実に自分勝手な動機で、篭絡する全てを考えます。

「……あの男は盲目、イリスあの女しか見えていない。したがって、アイツを消せば好転するが……。それは、無理か。あの様子だと、マティアスがいる限り暗殺は不可能だな……」
「それによしんば殺せたとしても、アイツが他の女を求めるとは思えませんわ。きっと形見を持ち続けて、死ぬまで想い続けますわ」
「……それも、そうだな……。一体、どうしたものか……」

 2人は再び黙考を始め、しかし――。いつまで経っても、名案は浮かびません。
 暗殺のチャンスはない。暗殺できても心変わりはない。その事実が、ルシアンとエーナを悩ませます。

「……………………駄目だ。方法が、見つからん」
「……………………わたくしもですわ。前提が強すぎて、これ以上先には進めませんわ」

 更に十数分唸り続けた二人は、ついに大きな大きなため息をつきます。
 そして、やっと諦め――ようとした時。不意に王の間の扉が開き、彼らに光が差し込んだのでした。

「ルシアン様、エーナ様。わたしに策がございます」
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