酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず

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第8話 諦めた、結果 俯瞰視点(1)

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「こんなことになるだなんて……」
「………………」
「………………」

 大騒動が起きてから、一か月後。ロンテイエ子爵邸の中には、まるで真夜中の墓地のような重く暗い雰囲気が漂っていました。

「大変なことに、なってしまった……」
「………………」
「………………」

 自分達を幸せにしてくれる、大事な『商品』がなくなった。それによって様々な問題が発生することとなってしまったのですが、中でも非常に厄介なのが結婚話。
 高く買ってくれる人物はベネディクトをいたく気に入っていて、契約がまとまる寸前まで話が進んでいました。
 最終段階で白紙にして欲しいと言い出したら、どんな反応をされるのか。それを考えただけで、胃が猛烈な痛みに襲われるほどに3人はストレスを感じていました。

「…………じ、事情が事情、ですもの……。穏便に済むはず、ですわ……」
「そ、そうよ。だって原因は、意味不明な出来事なんだもの! 治安機関も動いている、事件なんだもの! こっちは被害者なんだもの! 納得するに決まっているわ!」
「そっ、そうだよな! こちらに白紙にする意思はまったくないのだ!! 経緯を丁寧に説明すれば理解していただけるに決まっている!!」

 胃がある部分を抑えながら頷き合い、この家の当主であるブリアックが代表して説明にいきます。

 ――実は事件が起きていた――。
 ――何者かによって拉致されていた――。
 ――行方が分からないから結婚話を進められない――。

 自分達は被害者で、全員落ち込んでいる。そんな空気を醸しながら、結婚相手だったヴァールトル公爵家前当主であるロバールに詳説をして――

「! あなたっ、お帰りなさい!!」
「どっ、どうでしたの!? 丸く収まりましたの!?」
「………………ロバール様は、酷くお怒りになられていて……。ロンテイエ家を潰す、と仰られていた……」

『計画――特に結婚に関しては、特に大事。お姉様が好きな相手と自由に結婚できるように、多くの財を所有されている方とわたしの結婚話が進んでいます。
 わたしが死んでしまうとそのお話がなくなり、結婚で得られる予定のものが何も手に入らなくなってしまいます。しかもその方は、その……。御高齢にもかかわらず子どものような性格をお持ちでして、怒りを買った場合ロンテイエ家が何をされるか分かりません』。
 かつてベネディクトがそう言ったように、相手は非常に厄介な性格の持ち主。常識など通用するはずがなく、ロンテイエ家は有史以来最大の窮地に陥っていたのでした。

「「そんな……」」
「なにもかも、お仕舞だ……。最悪だ……」

 顔を真っ青にして天を仰ぎながら零れ落ちた、声。
 そんな絶望に塗れた言葉は、実は大間違いでした。

 ――最も悪い――。

 それは『今』ではなくて――
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