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第5話 逆監視2日目 監視スタート (1)

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「お祈り、毎日お疲れ様っス。準備、できてますっスよ」

 昨日と同じく神殿内の大部屋で、私達は宙に浮かぶ鏡を見上げました。
 ラズフ様。本日も、よろしくお願いしたします。

「今日は、一堂に会してるっス。食事中みたいっスね」

 5人は優雅に豪華なランチを摂っていて、従者クオスさんが来てもそのまま。誰も手を止めはせず、スープなどを飲みながら報告を聞いています。

《昨日一昨日に続き、本日も違和感はございません。聖女様は5時間1度も気を緩めることなく、祈りを捧げておられました》
《……………………》
《れ、レオン殿下? どうなされましたか?》
《……………クオス。今日も本当に、一度もなかったのだな?》

 彼はサラダを摘まみつつ、従者を一瞥することもなく問いかけました。

《あの女はようやく真面目に行うようになり、その結果我々は正常な状態となった。そうだな?》
《は、はい。そうでございます……?》
《『これはもう、ちゃんと心を入れ替えているな』。そう勝手に判断し、監視を怠ってはいないだろうな? 300分休まず、あの鏡を――映鏡を、目視していたのだな?》
《ま、間違いございません。瞬きの際以外は、直視しておりましたのでっ》
《そうか、ならば下がっていいぞ。……お前が太鼓判を捺したにもかかわらず、だ。この間のような事態が発生したら、貴様も処分する。肝に銘じておけよ》

 仕事を頼んでいる相手を疑い、更には理不尽な脅しをかけ、そんな様(さま)を見ていた4人は賛同をします。

《人間には、油断がつきものだ。クオスよ、レオンの言葉を忘れるでないぞ?》
《クオスなら、なんかやりそうだもん。暗くて汚い牢屋にぶち込まれたくなったから、ちゃんとやってよね?》
《貴方は兄上の命を受けた際に、『完遂します』、『わたくし独りで行えます』、と誓いました。自分の言葉には、責任を持ってくださいね?》
《折角のあたし達の期待を裏切る者に、居場所なんてないのよ。今の毎日を今後も続けたいのなら、しっかりやりなさい》

 次々と心ない言葉をぶつけ、自分達は平然として食事を続けます。
 王家の悪い噂はなぜか・・・聞きませんでしたが、その理由は明白ですね。こんな風に日々接しているため、大っぴらには言えなかったのでしょう。

「予想通りといえば予想通りなんスけど、実際に聞くと腹が立つっスよね。滅茶苦茶っスよ」
「知れば知るほど、評価が下がっていく方々ですね。マイナスな方向に稀有な人達で、数日前までの不幸は日頃の行いのせいだったのでしょう」

 そんなお話をしている間に、午後2時9分17秒となりました。
 2度目の、変化が発生する時。その瞬間になると、彼ら5人は――示し合わせたかのように、全員が手を打ち鳴らしました。

 5人共に、目の色を変えて。

《無性に肉を食べたくなった。なにか肉料理を用意してくれ》
《わたしもだ。レオンと同じものを持ってきてくれ》
《僕も僕も。兄さんと父さんとおなじやつっ》
《俺も、肉を希望します。もしかして、母上も》
《ええ、あなた達と一緒よ。以心伝心ね》

 手を打ち鳴らした5人は、揃ってお肉のお料理をオーダー。ソワソワと体を揺らしながら、完成と到着を心待ちにします。
 そんな珍しい時が、15分程度流れた頃でしょうか。牛モモ肉のカツレツがそれぞれの前に置かれ、ナイフとフォークを持つや一斉に突き立てました。

《《《》》》

 5人は夢中で口へと運び、食事の速度も異様といえます。口の中が空の状態がない程に食べ続け、あっという間に――恐らくは、平均的な時間の半分くらいで、完食となりました。
 ですが、今日の5人はまだ満足しません。

《もう一品、用意してくれ。今度はもう少しレアなものがいい》
《同感だ。かつ、手早く作れる料理にしてくれ》
《なんか、全然足りないんだよね~。早くお願い》

 彼らは口を揃えて『焼き』が少ないメニューを頼み、牛モモ肉のアリアータが来ると再びかぶりつきます。

《うん、旨いっ》
《ああ。旨いな》
《ねーっ。ウマいよねっ》
《美味しいです。特にこの、レアな部分が絶品ですね》
《いつにも増して、美味しく感じるわね。止まらないわ》

 アリアータは、外はこんがりで、中は赤が多いお料理。全員そのレア加減がとても気に入ったようで、完食、おかわり。完食、おかわり。のループが始まります。
 結局5人は、4回もおかわり。異様な量のお肉を摂取して、長い長い昼食が終わりました。

《こんなにも食べたのは久しぶりだ。これも、あの女が心を入れ替えた影響だな》
《昨日からお肌の張り艶も良くって、大違いですもの。レオンの言う通りだわ》
《というかこれさー、元通りじゃなくて前より良くなってるよね? きっとアイツ、その前からもちょっと手を抜いてたんだよっ》

「……アイツら心身ともに絶好調で、滅茶滅茶元気に悪口を言いまくってますっスよね……。ミウヴァ様、庇護がなくなった影響はどこに出てるんスか……?」

 ケラケラと笑う姿を眺めていたら、お隣で困惑顔が誕生しました。
 けれど、その直後でした。殿下が無意識的に行った行動で、ラズフ様の表情は一変。すぐに、庇護がなくなった影響を理解することになります。

《あれ、兄さんっ? 口元に血がついてるよっ。フォークか何かで切れたのかな?》
《ん? ああ、これはアリアータのものだな。……ラッキーだ》

 アークス殿下は口角付近に付着していたものに気付くと、心底嬉しそうにペロりと舐めたのです。
 まるで獣のように、歯を剥きながら。




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