裏切られた令嬢は、自分になりすました従者から婚約者を守るため走る

柚木ゆず

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3話 絆

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(はぁ……っ。はぁ……っ。はぁ……っ。はぁ……っ)

 あれから、およそ1時間が経過。私は慣れ親しんだ道を、慣れない身体で懸命に駆けている。
 前足2つと後ろ足2つを使って走るのは、本当に難しい。イメージ通りに前と後ろが連動してくれない時があって、なかなか上手にスピードを出せない。

(それでも……っ。最初よりは、随分上手くなったと思う。この調子でドンドン進みましょうっ)

 角を右に曲がり、左に曲がり、今は猫なので塀にのぼってショートカット。元が人間だからなのかスタミナもそれなりにあって、私は時折ちょっとの休憩を挟みつつ二十数キロ先にあるゴールを目指す。

(……はあっ。……はぁっ)

 走る。走る。

(………………はぁっ。はぁ……っ)

 走る。走る。

(……………………ここを曲がれば、しばらくは直線……。あまり気を遣って走らなくていいから、着いたあとのことを考えましょっか)

 少しだけ落ち着ける状況になったところで、頭の中で考えを事を始める。
 お城に辿り着いたらどうにかして、エルサが持ってる短剣を奪って壊さないといけない。これをどうやって行うかも、大事な問題なのよね。

(…………お城の警備は厳重で、今日は更に厳しくなってる)

 他国の王族や有力貴族も招いての、儀式なんだもん。内部にはいつもの数倍の人が動員されていて、どんなに上手く動いても敷地内に入るのがやっと。お城には、絶対に立ち入れない。

(…………そうなると、エルサを城から出すしかない……。そうするには……………………駄目。私がどうやっても、それはできないわね……)

 青空の下をひた走りながら、小さくて柔らかい眉間を寄せる。
 エルサは城に到着後すぐに、式の打ち合わせやメイクなどを行う。なので外に出る時なんてないし、そもそも。あちらは私の正体を知っていて、黒猫を見掛けたら侍女等を使って遠ざけてしまう。

(だとしたら…………。エルサが持ってる短剣を、誰かに壊してもらうしかない。それは………………レイジ様が異変に気付いてくれたら、できる可能性がある)

 当日の予行演習などで、レイジ様は頻繁にエルサと間近で接触する。その際に違和感を覚えてくれていたら、ソレを使って私に――敷地に侵入した黒猫に意識を向けてもらうことができて、そうすれば全てを伝えられる。

(……エルサはずっと私の傍にいて、私の性格を知り尽くしてる。なので恐らく、本物のように振る舞える)

 でも。でも!

(レイジ様しか知らない私の性質や、私との思い出がある)

 だから、夢物語じゃない。レイジ様が気が付いてくれる可能性は、ちゃんとある。

(…………私をしっかり見ていてくれたあの人なら、きっと微妙な違いを分かってくれる。……愛する人を信じて、進みましょう……っ)

 私は心の中で両手を組み、北北西の方角を――。レイジ様がいる方角を見つめ、再び疾走に全神経を集中させたのでした。
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