裏切られた令嬢は、自分になりすました従者から婚約者を守るため走る

柚木ゆず

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6話 到着と、最後の苦難(1)

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 私は、走った。
 背中から血が出ても。足から血が出ても。額から血が出ても。
 諦めずに、走り続けた。

 動くたびに、背中がズキズキしても。地面に足をつけるたびに、顔が歪む痛みに襲われても。額が焼けるように痛くても。
 諦めずに、走り続けた。

 だから。
 だからついに、私は辿り着いた。
 目の前には大きな門があって、その奥には立派なお城。大切な人がいる場所に、たどり着いた。

(エルサ、来たわよ……っ。絶対に、貴方の好きにはさせないんだから……っ)

 私は物陰に潜んで一旦足を止め、体力を回復しつつ気合を再注入。敷地に突入する準備を整える。
 お城は高い壁に囲まれていて、正面にある門以外からは出入りできない。だけどそこには衛兵が4人いるから、素早く動かないと捕まって『目的の場所』までは行けない。

(……この作戦で重要なのは、スピード。全力で走って門の隙間を潜り抜け、そのまま突っ切るだけ)

 大事なのは、速さ。ただそれだけ。

(門から約90メートル走れば、目標を達成できる。……私の身体、あと少しだけ頑張ってね)

 傷だらけになった、痛々しい肉体。沢山の傷跡に心と目線でお願いをして、深呼吸を一回。
 もう少し休んでいたいけど、タイムリミットまで十分もないから。最後の力を振り絞って、飛び出した!

「うおっ!? 血まみれの猫!?」
「まっ、待てっ! そっちに入っちゃ駄目だっ! 止まってくれっ!」

 衛兵さん達、ごめんなさい。止まるわけにはいかないから、私は門の隙間を潜って敷地に入った。

(侵入、できた。あと80メートル……っ)

 芝生の上を走り、敷地を縦断してゆく。
 足が痛い。足の裏も痛い。痛くて痛くて、泣きたくなる。
 でも。もうちょっと我慢すれば、それも終わり。

(はぁ、はぁ、はぁ……っ。あと、60メートル……っ)
「こらっ! 止まらないかっ!」
「ここはお前の家じゃないぞっ! どうして血まみれで走ってるんだよ……!?」

 4人の衛兵のうち2人が追いかけてきて、懸命に私を捕まえようとする。
 迷惑をかけて、本当にごめんなさい。会いたい人がいるから、血まみれになっても走らないといけないのっ!

「おいニャンコっ! いい加減に走るのをやめてくれっ!」
「ああもう。なんでこんな大事な時に来るんだよもう……っ」

 こんな時だから、来るの。
 残りは、40メートル。あと、少し……っ。

「俺らが正面を塞ぐっ! お前らはそのまま追い込んでくれっ!」
(前に別の二人が来た……っ。普段なら絶対に横を抜けられないけど、今は猫だから大丈夫っ!)

 すっかり得意になった突進を行い、男性にぶつかる寸前で方向を右斜めに転換。相手が虚をつかれている隙に右横を通りすぎ、残りは20メートルになった。

(あと少し……っ。あと少しでたどり着ける……っ。本当にもう少しだけ頑張ってっ。私のからだ――ぁっ!?)

 きっと、急な動きが祟ったんだと思う。右の前足がガクンと曲がり、私は思い切り転んでしまった。
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