黒い鍵の令嬢と陰陽師執事は、今夜も苦しむ魂を救う

柚木ゆず

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第2話 邂逅(2)

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「オマエ、ジャマ、ヲ、スル……! ジャマ、スル、ヤツ、モ……! コロ、ス。コロスゥウウゥ……!!」

 負霊が攻撃をする相手は、本来は怨みを持った相手のみ。ですが目的の邪魔をされるとなると、話は別です。
 自分自身の『願い』を果たすため、必要なら殺そうとする。そのため異形の身体からは禍々しい黒煙が立ち上り、左右の手には漆黒のテニスラケットとテニスボールが現れました。

 負霊は相手を呪い殺す際に、『負具(ふぐ)』と呼ばれるオリジナル本人と縁のある道具を用います。

 負霊の本体である橋本涼子は、テニス部員。小学生の頃から4年間テニスに励んでいたため、この負霊の負具はこの2つとなっていたのでした。

「お嬢様。それらは2つで1つではなく、片方に触れただけで死んでしまうものそれぞれが独立した負具のようです。お気をつけください」
「ええ、注意しておくわ。それに、アレは――あら、残念。お喋りをする時間は、もらえないようね」

 漆黒の化け物は左半身を前にして、ポーンポーンと、ボールを弾ませラケットを構えます。
 あれは、サーブの体勢。負霊はエリスに向け、即死の球を打つようです。

「ジャマ、スル、カラ……。コロス……! コロス……! ジャマ、スル、カラ……。コロスゥウウウウウウウウウ!!」

 ボールを握る左手が真上に上がり、それと同時に身体は弓を射るような姿勢に。そうして負霊は下半身に力を溜め、両足で地面を鋭くキック。蓄えていた力を瞬時に解放して真上に飛び、急上昇中に背面に回していた右腕を鞭の如くしなやかに振って――真っ黒いラケットで、真っ黒なボールを打つ!

「ジャマ、スル、ヤツ……。キエロォォオオオオオオオオ!!」

 完璧なフォームによって放たれるサーブは、強烈。100キロをゆうに越える速度で飛び、しかも――その途中でボールは分裂。10個もの球が一斉に、エリスに襲い掛かります。

「ジャマ……! ジャマ……!! イナクナレレェエエエエエ!!」
「そういう訳にはいかないわ。あたしはまだ17年しか生きていないし、貴女を救済しないといけないんだもの」

 エリスは杖を下から上へと振り上げ、ふぅと、正面に向かって息を吹きかけます。そうすれば彼女の背後に巨大な魔法陣が現れ、そこから小型の鍵が勢いよく飛び出しました。
 直径10センチほどの、10個の真っ黒な鍵。それらはそれぞれが吐息を追うように宙を進み、両者の中間地点でボールと激突。真正面からぶつかり合った計20個の物体は全てがその場で地面に落ち、負霊の攻撃は相殺されてしまいました。

「ギイ……!? ジャマ、サレ、タア……! ジャマ、サレタア……!!」
「そうね。邪魔をして、貴女の攻撃は失敗に終わった。だから、今度はあたしが攻撃をする番。…………まずは、負霊の貴女から救済をするわ」


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