黒い鍵の令嬢と陰陽師執事は、今夜も苦しむ魂を救う

柚木ゆず

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エピローグ

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「お嬢様。橋本様も加藤百合あの者 も、あるべき道を進み始めたようです」

 とある県の中央部内の、とある場所。そこに存在する広大な私有地の中に建つ築100年超の洋館。全3階で構成された巨大な建物の一室では、今日も品の良い香りが漂っていました。
 大理石のテーブルにカモミールを置く美男は、安倍蓮。式神の力を借りて『遠視』を行っていた彼は、にこやかに日記をつける少女と謹慎を告げられ大暴れをする少女、そんな2人のその行動に至る経緯を語りました。

「そう、それは良かったわ。偽装を繰り返した者が偽装に遭い、作り上げてきたものを失ってゆく。滑稽であり至当ね」

 目の前にあるカップを優雅に持ち、微笑を携える金髪碧眼の美少女。彼女は、宝城エリス。
 この館の主であり、人々からは『生きた奇跡』と呼ばれる美貌の持ち主であり、救済と回帰を実行したその人でした。

「………………ん、今夜のものは輪をかけて美味しいわ。決して風味の邪魔はしない、優しい甘さが――貴男の内心が、味に溶け出ているんだもの」
「善の破滅が回避され、悪へと因果が応報した。それはやはり何度経験しても、喜ばしい事でございます」
「ええ、そうね。あたしも、まるで同じ。今夜は気分が良くて、ついつい食が進んでしまうわ」

 エリスと蓮。2人の行動の原動力は、一族の使命――力を持つべき者の義務感、ではありません。
 負霊の発生する仕組みはおかしい。罪がない者を救いたい、罪がある者に正しい罰を与えたい。
 そういった気持ちで動いており、エリスもまた、この事実が幸せなのでした。

「蓮。特製ミルフィーユを、もう2つ持ってきてもらえるかしら。今夜は貴男も一緒、2人でお祝いしましょ」
「畏まりました。どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとう。正しき未来に、乾杯」
「はい。正しき未来に、乾杯」

 エリスと蓮は皿に載ったミルフィーユを小さく上げ、向かい合う形で食して微笑み合う。
 その様子はまさに、名画のよう。そんな場面を作った者の1人、エリスは満足げに頷き、口内を再びカモミールで潤します。
 そうして今一度喜びを味わい英気を養っていると、午前の2時を回って――。それを合図にして、エリスはソファーから立ち上がりました。

「お嬢様」
「ええ、今夜も『生まれた』わ。発生地点は、座標はXが26585でYが47642。北西の方角へと進んでいるわ」

 いつの間にか右手に携えていた黒色の鍵を額に当て、エリスは負霊の姿を『捜索』。僅か数秒でターゲットを正確に特定し、首を9時の方向へと動かしました。

「この負霊の怨みが注がれている相手は、そこの家の住人ね。蓮、X25003、Y45644の座標に飛ぶわ」
「X25003、Y45466でございますね。畏まりました」

 素早く復唱した彼は懐から1枚の呪符を取り出し、瞑目して「転」と呟きます。そうすれば札に記された文字が発光し、2人の足元に大きな魔法陣が展開。五芒星が描かれたその陣はやがてまばゆく輝き、

「あたし達が行くから、もう大丈夫よ。必ず貴女を助けるわ」

 今宵もエリスと蓮は、救済と回帰を行うのでした。






 ※本編は完結しましたが、明日から後日談などの番外編を投稿させていただきます(こちらの注釈は1日後に消させていただきます)。
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