黒い鍵の令嬢と陰陽師執事は、今夜も苦しむ魂を救う

柚木ゆず

文字の大きさ
32 / 32

後日譚 エリスと蓮。二人の日常と、とある感謝(5)

しおりを挟む
「お嬢様。おはようございます」
「蓮、おはよう。今日の夢は、良い夢だったわね」

 午前0時半丁度。ベッドから降りたエリスは口元を緩め、傍にいる彼もまた、同様の表情を作っていました。

 ――負霊からの感謝――。

 負霊が誕生した場所の龍脈、誕生した際の星の位置、月の満ち欠け、六曜。そして現在の、星の位置、月の満ち欠け、六曜などなど。様々な条件が整うとこういった風に、負霊が夢の中に現れる事があるのです。
 救済した負霊は、『逆行回路(リターン)』によって、還っています。しかしながら数々の要素の後押しを受けて、想いを伝えに来てくれる。
 故に発生確率は、極稀。宝城家と安倍家では、奇跡と呼称される現象なのです。

あの子橋本涼子の負霊にとって、あのラケットとボールは凶器ではなくなった。変わった、元に戻れた。本体と違って、負霊の安堵は滅多に目視できないから――。頬が大きく緩んでしまうわね」
「はい。目を閉じるとあの光景が鮮明に蘇り、更なる原動力となります」

 宝城エリスと安倍蓮。2人は家の――代々の使命であり責務として、活動してはいません。

 罪なき者を助けたい。負の連鎖を発生させたくない。

 その一心で、日々動いています。そのため2人の表情には、穏やかでありながら強い力が漲っていました。

「あの夢のおかげで、今夜は寝覚めがいいわ。……さて、準備をしましょうか」

 いつもより意識が鮮明な状態でシャワーを浴び、いつもよりも軽快な蓮による『セッティング』を経て、準備は完了。その後はいつものように紅茶、そしてラングドシャクッキー――蓮謹製のお菓子でエネルギーを蓄え、時間は午前2時に。室内にある掛け時計、その短針がⅡをさすと、エリスがソファーから立ち上がりました。

「お嬢様」
「残念な事だけれど、嬉しくもある報告よ。X13531、Y47971で『生まれた』わ」

 今夜もまた、心なき者によって負霊が発生させられました。
 ですがこれは、救済の機会――苦しみを絶つ機会でもあります。それ故に2人の顔には、悲痛の色はありません。

「対象はX13614、Y47111に向かっているわ。相手との距離は、かなり近い。急ぎましょ」
「承知致しました。『転』」

 蓮は素早く呪符を構え、足元に五芒星を展開。黒鍵・ノワールを携えたエリス達は瞬く間に光に包まれ、

「あたし達って意外と、感情が直結しやすいの。だから、いつもより更に安心して頂戴ね。必ず貴女を救済するわ」

 エリスと蓮は、今宵も堕ちた魂を救済するのでした。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

見える私と聞こえる転校生

柚木ゆず
児童書・童話
「この中に、幽霊が見える人はいませんか?」  幽霊が見える中学1年生の少女・市川真鈴のクラスに転校生としてやって来た、水前寺良平。彼のそんな一言が切っ掛けとなり、真鈴は良平と共に人助けならぬ幽霊助けをすることになるのでした――。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

戦場に咲く花

紫 李鳥
児童書・童話
ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニが共演した映画、『ひまわり』をイメージしました。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

処理中です...