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第2話 アンジェリクが去ってから~当日~ 俯瞰視点
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「……アンジェリクは行ってしまったか」
「あらあなた。そんな顔してどうしたの?」
「お父様、今にも泣き出しそうになっていますわ。やっぱりあんな融通の利かない人間でも、居なくなったら寂しいものですの?」
「…………そうだな。とても寂しい。寂しいから、アンジェリクのことは忘れてパーティーでもしようじゃないか」
苦しそうに歪んでいた父セザールの顔を妻クリステルとブランディーヌが覗き込むと、セザールはがっくり肩を落としたままトボトボと歩き出しました。
「美味しいものを食べて美味いワインを飲まないと、アンジェリクのことは忘れられそうにない……。クリステル、ブランディーヌ……。お前達も付き合ってくれるか?」
「…………ねえ、あなた。単に美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲みたくなっただけじゃないの?」「…………ねえ、お父様。単に美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲みたくなっただけでは?」
「なにを言う!! そんなわけ……そんなわけ…………あるに決まっているじゃないかっ!!」
否定するべく左方向に動きかけていた首が急に真下へと動き、そんな変化を見ていたクリステルとブランディーヌは仲良くプッと噴き出しました。
「今日はついに邪魔者が居なくなって、おまけにソイツが大量の宝物を残して去ったという記念すべき日なのだぞっ。食べて飲んで祝いたくなるのは当たり前だろう?」
「そうね。当然ね」
「ですわね。至当ですわ」
「当たり前、当然、至当で、全員一致だな。となれば今宵の宴は長くなる。お前達、覚悟しておくのだぞ!!」
「お父様こそ、覚悟してくださいまし!!」
「もう、あなた達ったら。何を覚悟するのよ」
3人は上機嫌で屋敷内へと戻り、まもなく楽しい楽しいパーティーが幕を開けました。
「いや~、美味い! こんなにも美味いものを食べたのは初めてだ!」
「私(わたくし)もよ! 色々食べてきたけれど、こんなに美味しい料理は初めて食べるわ!」
「どれも食べたことがあるもののはずなのに、今までと全然違いますわっ! 頬っぺたが落ちてしまうっ、とろけてしまいますわぁ!!」
空気を読まずに家族の輪を乱す口うるさい邪魔者がいなくなり、しかもその邪魔者が持っていた『使っても使っても減ることはない魔法の宝箱』を我が物にできた。これ以上に幸せなことはなく、そんな状況が食事の美味しさをいつもの5割増しにしていました。
「はははははっ! 美味いっ、美味い! 幸せだ!!」
「ええっ! 幸せだわ!!」
「はいっ。幸せですわ!!」
顔を綻ばせながらグラスを合わせ、お腹を抱え笑い合う。
そんな3人は、まだ知りません。
こんな日常は、すぐに終わりを告げてしまうことを――。
「あらあなた。そんな顔してどうしたの?」
「お父様、今にも泣き出しそうになっていますわ。やっぱりあんな融通の利かない人間でも、居なくなったら寂しいものですの?」
「…………そうだな。とても寂しい。寂しいから、アンジェリクのことは忘れてパーティーでもしようじゃないか」
苦しそうに歪んでいた父セザールの顔を妻クリステルとブランディーヌが覗き込むと、セザールはがっくり肩を落としたままトボトボと歩き出しました。
「美味しいものを食べて美味いワインを飲まないと、アンジェリクのことは忘れられそうにない……。クリステル、ブランディーヌ……。お前達も付き合ってくれるか?」
「…………ねえ、あなた。単に美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲みたくなっただけじゃないの?」「…………ねえ、お父様。単に美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲みたくなっただけでは?」
「なにを言う!! そんなわけ……そんなわけ…………あるに決まっているじゃないかっ!!」
否定するべく左方向に動きかけていた首が急に真下へと動き、そんな変化を見ていたクリステルとブランディーヌは仲良くプッと噴き出しました。
「今日はついに邪魔者が居なくなって、おまけにソイツが大量の宝物を残して去ったという記念すべき日なのだぞっ。食べて飲んで祝いたくなるのは当たり前だろう?」
「そうね。当然ね」
「ですわね。至当ですわ」
「当たり前、当然、至当で、全員一致だな。となれば今宵の宴は長くなる。お前達、覚悟しておくのだぞ!!」
「お父様こそ、覚悟してくださいまし!!」
「もう、あなた達ったら。何を覚悟するのよ」
3人は上機嫌で屋敷内へと戻り、まもなく楽しい楽しいパーティーが幕を開けました。
「いや~、美味い! こんなにも美味いものを食べたのは初めてだ!」
「私(わたくし)もよ! 色々食べてきたけれど、こんなに美味しい料理は初めて食べるわ!」
「どれも食べたことがあるもののはずなのに、今までと全然違いますわっ! 頬っぺたが落ちてしまうっ、とろけてしまいますわぁ!!」
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「はははははっ! 美味いっ、美味い! 幸せだ!!」
「ええっ! 幸せだわ!!」
「はいっ。幸せですわ!!」
顔を綻ばせながらグラスを合わせ、お腹を抱え笑い合う。
そんな3人は、まだ知りません。
こんな日常は、すぐに終わりを告げてしまうことを――。
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