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第4話 アンジェリクが去ってから~7日後~ 俯瞰視点(2)
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「? ブランディーヌ、どうした?」「ブランディーヌ? どうしたの?」
「…………頭が痛い、ですわ……」
馬車の前で突如顔を歪め、直後に座り込んでしまった理由。それは、激しい頭痛でした。
「眉間の辺りが、異常に痛い……。頭痛とか、片頭痛のような痛みではなくて……。目を使い過ぎた時の、眼精疲労の痛みに似ていますわ……」
「そ、そうか。それは不幸中の幸いだ。眼精疲労と同じような痛みならば、このまま出掛けられそうだな」
「そうね、それなら出掛けられるはず。大丈夫よね、ブランディーヌ?」
セザールもクリステルも、ブランディーヌを宝物のように大切に想っていました。
ですが今日は、心待ちにしていた観劇の予定があります。今回ばかりは愛娘よりも私用を優先したくなり、顔を覗き込みました。
「………………そう、ですわね。大丈夫、だと……。思いますわ」
「よかった! では行くとしよう!」
「よかった、ホッとしたわ。さ、ブランディーヌ、この手に捕まって。乗りましょ」
「は、はい。……待ちに待った、ミュージカルなんですもの。絶対に行きますわ。なにがなんでも――だ、駄目ですわ……」
たとえ倒れそうになっていたとしても、這ってでも行きますわ――。そう思っていたブランディーヌでしたが、頭痛が酷すぎて立ち上がることができませんでした。
「目と目の……眉毛と眉毛の間が、ズンズンと痛みますの……。立てそうに、ないし……。こんな状態なら…………ミュージカルなんて、観れませんわ……」
「…………そこまで、なのか。なら、仕方ないな……」
「そうね、あなた。ブランディーヌにはお留守番をしてもらいましょうか」
セザールにとってもクリステルにとっても、ブランディーヌは宝物。アンジェリクと違って、目に入れても痛くないほどの大切な存在でした。
しかしながら今日は、心待ちにしていたミュージカルがある。ここでも『娘有線』とはならず、セザール達は自分だけ参加することにしたのでした。
「留守番!? わたくしだけ観れないなんて嫌ですわ!! お父様とお母様だけ楽しめるだなんてっ、ズルいですわ! 一緒に居てくださいまし!!」
「お前はお前自身の不調によって、参加できなくなっているのだ。気持ちは分かるが、それはできん」
「そうよ。それに全員不参加になったら、空席が目立ってしまって劇団にも失礼になってしまうわ。我慢してちょうだい」
「空席が2つくらい増えても大して変わりませんわ!! 嫌っ! 嫌だ!! わたくしだけ行けないなんてっ、嫌ですわ!!」
自分は観えないのに傍に観た人がいること。感想などを言い合う姿を見なくてはならないといけないこと。などなど。
たくさんの理由――自分勝手な理由で駄々を捏ね、力を振り絞ってセザールとクリステルの服を引っ張ります。
「行かないで!! 行っちゃ駄目!! 卑怯ですわ!!」
「これのどこが卑怯なのだっ。離さんかっ!」
「私達まで巻き込まないで頂戴! 離しなさいっ!」
2人はブランディーヌの手を払って歩き出し、娘の絶叫と怒声を背中で聞きながらステップに足をかけ――
「ぐ!?」
「ぅ!?」
――た、その瞬間でした。2人の顔もまた突如歪み始め、揃ってその場に座り込んでしまったのでした。
「…………頭が痛い、ですわ……」
馬車の前で突如顔を歪め、直後に座り込んでしまった理由。それは、激しい頭痛でした。
「眉間の辺りが、異常に痛い……。頭痛とか、片頭痛のような痛みではなくて……。目を使い過ぎた時の、眼精疲労の痛みに似ていますわ……」
「そ、そうか。それは不幸中の幸いだ。眼精疲労と同じような痛みならば、このまま出掛けられそうだな」
「そうね、それなら出掛けられるはず。大丈夫よね、ブランディーヌ?」
セザールもクリステルも、ブランディーヌを宝物のように大切に想っていました。
ですが今日は、心待ちにしていた観劇の予定があります。今回ばかりは愛娘よりも私用を優先したくなり、顔を覗き込みました。
「………………そう、ですわね。大丈夫、だと……。思いますわ」
「よかった! では行くとしよう!」
「よかった、ホッとしたわ。さ、ブランディーヌ、この手に捕まって。乗りましょ」
「は、はい。……待ちに待った、ミュージカルなんですもの。絶対に行きますわ。なにがなんでも――だ、駄目ですわ……」
たとえ倒れそうになっていたとしても、這ってでも行きますわ――。そう思っていたブランディーヌでしたが、頭痛が酷すぎて立ち上がることができませんでした。
「目と目の……眉毛と眉毛の間が、ズンズンと痛みますの……。立てそうに、ないし……。こんな状態なら…………ミュージカルなんて、観れませんわ……」
「…………そこまで、なのか。なら、仕方ないな……」
「そうね、あなた。ブランディーヌにはお留守番をしてもらいましょうか」
セザールにとってもクリステルにとっても、ブランディーヌは宝物。アンジェリクと違って、目に入れても痛くないほどの大切な存在でした。
しかしながら今日は、心待ちにしていたミュージカルがある。ここでも『娘有線』とはならず、セザール達は自分だけ参加することにしたのでした。
「留守番!? わたくしだけ観れないなんて嫌ですわ!! お父様とお母様だけ楽しめるだなんてっ、ズルいですわ! 一緒に居てくださいまし!!」
「お前はお前自身の不調によって、参加できなくなっているのだ。気持ちは分かるが、それはできん」
「そうよ。それに全員不参加になったら、空席が目立ってしまって劇団にも失礼になってしまうわ。我慢してちょうだい」
「空席が2つくらい増えても大して変わりませんわ!! 嫌っ! 嫌だ!! わたくしだけ行けないなんてっ、嫌ですわ!!」
自分は観えないのに傍に観た人がいること。感想などを言い合う姿を見なくてはならないといけないこと。などなど。
たくさんの理由――自分勝手な理由で駄々を捏ね、力を振り絞ってセザールとクリステルの服を引っ張ります。
「行かないで!! 行っちゃ駄目!! 卑怯ですわ!!」
「これのどこが卑怯なのだっ。離さんかっ!」
「私達まで巻き込まないで頂戴! 離しなさいっ!」
2人はブランディーヌの手を払って歩き出し、娘の絶叫と怒声を背中で聞きながらステップに足をかけ――
「ぐ!?」
「ぅ!?」
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