すべてを捨てても君だけを 〜魔女の贖罪 PROLOGUE〜

秋草

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待ち伏せ

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「ねえ、空音……校門にいるのってさ、この前集団で喧嘩してた不良の一人じゃない……?」
「へえ?」

 部活がない日の下校時刻、正門には明らかに誰かを待っている様子の彼がいた。誰もが小走りに校門を通り抜けていく中で、校舎の方をじっと見ながら門前のガードレールに寄りかかっている。何をしているか、なんて聞くまでもない。

「空音、あんた……あの人と話してなかったっけ? あの人が待ってるのって……」
「いやーまさかまさかだよ、ははは。……念のため今日は裏門から帰ろう」

 あの喧嘩を見て、何を思ったか恐れを知らずに不良相手に物申してしまった身としては命の危機を感じて当然だ。正面から行こうものなら、すぐに捕まってどんな目に遭うかわからない。
 裏門へは校舎裏に通じる扉から向かった。普段こんなところを使うのは遅刻をした生徒か、タバコを吸いに出る先生くらいだ。現に人気のないその扉を開けた先では、他学年の数学教師がタバコ片手に黄昏れていた。

「お、こんなところからどうした?」
「ははは、お構いなく」

 若干の気まずさを代償にしたその日は、その甲斐あってなんとか無事に帰れた。
 しかし、その翌日。問題は終わっていなかった。

「ねえ空音、またいるんだけど」
「きょ、今日は部活あるし! 文化部だから外に出ないし安全だしきっとそのうち帰るよ!」

……まあ、そんな希望は希望でしかないのだけど。
 部活の時間になってから、私と陽奈は部員と共に家庭科室にいた。いや、部活自体は美術部なので家庭科室になど用はないのだけど、部員によって「今日は家庭科部が焼き菓子作りをしているらしい」という情報がもたらされたためにここにいる。わざわざ下の階から、お菓子欲しさに集団で押しかけた美術部員に対して、家庭科部の人達は親鳥のような目で自分達のお菓子を分けてくれた。美術部員一同が完全に子供扱いだ。
 そんな中であの話が出てきたのは、揃ってお菓子を頬張っているときだった。

「空音、知ってる? 昨日から校門で不良が誰かを待ってるらしいって話」

家庭科部の友人が窓の外をのぞき、振り向きざまに話をふってきたのだ。

「う、うん。でもほら、きっと今日は部活ある日だからさ、飽きてそのうち帰るよ」
「え、もしかしてあの人が待ってるのって空音なの?」

 そして下校時刻、正門の様子は少しも変わっていなかった。石像なのかなと思うくらいにじっと動かず、ひたすら校舎側を睨んでいる……らしい。私がいると万が一にもバレたらまずいので、陽奈が二階の窓から確認してくれた。
 まさか二日連続で気まずい裏門を使うとは思わなかったが、背に腹はなんとやらだ。

 さらにその翌日、朝。

「空音、あんたいよいよヤバくない? 朝から待ち伏せされるってさ」

 不良はついに、朝の正門を遠巻きに見つめるようになっていた。登校時刻の混雑に気を遣ってはいるのか、なるべく邪魔にならなそうな隅に佇んでいる。そうはいっても見た目は怖いので、なぜ先生に咎められないのか不思議でならない。

「裏門から入ろう。遅刻した人くらいしか使わないから、今なら誰もいないよ」

 陽奈と話して向かった裏門では、今日も数学教師が朝からタバコをふかしていた。この先生は絶対ヘビースモーカーだ。

「おはよう。もうそんな時間か」
「いや、遅刻じゃないですからね」


 その日の下校時刻。

「いるね……」
「いるね。裏門から帰、」
「空音ー!」

 今日もこのまま、と思った矢先に校庭側から声がかかり、陸上部の女子が半泣きで昇降口に駆け込んできた。美術部は部活のない日だけど、他の部活は基本的に平日は毎日ある。美術部が緩いだけだ。

「蛇が、蛇がいるの! なんとかしてよ空音!」

 何事かと思えばこれだ。蛇の相手など、私だってしたことはない。というか、今このタイミングで出ていこうものなら……

「無理無理無理、今ここから出たら目をつけられるから!」
「なんの話してるの! こっちは毒蛇かもしれなくてまともに部活もできないのに!」
「いや毒蛇だったら私もなんにもできないよ!?」

 あと普通に蛇は好きではない。

「お願い! 今先生たち会議中で、退治をお願いできる人がいないの! 空音だったらいつもなんとかしてくれるじゃん!」

 たしかに、私は性格が災いして何でも屋的存在になってはいる。なってはいるが、なぜ顧問の先生ではなく私を呼ぶのだろうか。

「お願い~!」

 せっかくこそこそと靴を回収しにきていたのに、こうも泣きつかれてはどうしようもない。
 覚悟を決めて、でもしっかり友人達に姿を隠してもらいながら校庭に飛び出す。そして蛇を退治し終わってから、正門を見てみた。

「あんた終わったね。完全に、こっち見られてる」

 この時に見つかったのが運の尽き……いや、既に運が尽きていたことを思い知らされたのだ。そう心から思ったのはこの後すぐ、裏門に行ってからだった。
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