すべてを捨てても君だけを 〜魔女の贖罪 PROLOGUE〜

秋草

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対面

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 それは紛うことなき悪魔との対面だった。

「よお」
「ひえ」

 待ち伏せの時に輪をかけて不機嫌な顔。この人は目で人を殺せるかもしれない。

「一昨日、昨日と門の前でどんだけ待っても来ねえから、休んでるかと思った。まさか裏門を使ってまで逃げられていたとはな」

 煉獄から響く地鳴りのような声。こんな声で話しかけられては滲んだ涙も引っ込むというものだ。

「だだだだって、会ったら絶対殺されるじゃないですか! 報復の待ち伏せなんて、喜んで応じると思いますか!」
「報復? なんで俺がお前にそんなことをする必要がある」

 スッと細められた目に睨まれ、思わず震え上がる。やっぱりこの人は私を殺、

「惚れた女を捕まえる目的以外で、こんな粘ったりしねえよ」
「…………え?」

 ほれた……ホレタ?

「あんた、カラネって名前なんだな。ついでだから名字も教えろよ」
「だ、ダメです!」

 名前をフルで教えてしまったが最後、なんらかの手段を用いて家まで特定され人知れず刺されるのだろう。そんなのは、絶対に嫌だ。

「……わかった。それなら、教えてくれるまで会いに来る」
「え、いやそれは」
「教えてくれるまで、じゃないな。付き合うと言ってくれるまで来るから」

 付き合うとは、一体何に付き合わされるのだろう。まさか、喧嘩に付き合わされる? いや、それはどんな拷問だろうか。

「今日はダチもいるみたいだし帰るけど、また明日くるから」

 私の両隣を一瞥してからまっすぐに私を見るその目は、胸の奥がキュッと締まるような熱をはらんでいる気がした。その時はその熱の意味と彼の言葉がうまく飲み込めなくて、去っていく背中をぼうっと見送るしかできなかった。
 その後、自宅に帰って落ち着いてから、「惚れた」と「付き合う」という単語が繋がって一人情緒不安定になっていたことは、言うまでもないだろう。



 「また明日」と言われたその翌日、本当にその人は朝から裏門の前で私を待っていた。わざといつもより1時間も早く学校に来たのに、何をするでもなく校門を眺めている。

「どうする? 正門に回る?」

 早い登校に合わせてくれた友人が不安げに言ってくれたけれど、なんとなくそれも意味がない気がした。現に、友人が提案してくれた側から彼の目がこちらに向いてしまった。

「カラネ、おはよう」

 感情の読み取れない表情で、友人に一瞬目を向けてこちらに歩み寄ってくる。

「今日は早いんだな」
「あ、えっと、ちょっとやることがあって……」
「そうか……朝から顔見れて良かった。また夕方に来る」

 それだけ言って去っていった彼を見送り、あっけない展開に友人と顔を見合わせる。そのあっけなさに驚くと同時に感じたのは、終わりの見えない長期戦になるような予感だった。

 そして放課後、部活への参加をとりやめて正門を覗くと、あの人の姿はなかった。流石に先生から不審者扱いされて、追い払われたのかもしれない。いや、単に裏門にいるだけかもしれないけど。

「今日は正門から帰ろう」
「で、でも、また裏門で待っていたら待ちぼうけ、」
「何言ってるの空音、相手は不良だよ? 平気で人を殴って、あんなにめちゃくちゃできる人なんだよ? 危ない人に関わっても良いことないよ」

 不良は危ない……陽奈の言っていることは至極真っ当なことだ。それはわかっているけれど、それでも彼がいる方に振り向いてしまう自分がいる。

「そう、だね。正門から帰ろう」

 自分の勝手な感情よりも友人の正論に従おう、と曖昧に口角を上げて頷く。そうして正門を出ようとしたところで、裏門への道からひょっこりその人は現れた。

「やっぱり、こっちにいた」
「な、なんで」
「なんとなく」

 野生の勘がすぎる。

「カラネ、もう帰るんだろ?」
「ねえ、あんたさ」

 癖になっているらしいその高圧的な声音にびくついた私の前に、陽奈が怖気付くこともなく仁王立ちした。自分よりも背が高いその人をまっすぐ見上げる姿は、同性だろうが惹かれてしまうかっこよさがあった。

「あんたさ、空音に付き纏ってなんなの? 毎日毎日学校で待ち伏せされて、こっちは本当に迷惑してるんだけど」

 腕を組み負けじと声を低くする陽奈に対して、その人は少しだけ眉を顰めて私を睨んだ。

「カラネに会いに来てるだけだ。別に誰とも喧嘩はしてない」
「あんたの見た目が怖過ぎて周りが全員怖がってるの、知らないわけ?」
「見た目……カラネ、俺が怖いか?」

 本音、言って良いのだろうか。それはもちろん怖い、すごく怖い。
 思わず小さく頷けば、彼は少しの間黙り込んで「そうか」と目線を落とした。

「また来る。……気をつけて帰れよ」
「あんたが一番危ないのよ」

 陽奈の追撃に何も返さず、踵を返したその背中……それが少しだけ寂しそうに見えたのは、きっと私の思い違いだ。


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