すべてを捨てても君だけを 〜魔女の贖罪 PROLOGUE〜

秋草

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それから

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 剣城烑、彼が花咲高校の受験を約束してから、早くも1ヶ月が過ぎた。剣城さんは最初の数日だけ制服姿で毎朝毎夕姿を見せていたけれど、ある日神妙な面持ちで告げた。
「朝に先コ、先生に勉強を見てもらえることになったから、これからは夕方からしか来られない」
 制服で現れるようになったので学校に行っていることは分かっていたものの、ここまで一気に励み出すとは思わなかった。
「ああ、はい、その、頑張ってください?」
 夕方にも来なくて良いです、ではなくつい応援するようなことを口走り、言った側から動揺して語尾が疑問形になってしまった。それでも剣城さんは一瞬きょとんとしてから、満面の笑みで去っていった。これは、失態だったかもしれない。偶然陽奈が寝坊して同行していない日で良かった。
 その日から、夕方だけは毎日欠かさず校門前に訪れる日々が始まってひと月後の今日この頃、陽奈は上機嫌な鼻歌と共に、スラスラとペンを動かしていた。今は期末テストに向けて部活が全面中止になっていて、1週間後のテストが終わればまもなく夏休みに突入する。そのため私達も部室には行かず、自習室と化した教室で机を並べていた。
「陽奈、ここ数日機嫌が良いね」
 テスト勉強に励む友人の横で、私も同じように教科書を開きながら声をかかける。陽奈はといえば、よくぞ聞いたと言わんばかりのニヤけ顔を私に向け、満足げに腕を組んだ。
「それはもう。だってここ数日、朝にも夕方にもストレスがないから!」
「ストレス」
 実はここ数日剣城さんの顔を見ていないので、陽奈には快適な日常のようだ。私としては、時には息を切らしながらでも夕方の訪問を欠かさなかったことを考えれば、何かあったのかと少しだけ心配になるのだけど。心配するべき状況でないことは分かっていても、だ。
「このまま卒業まで来なくなると良いわね」
 そう言っていると来るのだろうな、と思いつつも口には出さず、曖昧に笑って済ませた。いや、決して会いたいと思っているわけではない。そうではないけれど、休みの日以外は毎日顔を合わせていたので、今の状況に違和感がある。
「テスト、早く終わらせたいね」
 無意識に呟いて教科書に向き直る。そこからは私語もなく、先生から帰宅の指示が出るまで勉強に没頭した。


*****


それから2週間経ち、テストを終えた私達の元に続々と採点結果が返ってきていた。結果としては、私も陽奈も概ね良好だ。
「空音、これで気兼ねなく打ち上げケーキパーティーができるね!今日早速行こうか!」
 このケーキパーティーは毎回の定期テスト恒例となっている、私と陽奈の定期イベントだ。私と陽奈が好きなケーキ屋さんでケーキの食べ放題を頼み、結果が悪ければ慰め合い、良ければ讃えあう会となっている。
「そうだね、行こう!」
「最高!また終礼後に!」
 教室に入ってきた担任の先生の号令で慌てて席へと戻っていく陽奈を見送り、ケーキ楽しみだな、と口端を上げた。と、その時脳裏によぎったのは、他でもない、剣城さんの笑顔。ケーキよりもそちらが浮かんだことが自分でも意外で、思わず両手で顔を覆う。

 ケーキ、か。あの人は甘いもの、好きなのだろうか。

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