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虫は火を焚き追い払うに限る
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くしゅん、と、目の前の友人がくしゃみをした。きっと気まぐれに吹いた冷ややかな風にやられたのだろう。
「はい、これ」
バッグを漁って薄手のカーディガンを渡せば、水咲(みさき)は素直に受け取っていそいそと羽織った。
「うう、あったかい。ありがとう」
「もう、だから室内の席にしようって言ったのに。どうしてテラス席にしようなんて言い出したの」
呆れを隠さない私の苦言には彼女の頬がぷくりと膨れ、そのままじっとりと睨まれた。そんな顔をされたところで、可愛いだけで少しもたじろぎはしないのだけど。
「だって、せっかく綺麗な景色なんだよ! 窓際の席が埋まっていた以上、室内にいるなんてもったいないことできないよ!」
たしかにこの公園、今この季節はなかなかに見応えのある眺めとなっている。石造りの大噴水は華やかに水を噴き上げ、訪れた人々を包み込むようにそびえる木々が鮮やかに紅葉しているのだ。ベンチに腰掛けている人々も含め絵画的な光景であることは認めるけれど、それでも私は屋内が良かった。馴染みの公園の景色など、私にとっては寒さに耐えてまで求めるものではない。
「はいはい、それなら早く飲み干しなよ。歩いた方が温まるでしょ」
「猫舌だって言ってるじゃん!」
「せっかち~」などと文句を言いながらもココアのカップに口をつけた友人を、私はただ微笑んで見守った。こんな可愛い女の子、男が放っておくわけがない。それなのに微塵も男の気配がないとは、世の中不思議なこともあるものだ。
「ねえ、好きな人とかいないの?」
「えっ、何急に? いるといえばいるけど……」
「いるの!? 誰、誰?」
「ふふ、玲奈(れいな)」
玲奈……ああ、私のことか。
「いやそうじゃなくて。友達としてじゃなくて恋愛としてだよ?」
「ええ? ……いないなあ」
脈絡のない問いかけにキョトンとしながらも答える彼女のなんと愛らしいことか。私が女性を恋愛対象にする人間だったら、間違いなく陥ちている。
しかし、好きな人がいないとなると恋人ができるのはまだ先……となれば、友人の私くらいしか彼女を守れる人がいない。それはあまりに危険ではないだろうか。現に今この瞬間も、私は謎の視線を感じていた。
「水咲、なんか嫌な視線を感じるから、早く移動しない?」
執拗な視線に耐えかねて言えば、友人はココアに息を吹きかける姿勢のまま目を丸くした。
「えっ、そんな感じる?」
「感じるよ、水咲が鈍感なだけ」
こんなにはっきり感じるのだ、よほど不審者は彼女に執着しているに違いない。それだというのに、友人は相変わらず気の抜けた顔でため息をつくだけだった。
「今の状況分かってる? 危ないかもしれないんだよ?」
思わず棘のある声を発すると、彼女はへにゃりと笑ってスマホを取り出した。
「ちょっと待っててね。うーんと……」
画面に指を滑らせ、目当てを見つけてタップをする。そしてそのまま、どこかに電話をかけ始めた。まさか、正体も分かっていないのに警察に連絡していたりして。
「——あ、出たでた。まさかとは思うんだけどさ、今も近くにいたりする?」
近くに知り合いがいたのね。警官の知り合い、とか?
「やっぱりね。私の友達が気味悪がってるから、今日はやめてくれない? ……やめないかあ。それなら一度出てきて、ちゃんと自分から事情を説明して」
何やらよくわからない状況になった。今日はやめて? 何をだろう。
「ごめんね。今出てくるって言うから、待ってあげて」
出てくる? 一体どういうことだろうか。
友人の落ち着きようも話の内容も理解できないまま、束の間の沈黙が訪れる。と、ぱたぱたと足音が近づき、「あのう」と声をかけられた。
顔を上げた先にいたのは、私達と同じくらいの歳と思われる穏やかそうな青年だった。なるほど、中々に女子人気の高そうな顔をしている。しかし、おどおどしているわけではないが、気の弱さは感じる男だ。
「あなたは?」
「あ、僕はその、水咲(みさき)さんの知り合いで、」
「ストーカーですってはっきり言ったらどう?」
聞いたことのない冷めた声に思わず隣を見れば、友人はまさにごみを見るような目で青年を見ていた。口元から消えていない微笑がなんとも恐ろしい。何事にも不快な顔一つせずに向き合っている彼女だが、ちゃんと嫌悪の感情はあったようだ。
「ど、どういうこと?」
「ええとね、この人は私のストーカーなの。ずっと後をつけたりされていたんだけど何を言ってもやめてくれなかったから、どうしても後ろをついて来るなら居場所把握のために連絡先を教えてって言ったんだ。GPSをオンにさせてるから、私からはこの人のスマホの場所がすぐわかるようになってる」
「……いや通報しなよ! 不用心とかのレベルじゃないよ!? 連絡先の交換!? 馬鹿なの!?」
ストーカーするような男がまともな訳ないんだから、今は無事でも今後どうなるかわからない。それなのに連絡先を交換しているって……ああもう、どうすればこの子を守り切れるんだろう!
あまりの想定外に思わず声を荒げれば、水咲の緩んだ顔は一瞬でこの世の終わりの如く引きつり、目には瞬く間に涙が溜まった。
「ご、ごめ、」
「謝ったって何にもならないよ!」
何かあってからでは遅い、私に謝ったところで何も解決しない、という想いで返した言葉は、しかし水咲にとっては拒絶に聞こえたらしい。
「うう、やだやだ玲奈、嫌いにならないで!」
恋人に捨てられるのかと思うほど、必死の眼差しで私に手を伸ばす水咲に、流石の私も少し冷静になった。ここがカフェのテラス席であることも同時に思い出し、慌てて周りに目を向ける。うん、ちょうど人がいないタイミングのようでよかった。屋内の席からガラス越しに様子を伺ってくる人はいる気がするけど……この際気にしない。
「この程度で嫌いになる訳ないでしょ、友情舐めんな!」
声を抑えて言い返し、伸ばされた手を握ってあげるだけで水咲の顔は花の綻びを取り戻した。単純というか可愛いというか。いや、そんなことを思っている場合ではない。今はとにかくこの男をなんとかしなくては。
「あんた、いい加減この子をつけ回すのはやめてくれる?」
「無理です。水咲さんは僕の生きがいですから、絶対離れません」
「ならばなぜ普通に付き合おうとしない」
「僕は水咲さんの彼氏になりたいわけではないです。ただ、彼女の生活を見守っていたいと、」
「意味わからない気持ち悪い。水咲、今すぐ通報して。この人いつ何をやらかすか分からないよ」
いや、むしろ私が今すぐ通報してやる。
男の方を睨みながら自分のスマホをバッグから取り出す。と、男は流石に焦ったのか、水咲の方を一瞥してから「待ってください!」と私の方に手を伸ばした。しかし、その手が私に届くことはなく……。
「玲奈に気安く触るんじゃねえよ」
男の手を掴み、容赦なく捻り上げた視界の外からの腕。その男声は私の背後から、前触れもなく放たれた。
捻り上げた手を無造作に放り、空いたその腕をそのまま私に巻き付ける。いきなり何事かと驚くのが普通なのだろうけど、私は今来た男のことを知っているし、神出鬼没なのもいつものことなので平然として見上げた。
「稜(りょう)」
「おはよ、玲奈」
先ほどとはうって代わり蕩けるような甘い声を放ったこの男は、水咲のストーカーとは系統の異なる美形だ。水咲のストーカーが爽やか好青年だとしたら、稜は精悍な顔立ちの美丈夫、といったところだろうか。
「玲奈、得体の知れない男に触らせるなよ」
「触らせる気はなかったけどね」
「まあ、玲奈に触ろうとする奴からは俺が必ず守るけど」
「いつもいるものね」
「そりゃあな。そろそろご褒美のキスくらいしてくれてもいいんだぜ?」
「するわけないでしょ」
こんな会話もいつものこと。しかし友人の水咲には初めて見せた光景だったためか、顔を真っ青にして椅子から立ち上がっていた。
「だ、だ、誰!」
「うん、この人? 稜っていうの」
「彼氏!? 私の玲奈に彼氏がいるなんて聞いてない!」
「彼氏じゃないからなあ」
「えっ、えっ? じゃあ、誰なの?」
「稜は私の、」
「護衛役。いつでも彼女のそばにいる……平たくいえばストーカーかな。はじめまして、玲奈のお友達」
人好きのする笑みを浮かべて挨拶をする稜に対して、水咲はさながら威嚇態勢の子猫のように敵意を剥き出しにしている。
「なっ、なんで玲奈にもそんなのがいるの!? さっきはあんなに私のストーカーに冷たい態度取ってくれてたのに、なんで自分は退かさないの!?」
ストーカー嫌いなんじゃないの? と泣きそうな顔で言われてはなぜか罪悪感が芽生えてくる。何も水咲に悪いことはしてないつもりなのだけど。
「嫌いだよ? だから最初は通報もしてたし実際逮捕もされてるはずなんだけど、いつのまにか出所していつの間にかつきまとってくるから、もう慣れた」
この男は自分が捕まろうが関係ない、私に刺されて死ぬなら本望、などとのたまう異常者だ。真面目に相手をしている方が精神的に参ってしまう。これが稜の思惑通りだとしても、既にどうでもいい。
「水咲のストーカーは絶対に許さない。水咲が嫌なら徹底的に排除するよ。ということでストーカーさん、稜に締められて死にたくなければ、さっさと水咲から離れなさい」
稜は私のストーカーであり、私の最強の切り札でもある。水咲のことを私一人で守り切れないなら、稜にも彼女を守らせるまでだ。
「ねえ、稜? 私の友達も、“私のために”守ってくれるよね?」
「ああ、玲奈の心の平穏のためなら、何でもするさ」
「ありがとう、お願いね」
さあ好青年さん、死にたくなければ早く逃げなさい。
稜は私以外、“どうでもいい”のだから。
「はい、これ」
バッグを漁って薄手のカーディガンを渡せば、水咲(みさき)は素直に受け取っていそいそと羽織った。
「うう、あったかい。ありがとう」
「もう、だから室内の席にしようって言ったのに。どうしてテラス席にしようなんて言い出したの」
呆れを隠さない私の苦言には彼女の頬がぷくりと膨れ、そのままじっとりと睨まれた。そんな顔をされたところで、可愛いだけで少しもたじろぎはしないのだけど。
「だって、せっかく綺麗な景色なんだよ! 窓際の席が埋まっていた以上、室内にいるなんてもったいないことできないよ!」
たしかにこの公園、今この季節はなかなかに見応えのある眺めとなっている。石造りの大噴水は華やかに水を噴き上げ、訪れた人々を包み込むようにそびえる木々が鮮やかに紅葉しているのだ。ベンチに腰掛けている人々も含め絵画的な光景であることは認めるけれど、それでも私は屋内が良かった。馴染みの公園の景色など、私にとっては寒さに耐えてまで求めるものではない。
「はいはい、それなら早く飲み干しなよ。歩いた方が温まるでしょ」
「猫舌だって言ってるじゃん!」
「せっかち~」などと文句を言いながらもココアのカップに口をつけた友人を、私はただ微笑んで見守った。こんな可愛い女の子、男が放っておくわけがない。それなのに微塵も男の気配がないとは、世の中不思議なこともあるものだ。
「ねえ、好きな人とかいないの?」
「えっ、何急に? いるといえばいるけど……」
「いるの!? 誰、誰?」
「ふふ、玲奈(れいな)」
玲奈……ああ、私のことか。
「いやそうじゃなくて。友達としてじゃなくて恋愛としてだよ?」
「ええ? ……いないなあ」
脈絡のない問いかけにキョトンとしながらも答える彼女のなんと愛らしいことか。私が女性を恋愛対象にする人間だったら、間違いなく陥ちている。
しかし、好きな人がいないとなると恋人ができるのはまだ先……となれば、友人の私くらいしか彼女を守れる人がいない。それはあまりに危険ではないだろうか。現に今この瞬間も、私は謎の視線を感じていた。
「水咲、なんか嫌な視線を感じるから、早く移動しない?」
執拗な視線に耐えかねて言えば、友人はココアに息を吹きかける姿勢のまま目を丸くした。
「えっ、そんな感じる?」
「感じるよ、水咲が鈍感なだけ」
こんなにはっきり感じるのだ、よほど不審者は彼女に執着しているに違いない。それだというのに、友人は相変わらず気の抜けた顔でため息をつくだけだった。
「今の状況分かってる? 危ないかもしれないんだよ?」
思わず棘のある声を発すると、彼女はへにゃりと笑ってスマホを取り出した。
「ちょっと待っててね。うーんと……」
画面に指を滑らせ、目当てを見つけてタップをする。そしてそのまま、どこかに電話をかけ始めた。まさか、正体も分かっていないのに警察に連絡していたりして。
「——あ、出たでた。まさかとは思うんだけどさ、今も近くにいたりする?」
近くに知り合いがいたのね。警官の知り合い、とか?
「やっぱりね。私の友達が気味悪がってるから、今日はやめてくれない? ……やめないかあ。それなら一度出てきて、ちゃんと自分から事情を説明して」
何やらよくわからない状況になった。今日はやめて? 何をだろう。
「ごめんね。今出てくるって言うから、待ってあげて」
出てくる? 一体どういうことだろうか。
友人の落ち着きようも話の内容も理解できないまま、束の間の沈黙が訪れる。と、ぱたぱたと足音が近づき、「あのう」と声をかけられた。
顔を上げた先にいたのは、私達と同じくらいの歳と思われる穏やかそうな青年だった。なるほど、中々に女子人気の高そうな顔をしている。しかし、おどおどしているわけではないが、気の弱さは感じる男だ。
「あなたは?」
「あ、僕はその、水咲(みさき)さんの知り合いで、」
「ストーカーですってはっきり言ったらどう?」
聞いたことのない冷めた声に思わず隣を見れば、友人はまさにごみを見るような目で青年を見ていた。口元から消えていない微笑がなんとも恐ろしい。何事にも不快な顔一つせずに向き合っている彼女だが、ちゃんと嫌悪の感情はあったようだ。
「ど、どういうこと?」
「ええとね、この人は私のストーカーなの。ずっと後をつけたりされていたんだけど何を言ってもやめてくれなかったから、どうしても後ろをついて来るなら居場所把握のために連絡先を教えてって言ったんだ。GPSをオンにさせてるから、私からはこの人のスマホの場所がすぐわかるようになってる」
「……いや通報しなよ! 不用心とかのレベルじゃないよ!? 連絡先の交換!? 馬鹿なの!?」
ストーカーするような男がまともな訳ないんだから、今は無事でも今後どうなるかわからない。それなのに連絡先を交換しているって……ああもう、どうすればこの子を守り切れるんだろう!
あまりの想定外に思わず声を荒げれば、水咲の緩んだ顔は一瞬でこの世の終わりの如く引きつり、目には瞬く間に涙が溜まった。
「ご、ごめ、」
「謝ったって何にもならないよ!」
何かあってからでは遅い、私に謝ったところで何も解決しない、という想いで返した言葉は、しかし水咲にとっては拒絶に聞こえたらしい。
「うう、やだやだ玲奈、嫌いにならないで!」
恋人に捨てられるのかと思うほど、必死の眼差しで私に手を伸ばす水咲に、流石の私も少し冷静になった。ここがカフェのテラス席であることも同時に思い出し、慌てて周りに目を向ける。うん、ちょうど人がいないタイミングのようでよかった。屋内の席からガラス越しに様子を伺ってくる人はいる気がするけど……この際気にしない。
「この程度で嫌いになる訳ないでしょ、友情舐めんな!」
声を抑えて言い返し、伸ばされた手を握ってあげるだけで水咲の顔は花の綻びを取り戻した。単純というか可愛いというか。いや、そんなことを思っている場合ではない。今はとにかくこの男をなんとかしなくては。
「あんた、いい加減この子をつけ回すのはやめてくれる?」
「無理です。水咲さんは僕の生きがいですから、絶対離れません」
「ならばなぜ普通に付き合おうとしない」
「僕は水咲さんの彼氏になりたいわけではないです。ただ、彼女の生活を見守っていたいと、」
「意味わからない気持ち悪い。水咲、今すぐ通報して。この人いつ何をやらかすか分からないよ」
いや、むしろ私が今すぐ通報してやる。
男の方を睨みながら自分のスマホをバッグから取り出す。と、男は流石に焦ったのか、水咲の方を一瞥してから「待ってください!」と私の方に手を伸ばした。しかし、その手が私に届くことはなく……。
「玲奈に気安く触るんじゃねえよ」
男の手を掴み、容赦なく捻り上げた視界の外からの腕。その男声は私の背後から、前触れもなく放たれた。
捻り上げた手を無造作に放り、空いたその腕をそのまま私に巻き付ける。いきなり何事かと驚くのが普通なのだろうけど、私は今来た男のことを知っているし、神出鬼没なのもいつものことなので平然として見上げた。
「稜(りょう)」
「おはよ、玲奈」
先ほどとはうって代わり蕩けるような甘い声を放ったこの男は、水咲のストーカーとは系統の異なる美形だ。水咲のストーカーが爽やか好青年だとしたら、稜は精悍な顔立ちの美丈夫、といったところだろうか。
「玲奈、得体の知れない男に触らせるなよ」
「触らせる気はなかったけどね」
「まあ、玲奈に触ろうとする奴からは俺が必ず守るけど」
「いつもいるものね」
「そりゃあな。そろそろご褒美のキスくらいしてくれてもいいんだぜ?」
「するわけないでしょ」
こんな会話もいつものこと。しかし友人の水咲には初めて見せた光景だったためか、顔を真っ青にして椅子から立ち上がっていた。
「だ、だ、誰!」
「うん、この人? 稜っていうの」
「彼氏!? 私の玲奈に彼氏がいるなんて聞いてない!」
「彼氏じゃないからなあ」
「えっ、えっ? じゃあ、誰なの?」
「稜は私の、」
「護衛役。いつでも彼女のそばにいる……平たくいえばストーカーかな。はじめまして、玲奈のお友達」
人好きのする笑みを浮かべて挨拶をする稜に対して、水咲はさながら威嚇態勢の子猫のように敵意を剥き出しにしている。
「なっ、なんで玲奈にもそんなのがいるの!? さっきはあんなに私のストーカーに冷たい態度取ってくれてたのに、なんで自分は退かさないの!?」
ストーカー嫌いなんじゃないの? と泣きそうな顔で言われてはなぜか罪悪感が芽生えてくる。何も水咲に悪いことはしてないつもりなのだけど。
「嫌いだよ? だから最初は通報もしてたし実際逮捕もされてるはずなんだけど、いつのまにか出所していつの間にかつきまとってくるから、もう慣れた」
この男は自分が捕まろうが関係ない、私に刺されて死ぬなら本望、などとのたまう異常者だ。真面目に相手をしている方が精神的に参ってしまう。これが稜の思惑通りだとしても、既にどうでもいい。
「水咲のストーカーは絶対に許さない。水咲が嫌なら徹底的に排除するよ。ということでストーカーさん、稜に締められて死にたくなければ、さっさと水咲から離れなさい」
稜は私のストーカーであり、私の最強の切り札でもある。水咲のことを私一人で守り切れないなら、稜にも彼女を守らせるまでだ。
「ねえ、稜? 私の友達も、“私のために”守ってくれるよね?」
「ああ、玲奈の心の平穏のためなら、何でもするさ」
「ありがとう、お願いね」
さあ好青年さん、死にたくなければ早く逃げなさい。
稜は私以外、“どうでもいい”のだから。
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