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第4章 rebel lane~逆走~
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祐仁から口移しに食べさせられたとき、それはキスの口実かという淡い期待は噛みしめる間もなく砕かれた。祐仁はすべて計算したうえで動いている。
はじめからそうだったのか、離れていた間に変わってしまったのか。いずれにしてもそれが現実で、颯天は駒にしかなれない。それならとことん駒になる。そうやって祐仁の役に立てるなら――というよりは、ただ祐仁に必要とされ、傍にいられるのなら。
「さて、次は今日のメインボーイです」
一つのパートが終わってざわついていた会場が、高らかなその声に静まり返った。
「行け」
颯天のすぐ背後から囁いたのはアンダーサービスの塚元エリートだ。
颯天は従わず、すると、連れていけ、と塚元は傍に控えていた部下に命じた。
「嫌だ」
つぶやいてみると、塚元はじろりと颯天を見やった。
「何を勘違いしているか知らないが、フィクサー直々のスカウトであろうと……いや、そうだからこそ、面子を潰さないよう逆らわないことだ」
事情を知らない塚元は、嘲るようにとまではいかないものの、身の丈を知れと云わんばかりに警告した。
塚元に命じられた男が無造作に背中を押し、颯天はつんのめるようにしてカーテンの合間から小さな舞台へと連れだされた。
会場が俄にそよぐ。扇形の会場は、最後尾に座った者の顔がはっきり見えるほどの広さしかない。それだけ選別された者が集う空間であり、こんなふうに颯天が品評会の出し物扱いをされることは凛堂会にいた頃にもあった。納得したわけではなくとも慣れるしかなかった。
けれどいま、颯天は嫌々ながら舞台の上に立った。黒いマントを羽織り、躰は足首まで隠れているが顔は剥きだしで、段差のある座席に居合わせた参加者たちの目が一斉に集中する。
今日のイベントは、男娼をレンタルするためのオーディションだ。なかには、嫌がるのを手懐けることに嗜好を見いだす者もいる。尻込みする颯天を眺めながら、ほう、と云った声がいくつか聞こえた。
「こちら、ある組織の高級コールボーイでした。引く手あまた、ですが限られた上客しか買うことは叶っておりません。このたび、取引でやっと手に入りました。我々が買いとったくらいです。品質は保証します。仕様をご覧ください」
その言葉と同時に、背後に付き添う男の手が颯天の喉もとにまわってきた。マントの下で手を後ろに括られていて、はねのけることはできない。
次の瞬間、喉もとから裂くようにマントが開かれ、取り去られた。マントの下で身に着けたものはない。羞恥心が一気に颯天を襲う。最初から裸を晒して出るよりも、隠していたものをさらけだすほうが数十倍も恥ずかしい気にさせられる。それをわかってやっているのだ、とわかっていながら平気ではやりすごせない。
あまつさえ――
おお。
と、共通した感嘆のどよめきが客席に広がったのは、颯天のオスが著しく反応を見せたからだ。
羞恥心によって萎えるのではなく、颯天のオスは逆の現象があらわになる。自分でもどうしようもない反応だった。
颯天の躰が被虐を快楽だと捉えてしまうのは祐仁のせいだ。それははっきり云える。はじめての日、無理やり快楽を引きだされ、それらは条件反射のように結びつけられた。
颯天は無自覚に片隅を横目で見やり、堕落の原因となった主を突き止める。そこには祐仁が立って室内を眺めている。たったいまは、その目が颯天に向けられていた。
祐仁に裸体を晒したのは別れを強要された日以来だ。その頃は、脱がされただけでここまでの反応はなかった。浅ましい躰になった颯天を見て、いま祐仁は何を思っているのだろう。
いや、何も思っていない。
すぐさま打ち消し、颯天は無意識に逆らいながらも中央に置かれた椅子に座らされ、拘束された。
祐仁から口移しに食べさせられたとき、それはキスの口実かという淡い期待は噛みしめる間もなく砕かれた。祐仁はすべて計算したうえで動いている。
はじめからそうだったのか、離れていた間に変わってしまったのか。いずれにしてもそれが現実で、颯天は駒にしかなれない。それならとことん駒になる。そうやって祐仁の役に立てるなら――というよりは、ただ祐仁に必要とされ、傍にいられるのなら。
「さて、次は今日のメインボーイです」
一つのパートが終わってざわついていた会場が、高らかなその声に静まり返った。
「行け」
颯天のすぐ背後から囁いたのはアンダーサービスの塚元エリートだ。
颯天は従わず、すると、連れていけ、と塚元は傍に控えていた部下に命じた。
「嫌だ」
つぶやいてみると、塚元はじろりと颯天を見やった。
「何を勘違いしているか知らないが、フィクサー直々のスカウトであろうと……いや、そうだからこそ、面子を潰さないよう逆らわないことだ」
事情を知らない塚元は、嘲るようにとまではいかないものの、身の丈を知れと云わんばかりに警告した。
塚元に命じられた男が無造作に背中を押し、颯天はつんのめるようにしてカーテンの合間から小さな舞台へと連れだされた。
会場が俄にそよぐ。扇形の会場は、最後尾に座った者の顔がはっきり見えるほどの広さしかない。それだけ選別された者が集う空間であり、こんなふうに颯天が品評会の出し物扱いをされることは凛堂会にいた頃にもあった。納得したわけではなくとも慣れるしかなかった。
けれどいま、颯天は嫌々ながら舞台の上に立った。黒いマントを羽織り、躰は足首まで隠れているが顔は剥きだしで、段差のある座席に居合わせた参加者たちの目が一斉に集中する。
今日のイベントは、男娼をレンタルするためのオーディションだ。なかには、嫌がるのを手懐けることに嗜好を見いだす者もいる。尻込みする颯天を眺めながら、ほう、と云った声がいくつか聞こえた。
「こちら、ある組織の高級コールボーイでした。引く手あまた、ですが限られた上客しか買うことは叶っておりません。このたび、取引でやっと手に入りました。我々が買いとったくらいです。品質は保証します。仕様をご覧ください」
その言葉と同時に、背後に付き添う男の手が颯天の喉もとにまわってきた。マントの下で手を後ろに括られていて、はねのけることはできない。
次の瞬間、喉もとから裂くようにマントが開かれ、取り去られた。マントの下で身に着けたものはない。羞恥心が一気に颯天を襲う。最初から裸を晒して出るよりも、隠していたものをさらけだすほうが数十倍も恥ずかしい気にさせられる。それをわかってやっているのだ、とわかっていながら平気ではやりすごせない。
あまつさえ――
おお。
と、共通した感嘆のどよめきが客席に広がったのは、颯天のオスが著しく反応を見せたからだ。
羞恥心によって萎えるのではなく、颯天のオスは逆の現象があらわになる。自分でもどうしようもない反応だった。
颯天の躰が被虐を快楽だと捉えてしまうのは祐仁のせいだ。それははっきり云える。はじめての日、無理やり快楽を引きだされ、それらは条件反射のように結びつけられた。
颯天は無自覚に片隅を横目で見やり、堕落の原因となった主を突き止める。そこには祐仁が立って室内を眺めている。たったいまは、その目が颯天に向けられていた。
祐仁に裸体を晒したのは別れを強要された日以来だ。その頃は、脱がされただけでここまでの反応はなかった。浅ましい躰になった颯天を見て、いま祐仁は何を思っているのだろう。
いや、何も思っていない。
すぐさま打ち消し、颯天は無意識に逆らいながらも中央に置かれた椅子に座らされ、拘束された。
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