遠い宇宙の君へ

水妃

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オッド

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………………私は、清き世界を築き上げる為なら、
どんな手段を使っても実行する…………


「オッド! また父さんの研究の邪魔をして! ダメじゃない!」

「だって暇なんだもん、俺だって研究に参加したいんだよ」

「駄目よ、あなたにはまだ早いの。しっかり小学校で学ぶことがあなたの仕事よ」

「分かったよ、母さん。でも、学校の勉強なんてつまらないよ」

「でも、学校で学んでいる道徳含めそういったことが大人になってからとても重要になるのよ」

「そうなのかな。僕には分からないや……」

「今は分からないかも知れないけれど、この先きっといつの日か役に立つ日が来るわ」

「いつか来るか分からない為に道徳を学んだりするのはしんどいよ」
僕はため息をつきながら母の綺麗なゴールドの瞳を見つめながら答えた。

父さんの研究は、人工知能を使いあらゆる商品を開発することだった。

自動キッチンシステム、
空飛ぶ車、
そして、
他の星に移動出来る小型宇宙船も父が開発した。

特にこの小型宇宙船は凄かった。

AI搭載で、行きたい星を入力するだけで勝手に飛んで行ってくれた。

四人乗り、八人乗りなど様々なタイプがあった。

デザインも丸、四角、ひし形など様々なタイプがあり、
色も青、赤、白、黒、緑など様々なバリエーションを揃えていた。

僕はいつも父とこの小型宇宙船で宇宙旅行をしていた。
日帰りも可能だったし、小一時間遊びに宇宙に行くこともあった。

時は経ち、自分が大学入学した頃だった。

僕は初めて恋をした。

周りのみんなは、もっと早くに恋をしていたけれど、
僕は大学生になって初めて人を愛することを知った。

彼女の名前はシェリー。
茶色の髪でポニーテールがとても似合う女性だった。
同じ大学の生徒だ。

僕と同じ人工知能学科の生徒で同い年だった。

「オッド、今日も一緒に映画観に行かない?」

「いいけど……今日は一緒に月まで行く予定だったような……」

「それだったら両方すればいいじゃない! ね! そうでしょ?」
いつも通りサバサバした口調で彼女は答えた。

僕たちは映画を観た後に、小型宇宙船に乗り、月まで“ドライブ”をした。

「外から見る私たちの星、セルカークはまた一段と綺麗ね」

「そうだね。とても綺麗な青だね」

「うん。この景色を見ていると、どんなに嫌なことがあっても忘れられるわ」
彼女はほほえみながら優しい声で僕に言った。

彼女との出会いは、実験室だ。

同じ実験グループとなった。

彼女はとても気さくで少し男っぽくて、サバサバしていた。

また、貧困の民を救うべくボランティア活動のリーダーも務めていた。

仕事を失い、行き場を失った民に食事や衣服などの提供を行っていた。


この時期、AI技術の急激な進歩により民は職を失い、
まだ国からの支援も無く、路上生活者が急激に増加したこともあり、
シェリーのような活動で救われた民は沢山いた。

僕たちはいつも一緒にいることが多くなった。

何でも相談出来る仲になっていって困ったことがあったらいつでも相談し合っていた。


——こんな出会いはこの先もう無いのではないか——

そう思えるくらいの女性だった。

そんなある日のこと。

「オッド様、ご両親が……」

秘書のミナトが走りながら私のもとへ来た。
額からは大量の汗を流し、息を切らしていた。

「父さんと母さんがどうしたって?」

「現在開発している新サービスの実験中に研究室が爆発し、二人とも……」

「なんだって……何が起こったんだよ!」

頭の中で様々な思いが巡る。

何故こんなことが起こったんだ。

自分はまだ何も親孝行が出来ていない。

もっと両親から学びたい事だってあったのに。

何故……

様々な思いを巡らせているうちに両親の遺体が運ばれてきた。

物凄い爆発だったのだろう。

両親の面影はなく、僕はそっと目を反らした。


その日から僕は、ただの学生ではなく、会社の社長となった。

そこから、ほとんど学校にいくことはなくなり、
オッドテクノロジー社のトップとして、
指揮することとなった。

父のビジネスを引き継ぎ、
発展させることが残された自分に出来る親孝行だ。

そう自分に言い聞かせ寝る間も惜しんで働いた。



————プルルルル————

「はい、もしもし」

「オッド、大丈夫? 仕事ばかりでしょ? とても心配で」

電話口はシェリーだった。

「少し疲れ気味だけど大丈夫だよ。
今は父さんに負けないように様々なことを学んでいるんだ。
経営もそうだし、テクノロジーの技術に関しても。
そっちはどうだい?」

「こちらはテストが終わって、ボランティアも順調よ」

「そうか、それを聞いてとても安心したよ。
仕事が落ち着いたらまた月にドライブしに行こうよ」

「うん、そうね。楽しみにしているわ」

一か月後の十四日、
丁度僕の誕生日に僕たちは約束通り月にドライブをした。

この星の近くには月が二つある。

今回はもう一つの月へ行った。

違う角度から見るセルカークはこれまたとても綺麗で、
その中の唯一の国、オールの夜景も格別だった。
そこで将来の夢について色々と語った。

「ねぇ、オッド。あなたは将来どんな人になりたい?」

「僕かい? 僕は父のように人々を豊かにするシステムを開発し、
多くの人を幸せにしたい。シェリーは?」

「私は、今のボランティア活動をさらに拡大して、多くの貧困層を救いたい。
今、貧困層は生まれてから夢を持つことが許されていない。
日々生きることだけで精一杯。
着る物も食べる物も全部不足している。
そんな現状を私は変えたい。
多くの人々が私たちと同じように夢を持ち、
叶えようとすることが出来る世の中にしたいの」

シェリーはとても真っすぐな目で僕を見つめてそう言った。

「素敵だね。君のような優しい人はこの世界を救うことが出来ると思う。
僕も君の力になりたいよ」

「ありがとう、オッド。あなたの力があれば百人力よ!」

シェリーの強いハグに僕は圧倒されながら僕はそっとこう答えた。

「ありがとう」

しかし、
僕たちの夢が叶うことは無かった。

運命とは何とも非情だ。
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