Our place ~転生乙女のジュラーレ魔法学院の日常~

龍希

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第3章

お兄様はご乱心中?!

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 宇宙船《スターシップ》の一室。コウは無言の圧力と共に、モニターに映る女性をじっと見詰めていた。

「……はぁ」
 無言の圧力に屈したかの如く、ため息を漏らして彼女は小さく苦笑して口を開く。
「あー、もう! 分ったわよ 分ったからっ!!」

「本当か?」
 コウから出る声音は低い。甘さの欠片も無い程に、これでもかと言わんばかりに更なる圧力をかけまくる。
「本当よ! 相変わらず、どシスコンよねッ! アナタは……色々アレ過ぎて頭が痛いわ……」
 額に手を当て力なく首を振る彼女の名前は、イリーナ。茶色い髪と同じ色の瞳を持つ、眼鏡をかけた知的美人風な女性でもある。
 ジュラーレ学院宇宙工学科の教師である。そして、コウの同期生でもあり、良きライバルでもあり、時には同じプロジェクトもこなす同僚でもある。

「まあ。コウの申し出は本当に有り難いわよ。後任探しも楽じゃないしね?」
 そう言いながら、イリーナは少し膨らんだ下腹部を撫でる。
「この子の為にもさっさと長期休暇をとるのが良いのも分っているもの。今期の生徒のタチが悪いのには、参ったわ。こんなにもストレスが掛かるなんて思わなかったもの……」
 疲労が滲んだ吐息をつきながら、イリーナはコウに告げる。
「思わず昔を思い出しちゃったくらいよ? あー、自分達の入学して一年はあんな風にドタバタしていたなぁって……今思うと私達の時も大概に酷かったわね? コウに振り回されたりもしたけど、コウを狙う女生徒が平気で学院のルールを破るから大変だったわ。でも、それを上回るレベルの今期《いま》だもの、皇族の持って来るトラブルは半端ないわぁ……」
 イリーナの口から一気に出る愚痴。
 入学式から高々数か月しか経っていないが、されど数か月。生徒達の引き起こす問題行動だけに止まらず、その親や一部の教師による不正とまで来ている。
 正直妊婦には荷が重すぎる。

「で? イリーナ、いつから引き継ぎをする?」
 至って真面目な表情でコウが問い掛ける。
「そうね、書類を提出して通るのが、早くても2週間ってところかしら? 3週目にはゴリ押しでいけるとは思うわ。認可が下りて翌々日にはいけるとは思うわ」
「分った。こっちのプロジェクトは1週間で終わらせる。そうすれば、10日後にはラグナリア星に帰還出来る筈だ。何としてでも終わらせて帰る」
 コウの表情は真剣そのものだ。

「……あのさぁ……コウ、一応訊くけど今受け持っているプロジェクトって、国家間の依頼のものじゃなかったっけ?」
「一応、皇家よりの依頼のものだね。とは言っても既存のベースをアレンジして作り直すだけだから、さほど難しくはないさ」
「相変わらずあっさり言いのけるわね。新規の宇宙港《スペースステーション》に使う統括頭脳《マザーコンピューター》だって言うのに!!」
 呆れ顔のイリーナとは対象的な表情のコウは大真面目に返す。
「これが、コンパクトサイズに作れって言われたら面倒だったけどね。それに、セラフ級の防御システムを入れろとか言う無茶も無かったから、意外と美味しい依頼だよ」
「セラフ級のシステムって……国防とか星一個丸ごと守るレベルじゃないの!!」
「前にあってさ、国を通して依頼してるのに、規定予算と防衛設備が合わないだけじゃなく、国を通した依頼内容を改竄してやれとか言うもんだから、勿論呆れて蹴ったよ」
「それは、私も拒否するわね。そんなの手掛けたらその国に監禁されるわよ」
「だろうね。妹が大事なら~~って脅すから、つい全力で叩きのめしちゃったけどね」
「……あー、あの国の政権潰したのコウだったのね……」
 以前、戦争を危惧されていた国(星)があったのだが、ある日突然政権が倒れて、騒ぎになった事件があった。
 権力者たちの汚職などが出るわ出るわで、戦争に発展しそうな雰囲気が一掃されたのだった。

「戦争をしたければ、机上かヴァーチャルやホログラムの中だけでしてればいいのに。他星や国を狙おうなんて浅はか過ぎだよね。その国に住む国民が可哀想だよ。振り回されて虫けら同然に扱われるんだから。その上、人の大事な宝物に手を出そう何て、許されないよね?」
 ニッコリと笑顔でばっさり言い切るコウに、顔を引き攣らせるイリーナだった。
「それは、まぁ、そうなるよ……ねぇ……」
 反論などしようものなら、どれだけの妹至上主義かをスピーチしかねないので、イリーナとしては答えに窮する。
「人の宝に手を出すのであれば、自分持っている物総てを賭けて貰わないとね。愚かな権力者っていつも他者からは奪うが、自分の物はさし出そうとはしない癖に、さも、己は行いは正義だと言い張るんだろうね。本当に国を腐らすクズは破滅すればいいと思うよ」
「コウの凄い所は破滅まで持って行けちゃうところよね……」
「イリーナだって大事なものを害されそうなら、手出し出来ない様にするだろ?」
 にやりと笑うコウに、イリーナもまたニコリと笑う。
「そうね、自己防衛は重要ですもの」
 ふふふ、くくく、と二人が笑う。

 意外と似た者同士なコウとイリーナであった。
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