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後日談編
アンタが最強伝説
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「なんか、凄いことになってきたんじゃないか…」
「いやあ、恐ろしい会話が飛んでるよねえ~」
ザカリーとルーファスは戦々恐々になりながら、遠巻きに彼らの様子を見る。
メルヴィンとキュッリッキの結婚式は、当然ライオン傭兵団が主催するものと、そう彼らは思っていた。筋から言えば当然だろう。ところがリュリュと共にキュッリッキの後見人となった皇王が名乗りを上げるとは、さすがに思わなかった。それだけに、カーティスの反応は素早い。
しかし、もっとも驚くべきは、神が割って入ってきたことだ。
ロキ神が召喚しろとせっついてきた理由は、このことだったのかとキュッリッキは頭をぐるぐるさせる。
人間たちの世界から去った神々は、人間の世界に降り立つときは、必ず巫女の召喚を通らないと降り立つことは許されない。そう神々自身が課した掟なのだ。
「ユリディスを失って一万年、キュッリッキはそれから新しく生まれた我らの巫女だ。我々にとって何よりも愛おしい存在。我らの手で祝福してやらねば気がすまぬ」
人懐っこい笑みを貼り付けたまま、反論は許さないぞ、という気迫を声に滲ませロキは言った。
(ロキ様ってば、チョー本気モードだあ…。わざわざロキ様が乗り込んできたってことは、ティワズ様も同じこと考えてるんだね)
神々の世界アルケラの最高神はティワズという、老齢の姿を持つ神だ。ロキ神はティワズ神に次ぐ最高位の神のひとりである。
「神がなんじゃ!」
「そうです、いきなり出しゃばらないでください!」
皇王とカーティスは憤然とロキ神に怒鳴った。
室内の空気がひんやりと固まる。
「……強いな」
フェンリルはうっそりと呟く。
「うん、皇王様とカーティスのこと、ちょっと尊敬したかも」
キュッリッキは薄笑いを浮かべ頷いた。
普段ニコニコしているが、怒るとアルケラで一番恐ろしい神だということを、フェンリルとキュッリッキはよく知っている。
「神なんて高いところから下でも見てればいいんです」
「キュッリッキが巫女だとしても、彼女は人間じゃ。神なぞ天井で光の雨でも降らせちょれ」
人間2人に真っ向からカウンターアタックされ、ロキは驚いてぱちぱちと目を瞬(しばた)くと、やがてむすっと顔を歪めた。
「ひよっこな人間どもの分際で、よくも俺に大口叩いてくれるじゃないか」
忌々しそうに言い、そしてキュッリッキに振り向く。
「キュッリッキ、もちろんキュッリッキは、俺たちの主催で結婚式がしたいだろう?」
優しさの中に有無を言わせない迫力を滲ませ、ロキはキラキラと輝く笑顔を向けた。
(…あの笑顔って、アルカネットさんにすっごく似てるの)
ベルトルドもアルケラも、ロキ神の遺伝子筋である。当人たちは知らなかったことだが。
キュッリッキは小さくため息をつくと、腕を組んで床に視線を落とす。
(お祝いしてもらえるのは嬉しいけど、選ぶなんて出来ないよう。みんな大好きだもん。――むーん、困ったなあ…)
キュッリッキもメルヴィンも、ライオン傭兵団に結婚式を執り行ってもらうつもりでいる。2人にとって、大事な大事な仲間(かぞく)たちだ。しかし皇王はベルトルドが亡くなってから後見人を名乗り出てくれて、リュリュと共に頼れる存在となってくれた。それにロキをはじめとするアルケラの神々は、キュッリッキがほんの幼い頃から精神的に支え、見守り続けてくれている存在。
さあ、どれか一つを選べ! と突きつけられても、無理難題過ぎて困り果ててしまう。
自分のこととはいえ、さすがに選べない。救いを求めるようにメルヴィンに顔を向けると、さすがのメルヴィンも困惑していた。
「どうしよう、メルヴィン…」
ちらりとキュッリッキに視線を向けるメルヴィンの心境は、キュッリッキ以上に複雑である。
キュッリッキの伴侶になるが、皇王ともアルケラの神々とも、メルヴィン個人とは直接関係はない。あえて強調するなら、キュッリッキをまたいで関係がつながる程度だ。
この場合、ほぼオマケでしかない立場だけに、キュッリッキ以上にどれかを選ぶのは無理すぎだ。
「これは、困ったですね…」
「だあったらぁ、3人で仲良しこよしで祝ってあげればいいじゃないのさ」
語尾に「ヒック」と付けて、サーラがすわった目で口を挟んだ。部屋中の視線が一斉にサーラに集まる。
「さっきから黙って聞いてれば、ヒクッ、グダグダと大人げナイったらないわ鬱陶しい。結婚するのはキュッリッキちゃんとメルヴィン君なのよ? なのにどの面下げて偉そうに言ってるの、たかだか皇王と神とやらが!」
たかだか、が強調される。恐れることなく大暴言を吐くサーラもまた、ロキ神の遺伝子筋だ。そしてベルトルドの母君である。
「いいこと? 2人が気持ちよく、楽しく、嬉しくなる方法で心から幸せを願って祝ってあげるのが、本当の優しさと思いやりじゃないの? ったくそれなのに、やれハーメンリンナだの神様の国だのと、自分がそうしたいだけの我が儘押し付けて、偉ぶって喧嘩してんじゃないよ恥ずかしい!!」
ダンッ! とテーブルを片足で踏みつけ、呆気にとられる皇王とロキ神を鷹のように鋭く見据える。
「カーティス君!」
「は、はいっ!」
「そこのボケジジイとキンキラにーちゃんに、た~~~んまり協力させて、2人をセーダイに祝ってやんなさい!」
「そ…そうです…ね」
「そーよお」
サーラの姿をたっぷり見たあと、ベルトルドの母親にまでボケジジイと呼ばれた皇王は、肩でため息をつくと小さく頷いた。
「そうじゃの、そのほうが良いのかもの」
さすがはベルトルドの母親じゃわい、と呟いた。あの尊大で遠慮のなさは、思いっきりそっくりである。
「そうか、アウリスの血筋か」
酒に酔っているとはいえ、あっぱれ畏れない堂々としたあの態度に、キンキラにーちゃんことロキは心から苦笑する。自分の血がしっかり継がれていると、嫌でも判ったから。
「よかろう。そなたらに協力は惜しまぬよ」
そう言って、ロキも了承した。
「ふふん、判ればいーのよ、判ればっ」
サーラは顎を反らせ満足げに言うと、そのままひっくり返ってしまった。
――アンタ、さすがベルトルド様の母上だよ最強だよ!!
遠巻きに見るしかない招待客たちは、異口同音に心の中で叫ぶのだった。
「いやあ、恐ろしい会話が飛んでるよねえ~」
ザカリーとルーファスは戦々恐々になりながら、遠巻きに彼らの様子を見る。
メルヴィンとキュッリッキの結婚式は、当然ライオン傭兵団が主催するものと、そう彼らは思っていた。筋から言えば当然だろう。ところがリュリュと共にキュッリッキの後見人となった皇王が名乗りを上げるとは、さすがに思わなかった。それだけに、カーティスの反応は素早い。
しかし、もっとも驚くべきは、神が割って入ってきたことだ。
ロキ神が召喚しろとせっついてきた理由は、このことだったのかとキュッリッキは頭をぐるぐるさせる。
人間たちの世界から去った神々は、人間の世界に降り立つときは、必ず巫女の召喚を通らないと降り立つことは許されない。そう神々自身が課した掟なのだ。
「ユリディスを失って一万年、キュッリッキはそれから新しく生まれた我らの巫女だ。我々にとって何よりも愛おしい存在。我らの手で祝福してやらねば気がすまぬ」
人懐っこい笑みを貼り付けたまま、反論は許さないぞ、という気迫を声に滲ませロキは言った。
(ロキ様ってば、チョー本気モードだあ…。わざわざロキ様が乗り込んできたってことは、ティワズ様も同じこと考えてるんだね)
神々の世界アルケラの最高神はティワズという、老齢の姿を持つ神だ。ロキ神はティワズ神に次ぐ最高位の神のひとりである。
「神がなんじゃ!」
「そうです、いきなり出しゃばらないでください!」
皇王とカーティスは憤然とロキ神に怒鳴った。
室内の空気がひんやりと固まる。
「……強いな」
フェンリルはうっそりと呟く。
「うん、皇王様とカーティスのこと、ちょっと尊敬したかも」
キュッリッキは薄笑いを浮かべ頷いた。
普段ニコニコしているが、怒るとアルケラで一番恐ろしい神だということを、フェンリルとキュッリッキはよく知っている。
「神なんて高いところから下でも見てればいいんです」
「キュッリッキが巫女だとしても、彼女は人間じゃ。神なぞ天井で光の雨でも降らせちょれ」
人間2人に真っ向からカウンターアタックされ、ロキは驚いてぱちぱちと目を瞬(しばた)くと、やがてむすっと顔を歪めた。
「ひよっこな人間どもの分際で、よくも俺に大口叩いてくれるじゃないか」
忌々しそうに言い、そしてキュッリッキに振り向く。
「キュッリッキ、もちろんキュッリッキは、俺たちの主催で結婚式がしたいだろう?」
優しさの中に有無を言わせない迫力を滲ませ、ロキはキラキラと輝く笑顔を向けた。
(…あの笑顔って、アルカネットさんにすっごく似てるの)
ベルトルドもアルケラも、ロキ神の遺伝子筋である。当人たちは知らなかったことだが。
キュッリッキは小さくため息をつくと、腕を組んで床に視線を落とす。
(お祝いしてもらえるのは嬉しいけど、選ぶなんて出来ないよう。みんな大好きだもん。――むーん、困ったなあ…)
キュッリッキもメルヴィンも、ライオン傭兵団に結婚式を執り行ってもらうつもりでいる。2人にとって、大事な大事な仲間(かぞく)たちだ。しかし皇王はベルトルドが亡くなってから後見人を名乗り出てくれて、リュリュと共に頼れる存在となってくれた。それにロキをはじめとするアルケラの神々は、キュッリッキがほんの幼い頃から精神的に支え、見守り続けてくれている存在。
さあ、どれか一つを選べ! と突きつけられても、無理難題過ぎて困り果ててしまう。
自分のこととはいえ、さすがに選べない。救いを求めるようにメルヴィンに顔を向けると、さすがのメルヴィンも困惑していた。
「どうしよう、メルヴィン…」
ちらりとキュッリッキに視線を向けるメルヴィンの心境は、キュッリッキ以上に複雑である。
キュッリッキの伴侶になるが、皇王ともアルケラの神々とも、メルヴィン個人とは直接関係はない。あえて強調するなら、キュッリッキをまたいで関係がつながる程度だ。
この場合、ほぼオマケでしかない立場だけに、キュッリッキ以上にどれかを選ぶのは無理すぎだ。
「これは、困ったですね…」
「だあったらぁ、3人で仲良しこよしで祝ってあげればいいじゃないのさ」
語尾に「ヒック」と付けて、サーラがすわった目で口を挟んだ。部屋中の視線が一斉にサーラに集まる。
「さっきから黙って聞いてれば、ヒクッ、グダグダと大人げナイったらないわ鬱陶しい。結婚するのはキュッリッキちゃんとメルヴィン君なのよ? なのにどの面下げて偉そうに言ってるの、たかだか皇王と神とやらが!」
たかだか、が強調される。恐れることなく大暴言を吐くサーラもまた、ロキ神の遺伝子筋だ。そしてベルトルドの母君である。
「いいこと? 2人が気持ちよく、楽しく、嬉しくなる方法で心から幸せを願って祝ってあげるのが、本当の優しさと思いやりじゃないの? ったくそれなのに、やれハーメンリンナだの神様の国だのと、自分がそうしたいだけの我が儘押し付けて、偉ぶって喧嘩してんじゃないよ恥ずかしい!!」
ダンッ! とテーブルを片足で踏みつけ、呆気にとられる皇王とロキ神を鷹のように鋭く見据える。
「カーティス君!」
「は、はいっ!」
「そこのボケジジイとキンキラにーちゃんに、た~~~んまり協力させて、2人をセーダイに祝ってやんなさい!」
「そ…そうです…ね」
「そーよお」
サーラの姿をたっぷり見たあと、ベルトルドの母親にまでボケジジイと呼ばれた皇王は、肩でため息をつくと小さく頷いた。
「そうじゃの、そのほうが良いのかもの」
さすがはベルトルドの母親じゃわい、と呟いた。あの尊大で遠慮のなさは、思いっきりそっくりである。
「そうか、アウリスの血筋か」
酒に酔っているとはいえ、あっぱれ畏れない堂々としたあの態度に、キンキラにーちゃんことロキは心から苦笑する。自分の血がしっかり継がれていると、嫌でも判ったから。
「よかろう。そなたらに協力は惜しまぬよ」
そう言って、ロキも了承した。
「ふふん、判ればいーのよ、判ればっ」
サーラは顎を反らせ満足げに言うと、そのままひっくり返ってしまった。
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