片翼の召喚士

ユズキ

文字の大きさ
217 / 226
番外編

Extra022 アルカネット氏のささやかな復讐

しおりを挟む
【片翼の召喚士if】というパロディマンガ集に掲載中の『アルカネット氏のささやかな復讐』のテキスト版です。

※Extraシリーズは1話読み切りの、掌編より長く、最低限の長さの短編、って感じです(タブン

******


 魔法部隊ビリエル長官アルカネット付きの副官ヘイディ少佐は、書類を携えアルカネットの執務室に入った。

「失礼します、閣下」

 部屋の壁際に立って、何やら見ているアルカネット。ヘイディ少佐に返事もせず、微動だにしない。

「決裁していただきたい案件があります。よろしいでしょうか?」

 上司の素っ気ない態度には、もう慣れっこになっている。気にした風もなく、返事のないアルカネットの後ろに立ち、一緒に壁を見る。

「ああ」

 アルカネットの見ているものが判り、ヘイディ少佐は大きく頷いた。

「広報から配られてきた、召喚士様と副宰相様のポスターですね」

 水色のドレスに身を包んだキュッリッキを、しっかりと抱き寄せ額に口づけているベルトルドが写っている。
 目をぱっちり開けた、愛らしいキュッリッキが印象的だ。

「召喚士様がとってもお可愛らしくて。凄く評判がイイんですよ、このポスター。副宰相様もご婦人方に大人気だし」

 何のためのポスターかは知らされていないが、見目の美しい2人の写真なので、誰も気にせず鑑賞されている。
 ヘイディ少佐の説明も耳に入らず、アルカネットは底冷えするような眼差しをポスターに突き刺していた。

(よくもまあ抜け抜けと、こんなふざけた真似をしてくれたものですね…)

 いつもの温厚な表情かおがなりを潜め、眼差し同様に冷たい表情が浮かぶ。

(私のリッキーさんを抱き寄せ、あろうことかキスなんて汚らわしい…。あの汚物下種エロ中年! それをポスターにして皇国中にばら撒くなど、許しませんよ!)

 ブワッと身体から冷気の魔力が噴き出した。
 アルカネットは感情が怒りのベクトルを向くと、冷気の魔力が噴き出す体質だ。
 後ろに居たヘイディ少佐が、ビクリと仰け反る。
 アルカネットは胸ポケットから黒マジックペンを取り出した。
 そして。

 シュッ!
 シャカシャカシャカシャカ

 一心不乱にポスターにペンを走らせ始めた。

(チョー!?)

 ヘイディ少佐は無言で叫んだ。

(こんなの副宰相様に知れたらおおごとよっ!)

 やがてアルカネットは壁からポスターを剥がすと、ヘイディ少佐にポスターを差し出した。

「これを今すぐベルトルド様に、届けてきてくださいね」

 神々しいまでの、爽やかな笑顔を浮かべていた。
 ポスターを受け取りながら、ヘイディ少佐は青ざめる。

(ホントにこれ、届けちゃっていいのおおおっ! 笑顔がマジでヤバイんですけど…)



 宰相府に赴いたヘイディ少佐は、副宰相の執務室前の護衛官にリュリュを呼んでもらう。

「あらヘイディちゃん、どったの?」

 ヘイディ少佐は、おそるおそるポスターを差し出す。

「リュリュたんコレ…、副宰相様に渡しておいてっ! アルカネット長官からの…」

 受け取ったポスターを見て、リュリュは垂れ目をすがめた。

「……まぢなのね…」
「うん…、チョー大マジ!」



 ポスターを持ち、リュリュはベルトルドのデスク前に立つ。

「どうした?」

 書類から顔を上げて、リュリュを見上げる。

「…アルカネットからの挑戦状が送られてきたわよ、あーたに。受けて立つ?」
「ぬ?」
「ヘイディちゃん、ビビってたわ」

 差し出された挑戦状ポスターを受け取り、ベルトルドは衝撃を受けたように目を丸くする。
 ポスターに写るベルトルドの部分だけ、細部まできっちり黒塗りにされていた。
 アルカネットが激怒していることが、一瞬で判る。

「こ…ここまでやる?」
「だから言ったデショ! アルにナイショで小娘と写真撮るなって。こんな幼稚な仕返しで済んで、アリガタイと思いなさいな」
「だってぇ…」

 キュッリッキを独占したい下心見え見えポスター。世間に2人の関係を見せびらかしたくて撮影したものだ。
 帰ったらアルカネットから超絶長い、クドクドとした嫌味と説教が待ち構えていることに気付いて、ベルトルドはデスクに撃沈した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...