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番外編
Extra023 身分なんてなんぼのもんじゃい
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キュッリッキ奥様の日記から。
時系列では後日談編の後あたりの小話です。
※Extraシリーズは1話読み切りの、掌編より長く、最低限の長さの短編、って感じです(タブン
******
今日は月に一回の面談、リュリュさんと皇王様に会いに行った。
2人はアタシの後見人で、前任者だったベルトルドさんから引き継いだの。
厳密には後見人じゃなく、保護者なんだそうダケド。
アタシに生みの親はいるけど、育ての親がいないもんね。
一時間くらいの楽しい面談だった。2人とも元気そうで良かったの。でもね、帰りに皇太子殿下に呼び止められた。
* *
「召喚士殿」
侍女のアリサと共にグローイ宮殿の休憩室に向かっていたキュッリッキは、背後から呼び止められた。
「皇太子殿下」
イングヴァル・ヨーン・ワイズキュールがにっこりと微笑んだ。
享年41歳だったベルトルドと同い年だということだが、ヴィプネン族である皇太子は、年相応の面立ちをしていた。
キュッリッキは優雅に腰を折り挨拶をする。
「月一の面談の日だったね」
「はい」
「この後の予定は、決まっているかね?」
キュッリッキは上目遣いになって考えた。
「特に予定はナイです」
「それは良かった。実はこれから貴族たちを招いた談笑会を催すんだ。キミも是非参加してもらえると嬉しいな」
「はあ…」
あまり気乗りしない返事をするキュッリッキに、アリサが耳打ちする。
「皇太子殿下のお誘いです。お顔だけでも出されませ」
「…ふむ…そっか」
表情は変えず、でもちょっと不満そうにうなずいたキュッリッキは、皇太子へ顔を向け直す。
「判りました。あまり長居はできませんが」
「ありがとう。では参りましょう」
差し出された皇太子の腕を取った。
* *
断っても大丈夫ではあったけど、今後のことを考えると「なるべくお誘いは断らないほうが良いですよ」ってアリサに教えてもらった。
相手が貴族程度なら断ってもいいけど、皇族からのお誘いは出来るだけ受けるほうが良いんだって。
まあ、今まではアタシ一人のことで良かったけど、今は旦那様と子供たちがいるもんね。家族のことを考えて受けたの。
でも、直感って言うか、キモチには素直に従うべきだったね…。
もうね、ほんっと! 貴族ってバカだよね。アホだよね。間抜けだよね!
”だよね”三段活用だよ!
傍にあったテーブルを、ひっくり返したくなっちゃったんだから。
* *
グローイ宮殿のサロンには、老若男女の貴族たちが溢れかえっていた。
皇太子がサロンに姿を見せると、貴族たちは丁寧で優雅な礼をする。そして皇太子が召喚士を連れてきたことに気付き、感嘆の声がサロンを席巻した。
「キュッリッキ様にお会いできるなんて」
「お美しい」
「参加してよかったわ」
ニコニコと笑みを浮かべる皇太子とは反対に、キュッリッキは困惑の表情をしていた。
こういう上流階級の集う場所は、大の苦手である。
アリサは侍女たちの待機部屋にさがっているし、こんなところに友達なんていない。
すっかり見世物になったキュッリッキは、30分も貴族たちに拘束され、質問攻めに辟易していた。
ようやく解放されると、キュッリッキはサロンの隅っこにあるソファに沈み込んだ。
「あー…疲れた…」
肘掛けにグデーっともたれかかり、目の前に置かれたソーダ水のグラスを手に取る。
「生まれはドコだの、ベルトルドさんとはどう知り合っただの、いつもはどこのお店で買い物するのだの…延々同じような質問してて、何が楽しいんだろう理解できないし!」
周りに誰もいないので、キュッリッキは遠慮せずに文句をぶちかます。
「皇太子の顔を立てたから、もう帰っていいよね…」
室内の中心部に皇太子は居て、取り巻きのように貴族たちに群がられている。
ああして取り巻かれることで満足しているのだろうか、皇太子の顔は自然な笑みで満ちていた。
キュッリッキはグラスをテーブルに置いて、のっそりと立ち上がった。すると、レディが1人泣きながら歩いてきた。
「あ…」
レディは顔を上げて、キュッリッキを見て口元をハンカチで抑えた。
「アタシもう帰るから、ここ、どうぞ」
泣き顔を見られたくないだろうなと思い、キュッリッキは視線をそらせながらソファを手振りで示す。
レディは少しすると、ワッとさらに泣き始めた。
「え…」
その場にしゃがみ込んで、レディはハンカチで顔を覆った。
(ど…どうしよう…)
キュッリッキは慌ててレディの傍にしゃがみ込み、そっとレディを立たせてソファに座らせた。
「あ、あのね、ダイジョーブ?」
レディはグスグスと鼻をすすり、ゆっくり頷いた。
「すみません、召喚士様…。お騒がせをいたしました」
「いいえ。落ち着いてきたみたいだね?」
「はい。感情が一気に込み上げてしまい、取り乱しました」
はあ、と切なげなため息をつき、レディは俯いた。
「アタシでよければ、話、聞くよ?」
すぐさま帰りたかったが、何故だかレディをほっとけず、キュッリッキは話し相手になることにした。
「婚約を、しました」
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
レディはどこか自嘲を、曇る顔に浮かべた。
「お相手の方は、伯爵家の後継者です」
そして、とレディは区切る。
「…わたくしとの縁談を、心の底から嫌がっておられるのです」
「え? なんで?」
「わたくしの家は、貴族ではないのです。上流階級の仲間入りをしていますが、平民…成金家なのです」
「所謂、身分違いとかゆーやつか。だったらなんで、相手はあなたと婚約したの?」
「お金の為です。伯爵家には莫大な借金があって、それで…。それに、わたくしの家はお金はあっても身分が低く、貴族との繋がりを欲しています。両親は相手の心情などお構いなしに、この結婚に乗り気なのです」
「あなたの心情だって、特大スルーじゃん…」
キュッリッキはレディの親と婚約者に向けて、特級侮蔑の視線を送った。
以前家庭教師グンヒルドから、貴族や上流階級社会の縮図のようなアレコレを聞いたことがある。
目の前で落ち込むレディの身の上は、その時に聞いた「よくあるハナシ」にピッタリと当てはまる。それほどマジョリティな話題らしい。
「わたくしには恋い慕う相手もおりませんし、この婚約は受け入れています。相手の方と思いあえれば良いと考えていますが、あの方は…」
悪口や侮辱的な言葉を、平気で周りに吹聴しているらしい。「結婚してやるんだから、ありがたく思え」的態度で接してくるそうだ。
「先ほども、殿下の目の前で侮辱されてしまって…。耐えられず、逃げて参った次第です」
「皇太子は何か言ったの?」
「……笑っておられました」
「はああああああ!?」
キュッリッキは拳を握り締めて立ち上がる。
「あなたには悪いけど、アタシ、辛抱なんてしないんだから!」
「え?」
「アタシからの助言は、今すぐ婚約解消して、相手の家が没落崩壊全滅するのを、高飛車に笑い飛ばしちゃえばいいわ!
何が貴族よ、何が身分違いよ、何様のつもりなの!
イイ? 甲斐性のナイ男なんて、こっちから願い下げていいわ!」
レディが呆気に取られている間に、キュッリッキはワインボトルが並ぶテーブルにずんずん大股で歩いていく。
「ごく潰しの甲斐性ナシな貴族なんて、ぺちゃんこに潰れちゃえばいいのよ」
ボトルを掴み、キュッリッキは目をギラリと光らせた。
* *
「ベルトルドさんいつも言ってた、この無能者め!ってね!」って言って、アタシは持ってたボトルでまず皇太子の顔面を殴りつけた。続いて、レディの婚約者とやらに、「身分なんてなんぼのもんじゃい!」って叫んで殴打してやったもんね!
鼻血と涙を垂れ流した2人の顔見て、胸がスッキリしたんだから。
サロンは大騒ぎになったケド、貴族連中は遠巻きに見てるだけだった。
まあ、そのあとアリサに叱られて、リュリュさんにこってり絞られて、皇王様には大笑いされたんだけどね…。
でも、レディは笑ってた。破談になると良いな。
アタシはアイオン族に生まれたけど、生まれてすぐ捨てられちゃったし、今じゃ戸籍ごと国に捨てられて、ヴィプネン族のこの国の人間になってる。だから身分なんて関係なかった。
身分ってもんが重要視される世界もある、って知ってる。でも、それでもやっぱ身分なんてくだらないって思うんだよね。
ベルトルドさんもね、生前言ってたことがあるの。「貴族なんてものは、廃れていくほうが世の中のためだ」って。自然とそういう方向へ持っていき、自然消滅させてしまうように、制度改革っていうのを進めようって。
すぐには無理だけど、将来そうなって身分なんてものが、結婚の妨げにならなければいいなって思う。
アタシは愛するメルヴィンと結婚できて幸せ。あのレディも、愛する人と結婚できると良いな。
* *
時系列では後日談編の後あたりの小話です。
※Extraシリーズは1話読み切りの、掌編より長く、最低限の長さの短編、って感じです(タブン
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今日は月に一回の面談、リュリュさんと皇王様に会いに行った。
2人はアタシの後見人で、前任者だったベルトルドさんから引き継いだの。
厳密には後見人じゃなく、保護者なんだそうダケド。
アタシに生みの親はいるけど、育ての親がいないもんね。
一時間くらいの楽しい面談だった。2人とも元気そうで良かったの。でもね、帰りに皇太子殿下に呼び止められた。
* *
「召喚士殿」
侍女のアリサと共にグローイ宮殿の休憩室に向かっていたキュッリッキは、背後から呼び止められた。
「皇太子殿下」
イングヴァル・ヨーン・ワイズキュールがにっこりと微笑んだ。
享年41歳だったベルトルドと同い年だということだが、ヴィプネン族である皇太子は、年相応の面立ちをしていた。
キュッリッキは優雅に腰を折り挨拶をする。
「月一の面談の日だったね」
「はい」
「この後の予定は、決まっているかね?」
キュッリッキは上目遣いになって考えた。
「特に予定はナイです」
「それは良かった。実はこれから貴族たちを招いた談笑会を催すんだ。キミも是非参加してもらえると嬉しいな」
「はあ…」
あまり気乗りしない返事をするキュッリッキに、アリサが耳打ちする。
「皇太子殿下のお誘いです。お顔だけでも出されませ」
「…ふむ…そっか」
表情は変えず、でもちょっと不満そうにうなずいたキュッリッキは、皇太子へ顔を向け直す。
「判りました。あまり長居はできませんが」
「ありがとう。では参りましょう」
差し出された皇太子の腕を取った。
* *
断っても大丈夫ではあったけど、今後のことを考えると「なるべくお誘いは断らないほうが良いですよ」ってアリサに教えてもらった。
相手が貴族程度なら断ってもいいけど、皇族からのお誘いは出来るだけ受けるほうが良いんだって。
まあ、今まではアタシ一人のことで良かったけど、今は旦那様と子供たちがいるもんね。家族のことを考えて受けたの。
でも、直感って言うか、キモチには素直に従うべきだったね…。
もうね、ほんっと! 貴族ってバカだよね。アホだよね。間抜けだよね!
”だよね”三段活用だよ!
傍にあったテーブルを、ひっくり返したくなっちゃったんだから。
* *
グローイ宮殿のサロンには、老若男女の貴族たちが溢れかえっていた。
皇太子がサロンに姿を見せると、貴族たちは丁寧で優雅な礼をする。そして皇太子が召喚士を連れてきたことに気付き、感嘆の声がサロンを席巻した。
「キュッリッキ様にお会いできるなんて」
「お美しい」
「参加してよかったわ」
ニコニコと笑みを浮かべる皇太子とは反対に、キュッリッキは困惑の表情をしていた。
こういう上流階級の集う場所は、大の苦手である。
アリサは侍女たちの待機部屋にさがっているし、こんなところに友達なんていない。
すっかり見世物になったキュッリッキは、30分も貴族たちに拘束され、質問攻めに辟易していた。
ようやく解放されると、キュッリッキはサロンの隅っこにあるソファに沈み込んだ。
「あー…疲れた…」
肘掛けにグデーっともたれかかり、目の前に置かれたソーダ水のグラスを手に取る。
「生まれはドコだの、ベルトルドさんとはどう知り合っただの、いつもはどこのお店で買い物するのだの…延々同じような質問してて、何が楽しいんだろう理解できないし!」
周りに誰もいないので、キュッリッキは遠慮せずに文句をぶちかます。
「皇太子の顔を立てたから、もう帰っていいよね…」
室内の中心部に皇太子は居て、取り巻きのように貴族たちに群がられている。
ああして取り巻かれることで満足しているのだろうか、皇太子の顔は自然な笑みで満ちていた。
キュッリッキはグラスをテーブルに置いて、のっそりと立ち上がった。すると、レディが1人泣きながら歩いてきた。
「あ…」
レディは顔を上げて、キュッリッキを見て口元をハンカチで抑えた。
「アタシもう帰るから、ここ、どうぞ」
泣き顔を見られたくないだろうなと思い、キュッリッキは視線をそらせながらソファを手振りで示す。
レディは少しすると、ワッとさらに泣き始めた。
「え…」
その場にしゃがみ込んで、レディはハンカチで顔を覆った。
(ど…どうしよう…)
キュッリッキは慌ててレディの傍にしゃがみ込み、そっとレディを立たせてソファに座らせた。
「あ、あのね、ダイジョーブ?」
レディはグスグスと鼻をすすり、ゆっくり頷いた。
「すみません、召喚士様…。お騒がせをいたしました」
「いいえ。落ち着いてきたみたいだね?」
「はい。感情が一気に込み上げてしまい、取り乱しました」
はあ、と切なげなため息をつき、レディは俯いた。
「アタシでよければ、話、聞くよ?」
すぐさま帰りたかったが、何故だかレディをほっとけず、キュッリッキは話し相手になることにした。
「婚約を、しました」
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
レディはどこか自嘲を、曇る顔に浮かべた。
「お相手の方は、伯爵家の後継者です」
そして、とレディは区切る。
「…わたくしとの縁談を、心の底から嫌がっておられるのです」
「え? なんで?」
「わたくしの家は、貴族ではないのです。上流階級の仲間入りをしていますが、平民…成金家なのです」
「所謂、身分違いとかゆーやつか。だったらなんで、相手はあなたと婚約したの?」
「お金の為です。伯爵家には莫大な借金があって、それで…。それに、わたくしの家はお金はあっても身分が低く、貴族との繋がりを欲しています。両親は相手の心情などお構いなしに、この結婚に乗り気なのです」
「あなたの心情だって、特大スルーじゃん…」
キュッリッキはレディの親と婚約者に向けて、特級侮蔑の視線を送った。
以前家庭教師グンヒルドから、貴族や上流階級社会の縮図のようなアレコレを聞いたことがある。
目の前で落ち込むレディの身の上は、その時に聞いた「よくあるハナシ」にピッタリと当てはまる。それほどマジョリティな話題らしい。
「わたくしには恋い慕う相手もおりませんし、この婚約は受け入れています。相手の方と思いあえれば良いと考えていますが、あの方は…」
悪口や侮辱的な言葉を、平気で周りに吹聴しているらしい。「結婚してやるんだから、ありがたく思え」的態度で接してくるそうだ。
「先ほども、殿下の目の前で侮辱されてしまって…。耐えられず、逃げて参った次第です」
「皇太子は何か言ったの?」
「……笑っておられました」
「はああああああ!?」
キュッリッキは拳を握り締めて立ち上がる。
「あなたには悪いけど、アタシ、辛抱なんてしないんだから!」
「え?」
「アタシからの助言は、今すぐ婚約解消して、相手の家が没落崩壊全滅するのを、高飛車に笑い飛ばしちゃえばいいわ!
何が貴族よ、何が身分違いよ、何様のつもりなの!
イイ? 甲斐性のナイ男なんて、こっちから願い下げていいわ!」
レディが呆気に取られている間に、キュッリッキはワインボトルが並ぶテーブルにずんずん大股で歩いていく。
「ごく潰しの甲斐性ナシな貴族なんて、ぺちゃんこに潰れちゃえばいいのよ」
ボトルを掴み、キュッリッキは目をギラリと光らせた。
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「ベルトルドさんいつも言ってた、この無能者め!ってね!」って言って、アタシは持ってたボトルでまず皇太子の顔面を殴りつけた。続いて、レディの婚約者とやらに、「身分なんてなんぼのもんじゃい!」って叫んで殴打してやったもんね!
鼻血と涙を垂れ流した2人の顔見て、胸がスッキリしたんだから。
サロンは大騒ぎになったケド、貴族連中は遠巻きに見てるだけだった。
まあ、そのあとアリサに叱られて、リュリュさんにこってり絞られて、皇王様には大笑いされたんだけどね…。
でも、レディは笑ってた。破談になると良いな。
アタシはアイオン族に生まれたけど、生まれてすぐ捨てられちゃったし、今じゃ戸籍ごと国に捨てられて、ヴィプネン族のこの国の人間になってる。だから身分なんて関係なかった。
身分ってもんが重要視される世界もある、って知ってる。でも、それでもやっぱ身分なんてくだらないって思うんだよね。
ベルトルドさんもね、生前言ってたことがあるの。「貴族なんてものは、廃れていくほうが世の中のためだ」って。自然とそういう方向へ持っていき、自然消滅させてしまうように、制度改革っていうのを進めようって。
すぐには無理だけど、将来そうなって身分なんてものが、結婚の妨げにならなければいいなって思う。
アタシは愛するメルヴィンと結婚できて幸せ。あのレディも、愛する人と結婚できると良いな。
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