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フリングホルニ編
episode766
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あれほど酷い目にあわされたのに、裏切られたのにもかかわらず、キュッリッキはベルトルドを憎むことができなかった。
それは、酷いことをされた以上に、深く深く愛されていたからだ。
生まれて初めて、愛していると言ってくれたのは、ベルトルドだった。
ファニーやハドリーとは、友愛を育んできたが、それ以上の愛をくれたのは、ベルトルドが初めてだったのだ。
親や同族から捨てられ、忌み嫌われ、人間から愛などもらったこともない。
ずっと、自分にだけ注いでくれる愛が欲しくて、愛に飢えていた。愛されることがどんなに幸せなことなのか、知りたいと願っていた。
血のつながりもない、なんの関係もなかったのに、ベルトルドは優しさと愛を惜しみなく注いでくれて、世界中で一番愛されている女の子にしてくれた。普通の女の子のようになれた。
ベルトルドが愛をくれたから、だからキュッリッキは愛を知った。そして、メルヴィンに恋をすることができた。
誰も気づいてくれなかった、与えてくれなかった全てを、ベルトルドはくれた。
労わるように、優しく見つめてくれるメルヴィンの手を、キュッリッキは両手でしっかりと握った。初めて恋をした人、異性を感じ、愛した人。この人と共に、ずっと生きていく。
ベルトルドから向けられる恋愛を、キュッリッキは受け入れなかった。それは、すでに父親の愛だと、認識してしまっていたからだ。アルカネットからの愛も、ベルトルドからの愛も。
神への復讐のために、キュッリッキの全てを傷つけた事実は許されない。でも、それ以上に与えられた愛が、キュッリッキの心から、憎む気持ちを拭っていた。
室内に大きく轟く咆哮。聴いたこともないような声であり、重く響く、悲しげな音も含んだ声。
呪いの力を受け、白銀の鱗を持つ、巨大なドラゴンとなったベルトルド。その背には翼が生えているが片方のみだけで、鳥の翼のようである。その翼は漆黒の色をしていた。
それに気づいたシ・アティウスが、震えるような声で呻く。
「やはりそうか、そうでしたか」
そばに集まっていたライオン傭兵団は、怪訝そうにシ・アティウスを見る。
「なるほど、なるほど、完全に合点がいきました。シグネから確証を得てはいたが、これを見れば納得できます」
「何に、合点がいったんで…?」
首をかしげるギャリーに、シ・アティウスはニヤリと笑ってみせる。
「ベルトルドとアルカネットの正体ですよ」
ライオン傭兵団の皆は、咆哮を上げ続ける白銀のドラゴンに目を向け、再度シ・アティウスを見た。
「正体って…まさか、人間じゃなかったんです~。とか言うんじゃ…」
どっからどう見ても、あれじゃ人間じゃないし? とザカリーはぼやく。
「あのドラゴンの姿は、キュッリッキ嬢の説明であったように、ユリディスの力によるものでしょう。私が言いたいのは、彼らのルーツのことです」
眼鏡のレンズをおし上げながら、シ・アティウスは教壇に立つ教師のような口調で説明を始めた。
「あの二人はスキル〈才能〉がOverランクという、人類史上稀に見る強大な力を有していました。思いっきり人外のレベルです。これまでトリプルSランクまでは記録に残っていますが、それも稀な方です。それに、アルカネットは魔法スキル〈才能〉の持ち主なのに、サイ《超能力》まで使ったそうですね」
「うん。威力は多分Aクラス並だと思うけど、空間転移まで使いこなすんだからビックリしたよー」
ルーファスが肩をすくめる。
「ベルトルドが使う”終わりなき無限の剣(グラム)”も、ギミックがいまひとつ判りませんでした。彼自身もよく判らず使っていたのですが、あれは魔法スキル〈才能〉によるものです」
はああああ!? とタルコットとヴァルトが揃って声を上げた。
それは、酷いことをされた以上に、深く深く愛されていたからだ。
生まれて初めて、愛していると言ってくれたのは、ベルトルドだった。
ファニーやハドリーとは、友愛を育んできたが、それ以上の愛をくれたのは、ベルトルドが初めてだったのだ。
親や同族から捨てられ、忌み嫌われ、人間から愛などもらったこともない。
ずっと、自分にだけ注いでくれる愛が欲しくて、愛に飢えていた。愛されることがどんなに幸せなことなのか、知りたいと願っていた。
血のつながりもない、なんの関係もなかったのに、ベルトルドは優しさと愛を惜しみなく注いでくれて、世界中で一番愛されている女の子にしてくれた。普通の女の子のようになれた。
ベルトルドが愛をくれたから、だからキュッリッキは愛を知った。そして、メルヴィンに恋をすることができた。
誰も気づいてくれなかった、与えてくれなかった全てを、ベルトルドはくれた。
労わるように、優しく見つめてくれるメルヴィンの手を、キュッリッキは両手でしっかりと握った。初めて恋をした人、異性を感じ、愛した人。この人と共に、ずっと生きていく。
ベルトルドから向けられる恋愛を、キュッリッキは受け入れなかった。それは、すでに父親の愛だと、認識してしまっていたからだ。アルカネットからの愛も、ベルトルドからの愛も。
神への復讐のために、キュッリッキの全てを傷つけた事実は許されない。でも、それ以上に与えられた愛が、キュッリッキの心から、憎む気持ちを拭っていた。
室内に大きく轟く咆哮。聴いたこともないような声であり、重く響く、悲しげな音も含んだ声。
呪いの力を受け、白銀の鱗を持つ、巨大なドラゴンとなったベルトルド。その背には翼が生えているが片方のみだけで、鳥の翼のようである。その翼は漆黒の色をしていた。
それに気づいたシ・アティウスが、震えるような声で呻く。
「やはりそうか、そうでしたか」
そばに集まっていたライオン傭兵団は、怪訝そうにシ・アティウスを見る。
「なるほど、なるほど、完全に合点がいきました。シグネから確証を得てはいたが、これを見れば納得できます」
「何に、合点がいったんで…?」
首をかしげるギャリーに、シ・アティウスはニヤリと笑ってみせる。
「ベルトルドとアルカネットの正体ですよ」
ライオン傭兵団の皆は、咆哮を上げ続ける白銀のドラゴンに目を向け、再度シ・アティウスを見た。
「正体って…まさか、人間じゃなかったんです~。とか言うんじゃ…」
どっからどう見ても、あれじゃ人間じゃないし? とザカリーはぼやく。
「あのドラゴンの姿は、キュッリッキ嬢の説明であったように、ユリディスの力によるものでしょう。私が言いたいのは、彼らのルーツのことです」
眼鏡のレンズをおし上げながら、シ・アティウスは教壇に立つ教師のような口調で説明を始めた。
「あの二人はスキル〈才能〉がOverランクという、人類史上稀に見る強大な力を有していました。思いっきり人外のレベルです。これまでトリプルSランクまでは記録に残っていますが、それも稀な方です。それに、アルカネットは魔法スキル〈才能〉の持ち主なのに、サイ《超能力》まで使ったそうですね」
「うん。威力は多分Aクラス並だと思うけど、空間転移まで使いこなすんだからビックリしたよー」
ルーファスが肩をすくめる。
「ベルトルドが使う”終わりなき無限の剣(グラム)”も、ギミックがいまひとつ判りませんでした。彼自身もよく判らず使っていたのですが、あれは魔法スキル〈才能〉によるものです」
はああああ!? とタルコットとヴァルトが揃って声を上げた。
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