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最終章 永遠の翼
episode773
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深々と嘆息し、キュッリッキは2匹の頭に手を乗せる。
「制限を解くことになるとは、さすがに思わなかったけど…。――召喚士キュッリッキの名において、フェンリルとフローズヴィトニルにかせられしグリーマヴェンドを、ソールとマーニの承認において、いっとき解除する!」
キュッリッキ、フェンリル、フローズヴィトニルの身体から、白銀色の光が噴きだし、室内に突如暴風が吹き荒れた。
「あわわわわ、ナンデスカーこれはっ!」
風に巻かれて飛ばされそうになり、シビルは床から足が浮いたところで、間一髪ガエルに尻尾を掴まれた。
「リッキー!」
両腕で身体を庇いながら、前方に立つキュッリッキに、メルヴィンは叫んだ。
背を向けて立っているキュッリッキは、長い髪を風に激しく嬲られ、ドレスの裾も乱れ揺れている。しかし、キュッリッキ自身は揺らぐことなくその場に立ち、しっかりと巨狼2匹の頭を押さえつけていた。
「大丈夫だよ! フェンリルたちの制限を解いたから、あっちとこっちが繋がる関係で、ちょっと荒れ狂ってるだけだから~」
振り返ることなくキュッリッキが叫ぶと、
「へえ~、そうなんだあ」
と、安堵したようにルーファスが言う。
「てえ! あっちとこっちってなんなの!?」
ハッとしたようにルーファスが叫ぶと、
「えーっと、アルケラとここ~」
なんでもないように、キュッリッキがのほほんと答える。
「なんだってえええええええええ!?」
ライオン傭兵団は絶叫した。
突如起こった暴風から身体を庇うため、ドラゴンは片翼を羽ばたかせ、自身を包み込むようにする。
目の前の巫女の身体が光だし、間の空間に黒い球体が生まれ始めている。それは少しずつ膨らみ、大きくなっていった。
ドラゴンは目を眇め、黒い球体をジッと見つめる。球体のずっと奥底から、ゾワゾワとするような気配が、ゆっくりと近づいていた。
明らかにその気配からは、殺意と敵意が自分の方へと向けられている。
危険を察知してドラゴンは大咆哮をあげると、自身の周りに透明で巨大な防御壁を築いた。
「さすがベルトルドさん、仕事が早いね」
素早く防御を展開したドラゴンに、キュッリッキは小さく微笑む。あの黒い球体の中から出てくるものに、警戒しているのだろう。
「グウゥゥ…」
低く喉を鳴らしていたフェンリルは、苦しげな表情を浮かべながら、身体を低く屈めた。そして、四肢を踏ん張る。
銀色の光に包まれているフェンリルの身体が、突如変形を始めた。
更にふた回り身体が大きくなり、銀色の毛足が伸びて、細い四肢が一回り太くなる。筋肉で盛り上がった背からは、巨大な白銀色の翼が生え、耳が伸び、ムチのような長い触覚が2本生えた。
狼の面影を残したまま、それは全く別の生き物の様相を呈していた。恐ろしくも神神しい姿に。
身体の大きさは抑えていたが、これが本来のフェンリルの姿である。この姿を見るのは、キュッリッキでも初めてだった。
逆にフローズヴィトニルは普段の仔犬の姿に戻ると、嬉々とした様子でフェンリルの頭に飛び乗った。
「我が聖域イアールンヴィズに住まいし眷属、スコル、ハティ、求めに応じ参集せよ!」
目の前の黒い球体に吠えかけると、そこから金色の軌跡を伸ばしながら、2匹の金色の狼が出現した。
金色の狼たちは、すぐさまフェンリルの前に駆け降りると、服従するようにその場に身を伏せた。フェンリルより一回り小さいが、大きな狼たちだ。
「免礼」
フェンリルが低く一言発すると、2匹の狼はスッと立ち上がる。
「巫女を脅かせしあのドラゴンの持つ力を喰らい、本来あるべき姿に戻せ。我らが父ロキの血を宿す者だ。思う存分に、その力を味わうがいい」
スコルとハティは歓喜の咆哮を上げると、すぐさま宙を蹴って飛び上がり、ドラゴン目掛けて襲いかかった。神の力を喰らえば、その分強くなる。またとない好機。
「始まった」
キュッリッキは小さく呟くと、目の前の空間を凝視する。
黄緑色の瞳を覆う虹色の光彩が煌き、その視線はアルケラへとつながっていく。
果の見えない雄大な森林の、最も高き木に止まる巨大な鷲の眉間に止まり、鷲の眉間にとまる一羽の鷹と目が合う。
「おいで、ヴェズルフェルニル!」
名を呼ばれた鷹は飛び立ち、導かれて空間を越えると、キュッリッキの差し伸べた細い腕にとまった。
鋭い爪は、しかしキュッリッキの柔肌を傷つけることなく、しっかりと腕を掴んでいた。
「いい子だね。フェンリルたちの戦いが済むまで、みんなを守ってあげててね」
ヴェズルフェルニルと目線の高さを同じにして微笑むように言うと、キュッリッキは ヴェズルフェルニルをメルヴィンに向けて放った。
その様子を見ていたメルヴィンは、反射的に腕を差し伸べる。ヴェズルフェルニルは迷うことなく、メルヴィンの腕にとまった。
「みんなメルヴィンのそばにいてね。その子がありとあらゆる超常の力を、跳ね除けてくれるから」
仲間たちに向かって肩ごしにニッコリと言うと、キュッリッキは前方へ顔を向けた。
「制限を解くことになるとは、さすがに思わなかったけど…。――召喚士キュッリッキの名において、フェンリルとフローズヴィトニルにかせられしグリーマヴェンドを、ソールとマーニの承認において、いっとき解除する!」
キュッリッキ、フェンリル、フローズヴィトニルの身体から、白銀色の光が噴きだし、室内に突如暴風が吹き荒れた。
「あわわわわ、ナンデスカーこれはっ!」
風に巻かれて飛ばされそうになり、シビルは床から足が浮いたところで、間一髪ガエルに尻尾を掴まれた。
「リッキー!」
両腕で身体を庇いながら、前方に立つキュッリッキに、メルヴィンは叫んだ。
背を向けて立っているキュッリッキは、長い髪を風に激しく嬲られ、ドレスの裾も乱れ揺れている。しかし、キュッリッキ自身は揺らぐことなくその場に立ち、しっかりと巨狼2匹の頭を押さえつけていた。
「大丈夫だよ! フェンリルたちの制限を解いたから、あっちとこっちが繋がる関係で、ちょっと荒れ狂ってるだけだから~」
振り返ることなくキュッリッキが叫ぶと、
「へえ~、そうなんだあ」
と、安堵したようにルーファスが言う。
「てえ! あっちとこっちってなんなの!?」
ハッとしたようにルーファスが叫ぶと、
「えーっと、アルケラとここ~」
なんでもないように、キュッリッキがのほほんと答える。
「なんだってえええええええええ!?」
ライオン傭兵団は絶叫した。
突如起こった暴風から身体を庇うため、ドラゴンは片翼を羽ばたかせ、自身を包み込むようにする。
目の前の巫女の身体が光だし、間の空間に黒い球体が生まれ始めている。それは少しずつ膨らみ、大きくなっていった。
ドラゴンは目を眇め、黒い球体をジッと見つめる。球体のずっと奥底から、ゾワゾワとするような気配が、ゆっくりと近づいていた。
明らかにその気配からは、殺意と敵意が自分の方へと向けられている。
危険を察知してドラゴンは大咆哮をあげると、自身の周りに透明で巨大な防御壁を築いた。
「さすがベルトルドさん、仕事が早いね」
素早く防御を展開したドラゴンに、キュッリッキは小さく微笑む。あの黒い球体の中から出てくるものに、警戒しているのだろう。
「グウゥゥ…」
低く喉を鳴らしていたフェンリルは、苦しげな表情を浮かべながら、身体を低く屈めた。そして、四肢を踏ん張る。
銀色の光に包まれているフェンリルの身体が、突如変形を始めた。
更にふた回り身体が大きくなり、銀色の毛足が伸びて、細い四肢が一回り太くなる。筋肉で盛り上がった背からは、巨大な白銀色の翼が生え、耳が伸び、ムチのような長い触覚が2本生えた。
狼の面影を残したまま、それは全く別の生き物の様相を呈していた。恐ろしくも神神しい姿に。
身体の大きさは抑えていたが、これが本来のフェンリルの姿である。この姿を見るのは、キュッリッキでも初めてだった。
逆にフローズヴィトニルは普段の仔犬の姿に戻ると、嬉々とした様子でフェンリルの頭に飛び乗った。
「我が聖域イアールンヴィズに住まいし眷属、スコル、ハティ、求めに応じ参集せよ!」
目の前の黒い球体に吠えかけると、そこから金色の軌跡を伸ばしながら、2匹の金色の狼が出現した。
金色の狼たちは、すぐさまフェンリルの前に駆け降りると、服従するようにその場に身を伏せた。フェンリルより一回り小さいが、大きな狼たちだ。
「免礼」
フェンリルが低く一言発すると、2匹の狼はスッと立ち上がる。
「巫女を脅かせしあのドラゴンの持つ力を喰らい、本来あるべき姿に戻せ。我らが父ロキの血を宿す者だ。思う存分に、その力を味わうがいい」
スコルとハティは歓喜の咆哮を上げると、すぐさま宙を蹴って飛び上がり、ドラゴン目掛けて襲いかかった。神の力を喰らえば、その分強くなる。またとない好機。
「始まった」
キュッリッキは小さく呟くと、目の前の空間を凝視する。
黄緑色の瞳を覆う虹色の光彩が煌き、その視線はアルケラへとつながっていく。
果の見えない雄大な森林の、最も高き木に止まる巨大な鷲の眉間に止まり、鷲の眉間にとまる一羽の鷹と目が合う。
「おいで、ヴェズルフェルニル!」
名を呼ばれた鷹は飛び立ち、導かれて空間を越えると、キュッリッキの差し伸べた細い腕にとまった。
鋭い爪は、しかしキュッリッキの柔肌を傷つけることなく、しっかりと腕を掴んでいた。
「いい子だね。フェンリルたちの戦いが済むまで、みんなを守ってあげててね」
ヴェズルフェルニルと目線の高さを同じにして微笑むように言うと、キュッリッキは ヴェズルフェルニルをメルヴィンに向けて放った。
その様子を見ていたメルヴィンは、反射的に腕を差し伸べる。ヴェズルフェルニルは迷うことなく、メルヴィンの腕にとまった。
「みんなメルヴィンのそばにいてね。その子がありとあらゆる超常の力を、跳ね除けてくれるから」
仲間たちに向かって肩ごしにニッコリと言うと、キュッリッキは前方へ顔を向けた。
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