238 / 882
記憶の残滓編
episode235
しおりを挟む
グンヒルドと2人きりになって、何をどう切り出し話せばいいか、キュッリッキは困り果てて途方に暮れた。人見知りで、自分から話しかけるのは苦手である。それに、家庭教師になってくれるかもしれない人だ。おかしなことを言って、気を悪くしたらどうしよう。そう考えると、自信がなくて声が詰まってしう。
「まだ、お怪我で体調の辛い時に、押しかけてきてしまって、ごめんなさいね」
優しく労わるように話しかけられ、キュッリッキはゆるゆると首を振った。
「大丈夫なの、アタシがベルトルドさんにお願いしたから」
どんな人が勉強を教えてくれるのか、とても興味があったから、わざわざ会いに来てくれたことは嬉しかった。
「わたくしはお引き受けする前に、生徒さんに会うようにしています。もし相手の方がわたくしを気に入らなければ、親御さんが雇って下さっても、嫌な気持ちで教わることになるでしょう。それに、わたくしも苦手に感じる生徒さんに教えるのは集中出来ませんし。なので、お互いが気持ちよく接することができるように、前もってお話をして決めるんです」
「じゃあ、これまでに、教えたくないなって思った人はいたの?」
「ええ、何人かおりましたよ」
(うわ…、アタシもその中の一人になったらどうしよう…)
これは、迂闊なことは口に出せないと、キュッリッキはより一層、緊張で固まった。
グンヒルドは湯気の立つティーカップを手に取ると、優雅な仕草で一口含んだ。
「ベルトルド様とアルカネット様が、それはもう、あなたのことを熱心にお話になっておりましたのよ。血の繋がりはないとのことでしたが、とても大切にされているようですね」
キュッリッキは嬉しそうに微笑みながら頷いた。
初めて会った時から、ずっとずっと、大切にしてくれる。愛されている。ただ、毎日毎日飽きもせず、自分を取り合い喧嘩をしていることだけは、いまだに不思議だ。
「あなたはベルトルド様が後ろ盾をなさっている傭兵団に、所属している傭兵なのだそうですね。傭兵のお仕事は、長いのですか?」
「8年です」
「まあ。10歳の頃からしているのですね」
素直に驚き、グンヒルドは何度か瞬きした。
一見、殺伐とした傭兵業とは無縁そうな少女が、10歳から傭兵をしているなど、驚きを禁じえないのだ。
「では、その8年の間に、基礎学校へ行こうとは思わなかったの?」
これには困ったように、キュッリッキは苦笑を返した。そしてちょっと迷うような表情をして、それからグンヒルドに顔を向けた。
「アタシ孤児で、ずっと修道院にいたんだけど、あることで7歳の時にそこを出たのね。それからは相棒のフェンリルと一緒に、あちこちを彷徨って、傭兵になるために危ないところを走り回っていたの」
傭兵ギルドに身請けてもらうためには、仲介者が必要になる。また、傭兵に弟子入りするためには、戦闘、魔法、サイ《超能力》などのスキル〈才能〉持ちに限られる。そうした公式的手続きを踏まず、ギルドに実力を示すためには、ある程度危険な賭けが必要だ。その最も手っ取り早い方法は、現場で実力と成果を知らしめることだった。
「まだ、お怪我で体調の辛い時に、押しかけてきてしまって、ごめんなさいね」
優しく労わるように話しかけられ、キュッリッキはゆるゆると首を振った。
「大丈夫なの、アタシがベルトルドさんにお願いしたから」
どんな人が勉強を教えてくれるのか、とても興味があったから、わざわざ会いに来てくれたことは嬉しかった。
「わたくしはお引き受けする前に、生徒さんに会うようにしています。もし相手の方がわたくしを気に入らなければ、親御さんが雇って下さっても、嫌な気持ちで教わることになるでしょう。それに、わたくしも苦手に感じる生徒さんに教えるのは集中出来ませんし。なので、お互いが気持ちよく接することができるように、前もってお話をして決めるんです」
「じゃあ、これまでに、教えたくないなって思った人はいたの?」
「ええ、何人かおりましたよ」
(うわ…、アタシもその中の一人になったらどうしよう…)
これは、迂闊なことは口に出せないと、キュッリッキはより一層、緊張で固まった。
グンヒルドは湯気の立つティーカップを手に取ると、優雅な仕草で一口含んだ。
「ベルトルド様とアルカネット様が、それはもう、あなたのことを熱心にお話になっておりましたのよ。血の繋がりはないとのことでしたが、とても大切にされているようですね」
キュッリッキは嬉しそうに微笑みながら頷いた。
初めて会った時から、ずっとずっと、大切にしてくれる。愛されている。ただ、毎日毎日飽きもせず、自分を取り合い喧嘩をしていることだけは、いまだに不思議だ。
「あなたはベルトルド様が後ろ盾をなさっている傭兵団に、所属している傭兵なのだそうですね。傭兵のお仕事は、長いのですか?」
「8年です」
「まあ。10歳の頃からしているのですね」
素直に驚き、グンヒルドは何度か瞬きした。
一見、殺伐とした傭兵業とは無縁そうな少女が、10歳から傭兵をしているなど、驚きを禁じえないのだ。
「では、その8年の間に、基礎学校へ行こうとは思わなかったの?」
これには困ったように、キュッリッキは苦笑を返した。そしてちょっと迷うような表情をして、それからグンヒルドに顔を向けた。
「アタシ孤児で、ずっと修道院にいたんだけど、あることで7歳の時にそこを出たのね。それからは相棒のフェンリルと一緒に、あちこちを彷徨って、傭兵になるために危ないところを走り回っていたの」
傭兵ギルドに身請けてもらうためには、仲介者が必要になる。また、傭兵に弟子入りするためには、戦闘、魔法、サイ《超能力》などのスキル〈才能〉持ちに限られる。そうした公式的手続きを踏まず、ギルドに実力を示すためには、ある程度危険な賭けが必要だ。その最も手っ取り早い方法は、現場で実力と成果を知らしめることだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―
kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。
しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。
帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。
帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる