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初恋の予感編
episode278
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「アルカネット様」
食堂へ向かおうとして、廊下を歩いていると呼び止められた。振り返ると困った表情のリトヴァが、横の通路から歩いてくるところだった。リトヴァの表情から察して、悪い予感がアルカネットの心に突き刺さる。
「どうしました?」
「それが……」
シワの刻まれた顔に片手をあて、リトヴァはため息をひとつつく。
「旦那様がすでに病院を発たれて、こちらに到着するのは、もう間もなくだそうです。いま病院からご連絡が…」
「…………」
笑みを絶やさないアルカネットの頬が、微妙にひきつった。ベルトルドのドヤ顔が、脳裏を一瞬で過ぎっていく。
正午くらいに帰宅の予定になっていた。そのつもりで主の帰宅に備えて、使用人たちは準備をしている。
退院前には診察もあるし、第一この時間では主治医が出勤してないだろうに。
「全く子供じみたかたですね…。向かっているなら仕方ありません。ついでにベルトルド様もヴィヒトリ先生に診ていただきましょうか」
アルカネットとリトヴァは、同時に深々とため息をついた。
美味しくもない病人食を、毎日3食きっちり決まった時間に出され、毎日決まった時間に診察があり、毎日決まった時間に起床と消灯。
”毎日”と”決まった”と”時間”の三拍子に束縛され、更に愛しい少女と会えない辛さを乗り越え、ベルトルドはついに監獄という名の病院から帰ってきた。
我が家へと!
「いま帰ったぞ!!」
ご機嫌で玄関の扉をバンッと開けると、誰ひとり玄関ホールにはいなかった。
あれ?という表情で辺りを見回していると、正面の階段から、ルーファスが眠そうにアクビをしながら降りてきた。
「ん? アレ、ベルトルド様、なんでいるんですか?」
開けっ放しの玄関扉の前で、腕を組み憮然と佇むベルトルドを見つけて、ルーファスは小走りに駆け寄った。
「なんか昼頃帰ってくるって聞いてましたから、早かったっすね~」
そんなルーファスをたっぷりと無言で睨みつけると、さも不愉快そうにベルトルドは鼻息をついた。
「出迎えはいない、欠伸した寝ぼけ面のお前に真っ先に会う、主が帰ってきたというのになんだ、使用人どもは!」
憤懣やるかたない、といった体である。
「あなたが予定時間より、ずっと早く帰ってくるからですよ」
ため息をつきながら、奥からアルカネットが姿を現した。
「おかえりなさいませ。セヴェリはどうしたんですか?」
「おう。退院手続きとか帰り支度とか色々あるから、まだ病院だろう」
素っ気なく答えるベルトルドを見て、アルカネットは露骨にため息を吐き出した。置いてきたのか、と目で責める。
「判りました。では、部屋へ行きましょうか。すぐ寝られるように、整えてありますから」
「俺はもう病人じゃないぞ」
「診察も受けずに帰ってきたひとが、何を言っているんですか。医者からの診断が下るまでは、おとなしくベッドで寝ていてください」
「ヤだ! 俺はリッキーの部屋へ行く!!」
「ダメですよ。今は入浴中ですし、身支度が整ったら診察時間です」
「別に俺が部屋にいたって、不都合なんかあるわけなかろう」
「いや、不都合ありまくりですって……」
ルーファスがぼそりとツッコむと、ベルトルドからギッと睨まれルーファスは首をすくめた。
「ルーファスの言うとおりです。とにかくおとなしく部屋へ行きましょうか」
「だが断る!」
ふんぞり返って我が儘を言うベルトルドに、アルカネットのこめかみに青筋が走る。
「ルーファス」
「イエッサー」
「何をするお前ら!?」
能面のように無表情なアルカネットと、なるべく目を合わせないようにするルーファスに、両腕をガッシリ掴まれたベルトルドは、ジタバタと抵抗も虚しく、引きずられながら自室へ連行されてしまった。
食堂へ向かおうとして、廊下を歩いていると呼び止められた。振り返ると困った表情のリトヴァが、横の通路から歩いてくるところだった。リトヴァの表情から察して、悪い予感がアルカネットの心に突き刺さる。
「どうしました?」
「それが……」
シワの刻まれた顔に片手をあて、リトヴァはため息をひとつつく。
「旦那様がすでに病院を発たれて、こちらに到着するのは、もう間もなくだそうです。いま病院からご連絡が…」
「…………」
笑みを絶やさないアルカネットの頬が、微妙にひきつった。ベルトルドのドヤ顔が、脳裏を一瞬で過ぎっていく。
正午くらいに帰宅の予定になっていた。そのつもりで主の帰宅に備えて、使用人たちは準備をしている。
退院前には診察もあるし、第一この時間では主治医が出勤してないだろうに。
「全く子供じみたかたですね…。向かっているなら仕方ありません。ついでにベルトルド様もヴィヒトリ先生に診ていただきましょうか」
アルカネットとリトヴァは、同時に深々とため息をついた。
美味しくもない病人食を、毎日3食きっちり決まった時間に出され、毎日決まった時間に診察があり、毎日決まった時間に起床と消灯。
”毎日”と”決まった”と”時間”の三拍子に束縛され、更に愛しい少女と会えない辛さを乗り越え、ベルトルドはついに監獄という名の病院から帰ってきた。
我が家へと!
「いま帰ったぞ!!」
ご機嫌で玄関の扉をバンッと開けると、誰ひとり玄関ホールにはいなかった。
あれ?という表情で辺りを見回していると、正面の階段から、ルーファスが眠そうにアクビをしながら降りてきた。
「ん? アレ、ベルトルド様、なんでいるんですか?」
開けっ放しの玄関扉の前で、腕を組み憮然と佇むベルトルドを見つけて、ルーファスは小走りに駆け寄った。
「なんか昼頃帰ってくるって聞いてましたから、早かったっすね~」
そんなルーファスをたっぷりと無言で睨みつけると、さも不愉快そうにベルトルドは鼻息をついた。
「出迎えはいない、欠伸した寝ぼけ面のお前に真っ先に会う、主が帰ってきたというのになんだ、使用人どもは!」
憤懣やるかたない、といった体である。
「あなたが予定時間より、ずっと早く帰ってくるからですよ」
ため息をつきながら、奥からアルカネットが姿を現した。
「おかえりなさいませ。セヴェリはどうしたんですか?」
「おう。退院手続きとか帰り支度とか色々あるから、まだ病院だろう」
素っ気なく答えるベルトルドを見て、アルカネットは露骨にため息を吐き出した。置いてきたのか、と目で責める。
「判りました。では、部屋へ行きましょうか。すぐ寝られるように、整えてありますから」
「俺はもう病人じゃないぞ」
「診察も受けずに帰ってきたひとが、何を言っているんですか。医者からの診断が下るまでは、おとなしくベッドで寝ていてください」
「ヤだ! 俺はリッキーの部屋へ行く!!」
「ダメですよ。今は入浴中ですし、身支度が整ったら診察時間です」
「別に俺が部屋にいたって、不都合なんかあるわけなかろう」
「いや、不都合ありまくりですって……」
ルーファスがぼそりとツッコむと、ベルトルドからギッと睨まれルーファスは首をすくめた。
「ルーファスの言うとおりです。とにかくおとなしく部屋へ行きましょうか」
「だが断る!」
ふんぞり返って我が儘を言うベルトルドに、アルカネットのこめかみに青筋が走る。
「ルーファス」
「イエッサー」
「何をするお前ら!?」
能面のように無表情なアルカネットと、なるべく目を合わせないようにするルーファスに、両腕をガッシリ掴まれたベルトルドは、ジタバタと抵抗も虚しく、引きずられながら自室へ連行されてしまった。
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