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次なる脅威

3・Chapter 1

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     セリア
――――――――――――――
 アビリティーの大騒動とファスタードゥルゴーイとの戦いから丁度、三か月が経過していた。
秋の空に冷えた風が後から私を押してくる。
あの日からエルディーは姿をまったく見せなくなった。
美鈴や郷間、ディーンにエルディーの母親。
ファスタードゥルゴーイに奪われた傷跡は大きく残っている。
私も、ショックが続いていたけど立ち止まるわけにはいかなかった。
アズマの家の中で、やっと土筆も元気を取り戻してくれたのだから。
でもエルディーは未だにダメみたい。
夏休みの間はともかく、二学期目の授業が始まったというのに来ないとは思っていなかった。
それに、一ヶ月前だっただろうか。
眠っていたアズマが行方不明になった。
「はぁ……」
つい溜息をついてしまうと、隣を歩いている来夢が顔を覗き込んでくる。
「大丈夫セリア?」
「えっと、そうね。少し考え事をしてた」
部室のある校舎に背を向けて、夕日に照らされながら校門の方へと歩いていく。
この街のアビリティー犯罪は多少ながら少なくなっているものの、三か月前の様に果敢に戦うエルディーの姿は何処にもなかった。
門を出たところで、見覚えのある制服姿が見えた。
久々の魔夜の姿にビックリして立ち止まる。
「魔夜っ」
「暑くなくなったからって、もうゴスロリ姿なんだ。あいかわらずね」
彼女も元気そうでなによりだった。
五徳市に巨大なワームホールが開いてしまうという、あの事件の日以前からの仲間。
困っている時にアドバイスをしてくれた、とても頼りになる友人が何の用事だろう。
うちの学校へと転校してきてから、魔夜も同じ部員の仲間なんだけど……
「えっと、今日は部室に来てなかったけど魔夜さんも帰宅中?」
「……私はセリアに用事があって来ただけ」
不愛想にそう言うと、私が間に入る。
「魔夜は人見知りなの。けっして悪気があるわけじゃないわ」
「なっ」
余計な事をと言わんばかりに魔夜から頬を掴まれた。
片手でほっぺたを鷲掴みにされて抑えられる。
「いはいふぁ」
「それで、魔夜さんはどうしてここに?」
来夢の言葉で我を取り戻して、私の頬から手を離してくれた。
ナイスフォロー来夢。
「日向にエルディーの様子を見にいったほうが良いんじゃないかって、そう言われたから」
「私も丁度そう思ってたところなのよ」
そうさっきの考え事は、この街にもう一度アビリティー犯罪者を倒す存在。
彼等にヴィテスと呼ばれていたファスターが必要なの。
私達だけでなんとかしようとしていると、やっぱり素人には限界があるもの。
それに、私の能力は特に人に対して使いにくいのだから。
来夢はだいたい分かったような感じで頷いてから、私の方を見てきた。
「エルディーの事はセリア達に任せる。私はこの学園に集中しはじめたアビリティー探しでもしてるよ」
門の前を通り過ぎようとしている朱里の腕を来夢は掴んだ。
スルーしようとしていたのか、掴まれてしまった朱里は驚いている。
「ねっ 朱里!」
「どうしてボクがっ」
帰宅途中の私達は、とても賑やかだった。
といっても放課後の次の活動へと方向を変えたのだけど、この街の一日はとても長く感じる。
フランスに居た時よりも有意義で、友人達との日々はとても刺激的だった。
この場で二組に分かれてから、私達は違う目的の方向へと帰宅途中の時間を使う事にして先へと進む。
校門から出て二手に移動しながら、私は来夢と朱里に手を振る。
エルディーのへと向かい、だいぶ前にも使っていた道を通り霧坂の一本道をゆるやかに下っていく。
そんな道中に魔夜が言葉を投げかけた。
「ねぇ、エルディーってどんな人だった?」
そういえば魔夜はエルディーとは決戦手前に少し会っただけなんだった。
「正義感が強いように見えたけど、けっこう傷つきやすいみたいね」
「ふーん。まぁ、立ち直れないのも分からなくないよ」
「でも立ち直ってもらわないと、少しまずいかもしれない」
私のその言葉に魔夜は疑問符を浮かべた。
今のところこの街にいるアビリティー犯罪は、少なくなり始めている。
警察も一部のアビリティーを雇っているからか、かなり抑止しているようにも見えるからだろう。
「シフォンさんに聞いた話なんだけど、比留間 祐司と比留間 光の二人が釈放されたそうよ」
「それって、フェボの?」
「アズマがあれだけ頑張って倒した組織のリーダーが、今になって釈放されるなんてね。私も思ってなかった」
きっと多額なお金を払ったのだろう。
大人というのはお金で物事を解決してしまう人間が多いみたいね。
あのアビリティー収容所を作った人間もそうだったのだろう。
「だから、いつ強敵が五徳市を襲ってもおかしくない状況なのよ。だから、ヴィテスの力は必要」
「それは分かるけど、そこまでして彼に戦わせる必要は無いんじゃない?」
「でも……」
「行方不明のアズマの事が気になるんでしょ」
その事を言われて私は反論できなかった。
私をあれだけ護ろうとしてくれていた彼が意識不明になって、気が付いたら行方不明。
街中を探しても、絶対に見つかりそうになり。
美鈴が居たなら見つける事もできたかもしれないけど、彼女はもうこの世にはいない。
「それは、そうだけど」
「あまり気を張り続けないように。私も日向に頼んで、何か探し出せる手段とか見つけているから」
「そう、ね。ありがとう魔夜」
話しながら歩き進んでいくと、懐かしい彼の家の目の前まで到着した。
大きめの物置はあの時のままだ。
ドアは新しいものに取り換えられているけど、庭は少し草が伸びはじめている。
外から見たら、まるで誰も居ないみたいに見えるのだけど……
私はとりあいずチャイムのボタンを押して鳴らす。
家の中で確かにチャイムの音が鳴っているはずで、二人は待っているけど反応が無い。
「でてこないわね」
私が言うと魔夜は面倒くさそうにしながら、チャイムのボタンを何度も連続で押す。
これは流石にうるさいんじゃないかなぁ、とか思っているとドアが開いた。
魔夜はドアが開いても尚ボタンを押し続けている。
赤髪の彼がワイシャツ姿で開いたドアの隙間から顔を覗かせていた。
「やっと出てきた。エルディー少し話があるのよ」
「……」
私達は彼の家に入れてもらった。
エルディー一人だけなのに二階建ての一軒家は、少し寒々しく寂しい感じがした。
リビングのソファーに私と魔夜が腰を下ろしていると、彼はコップに飲み物を注いで持ってきてくれる。
それも、とてもゆっくりだった。
前の様な速さはまったくない。
「ねぇ、単刀直入に言うと貴方の力が必要なのよ」
彼はテーブルに二人の飲み物を置くと、食卓台の方にある椅子へと座った。
どうも乗り気では無さそうなのは、ここに来る前から想像はできてた。
「どうして俺が必要なんだよ」
「アビリティー犯罪者が減ったといっても、未だに捕える事ができていない奴は自由に力を使ってる。それに数日前に比留間 光が釈放された。私達が倒したトランスエレクトルよ」
本当にどうでもよさそうな顔をしていた。
活気も無ければ、まるで部外者の様な素振り。
「街を良くするにはヴィテスが必要なの」
「俺じゃなくてもできるはずだ」
コップに口をつけてお茶を飲んで、テーブルへと置く。
魔夜は特に何を言うでもなく沈黙していた。
ほんとに様子を見に来ただけなんだろう。
「もう一度チームを集めたいの」
「俺とセリアだけでチームといえるのか?」
「……それは今後、考えていくつもりよ」
「俺は戦うつもりはない」
彼に一言に私は苛立ちを覚えた。
何だろうこの感じ。無気力な表情を見て私は腰を上げて立ち上がる。
「人を助けたいから戦ってた貴方が、今はその面影すらないわね。貴方の信念はどうしたのよ。仲間や大切な人が殺されたから、もう戦えない? ふざけないで。私はいなくなった人の分も色々やっていくつもりよ」
言いたい事をぶつけてから、少し溜息をする。
彼はそれでも動こうとはしない。
そんな様子を見て、私はどうでもいいと思い始めた。
もう彼は力にはならない。
だったら私自身でなんとかしていくしかないんだ。
美鈴みたいな天才エンジニアではないけど、この自分の能力が誰かの役にたてるのなら使いたい。
アズマが必死で護ってくれた様に、私はこの街を良い街にしたい。
「もういいわ。行こう魔夜」
「う、うん」
私がリビングから出ていくと、魔夜が後を追ってついて来る。
座ったままのエルディーはその場で座ったまま、リモコンを片手にテレビをつけていた。
もう彼は戦ってはくれないのだろうか。
玄関を出てから彼の家から遠ざかっていく。
封鎖区域である[[rb:巻阿 > まきあ]]区は現在、復興地として建物の修復が行われているけど、とても治安が悪い。
それでも街の人達はこの地で日常を過ごす為に、悪の能力者がいるこの街の生活を良いものにしようとしている。
なのにエルディーは、全然動こうとはしない。
私達が志高区へと足を踏み入れた頃、唐突に背後から猛スピードで車が通り過ぎていく。
それを見て分かった。
たぶん強盗犯なんだろうと思った矢先、車に追いついていく電流体。
「魔夜、あれって」
電流体は車の内部へと侵入してから、内部部品を破壊したのか急に車のスピードが下がり、そのまま道路で止まってしまう。
私達もその現場へと走って近づいてみると、電流体は外へと出てきて車の目の前で元の人間体へと再構築した。
比留間 光だ。
車から降りてきた男一人は、片手に黒いバッグを持っている。
降りてきて早々に彼は左手をコウへと向け、途端にエネルギー弾を発射して爆撃した。
だが、一瞬で電流へと変わり男の体を通過したかと思うと元の姿へと戻り背後からの飛び蹴り。
「私が見てるの、夢じゃないわよね?」
当時は敵としてエルディーと対峙していた彼が、私達の目の前でアビリティーを倒していた。
後からパトカーが男の車の近くで止まり、やっと追いついたのか警察二人が倒れている男の身柄を確保していた。
やはり強盗犯だったのだろうか。
コウは私の方へと一度視線を向けたが、直ぐに電気へと姿を変えて、街灯へと侵入して電線の内部を移動して消えてしまうのだった。
「えっと、魔夜。明日部室に来る?」
「かまわないけど」
「だったら来てほしいわ」
「わかった」
私はつい駆け出してしまった。
魔夜はあの道から帰り道違うから問題ないわよね。
急いで家へと帰って、ドアを開ける。
ブーツを脱いでから廊下を走ると、土筆の姿があった。
「あ、おかえりセリア」
「ただいま。夜ごはんの時呼んでくれる?」
「別にいいけど」
「おねがいね」
きょとんとしている土筆の横を通り抜けて階段を登った。
二階の奥にあるアズマの部屋へと駆け込んで、PCをつけてからスマートフォンを取り出す。
何か裏があるのか、比留間 光がアビリティーを倒しているところを目撃して違和感を覚えていた。
別の何かが始まりつつあるような、そんな気がする。
連絡先をタップしてから直ぐに電話をかけてみる。
相手が電話に出たのが分かり、声をかけながらキーボードを扱ってPC画面を見つめる。
「シフォンさん、今日 帰宅中に比留間 光が他のアビリティーを撃退して気になって」
『あの子の事ですわね。つい最近、ヴィテスを探し回っているという情報は耳にしましたの』
「エルディーを?」
『ええ。それで現在は見ての通り、アビリティー犯罪者に果敢に戦いを挑んでは捕獲まで追い詰めていますわ』
PCからSNSで色々なキーワードで検索してみると、トランスエレクトルの情報は沢山上がってきた。
どれも犯罪者を倒している事件の事ばかりが取り上げられていて、一般人がその事について話しているものばかり。
もしかして、正義に目覚めたとでもいうのかな。
「うぅむ。それと、エルディーの事だけど。やっぱりチーム再結成は無理かもしれないわ」
『それはまぁ、仕方ない事ですわね。どうせなら、トランスエレクトルをチームに招待してみてはいかがですの?』
「冗談よね」
『元犯罪者でも、改心している可能性だってありますもの。招待するもしないも、それはセリアの自由ですわ』
「考えてみるわね。それじゃぁ」
私は通話を切ってから机の上にスマートフォンを置いた。
PC画面に映っているのは、ぼやけた画像だけど間違いなく比留間 コウの姿だった。
本当に彼は、犯罪者を捕まえるのを目的に戦っているのだろうか。
あれだけエルディーに敵意を向けていたのに、アビリティー収容所から釈放されて急にああなるなんて思ってもなかった。
「ん~……どう思うミスズ?」
ついつい彼女の名前を呼んでしまう。
今は居ない彼女の名前を言うと、何だろう懐かしい匂いがしたきがした。
椅子へと座って目を瞑り、ゆっくりと深呼吸をする。
「郷間の時もそうだったんだから、招待してみるしかないわよね」
不意に笑顔になってからその事を決めた。
後から後押しされた様な気がして、私は目を開き立ち上がる。
何とかなるよね。

 翌日の校舎でいつものように自分の教室へと向かう。
もう霧坂学園の高等部へと転校してから五ヶ月くらいだろうか。
フランスでのお爺様との生活も楽しかったけれど、この生活にとても馴染んで、友達や部活も凄く楽しい。
此処へ連れてきてくれたアズマにも感謝してる。
元はといえば、フェボの連中に私が狙われていたからなんだけどね。
これも因果の流れ的な、そんなものなのだろうか。
アズマの事も凄く心配。
席に座ってから落ち着いていると、来夢がやってきた。
「もーにんセリア」
「おはよう」
やって来た来夢はいつも通り元気そうね。
「今日はブチョー来ないらしいよ」
「え、どうして?」
「受験勉強だって」
「部長が勉強なんて意外ね」
「私もそう思った」
私達の野坂部長に対するイメージは、勉強しない自由人な感じなのが抜け切れていないようだ。
でもやっぱり、部長は勉強すると言いながらもお菓子食べたりテレビ見たりしてそうね。
たぶん、部長に対するいべーじは変わりそうにないと思った朝だった。
学校の中はとても平和でおちついた時間を過ごせる。
いつも通りに授業を受けて、集中しているとあっという間に時間が過ぎていく。
朝だったのに気が付けばお昼の時間になっていた。
おちついているのに、時間が過ぎていくのはとても早い。
昼ご飯の後は友人達と他愛ない会話をして、また授業を受けてから掃除。
そしてやっと放課後がやってきた。
ホームルームの後のガヤガヤしている教室から出て、鞄を片手に廊下を移動していく。
超研の部室へと来て扉を開いてみれば、朱里と魔夜の姿があった。
「いらっしゃいセリア。来夢は?」
「教室のゴミ出ししてから来るって言ってたわね」
あまり居心地良さそうにしていない魔夜の姿を見ていると、何だか笑ってしまいそうになる。
朱里も本ばっかり読んでいて、あまり魔夜に関心なさそうだからかな。
会話が凄く少なそう。
ドアを閉じてから適当な椅子に腰を下ろして鞄を後ろに置いた。
「ねぇ、二人は共通点とかあったりしない?」
「「?」」
似たような表情で疑問符を浮かべている様に首を傾げる二人
ある意味で似た者同士かもしれないわ。
二人とも人見知り気味だから、仕方ないかもしれないけど。
「だから、朱里と魔夜がお互いに話せるような共通点。無いかなぁと思ったわけよ」
「「無い」」
何でそこだけ凄い共通点だすのよ!!
苦笑いを浮かべているとドアが開いて来夢がやってきた。
「ふぅ~、けっこうゴミ大変だった。そんで、今日は何だっけ。最近部活としてあまり機能してないけど」
「トランスエレクトルについての情報を集めてるの。皆は何か知らない?」
その言葉に来夢は少し考えているみたいだったけど、朱里は本にしおりを挟んでから机の上に置いた。
どうも何かを知っているらしい。
眼鏡をくいっと上げてから私の方を見る。
「電気系能力者のアビリティーだね。一時期はヴィテスと張り合っていたらしいけど、三章三敗でその内二回は仲間を引き連れてヴィテスを追い詰めていた。そのくらいかな」
「朱里は詳しいね。流石に戦歴なんて気にしていなかったわ」
私が来夢の方へと視線を向けると、やっと思い出したのか、はっと目を丸くして人差し指を上へ立てた。
「あーあのアビリティー。最近、犯罪現場で度々現れては犯人を無力化してる子だね!」
やっぱりそういう活動をしているのかな。
何が目的なのかは分からないけど、そういう事もふまえて話をするしかないかもしれない。
それにいざとなれば魔夜がテレパシーで覗き見もできるわけだから。
まぁ、それ以上の情報や噂は入ってこないわよね。
となると本題を話すしかないかな。
「私がシフォンさんと、アビリティー対策のチームを作っているのは皆知っているだしょうけど……トランスエレクトルに招待したいの」
「「「え!?」」」
三人の声が同時に放たれた。
息ぴったりね。
そんな中一番最初に朱里が私に言ってくる。
「今は良い事してるかもしれないけど、元は犯罪者じゃない」
「私は前にもヒートコンバージョンをチームに誘った事もあるし、もしかしたらって思ったの」
「うーん……」
「彼にも事情があってあんな事をしていたかもしれないし」
私の言った事に来夢は頷いてくれた。
朱里はまだ何だか納得いかなそうにしているけど、その気持ちも分からなくはない。
それでも私の様な炎を使う事しかできない能力よりも何倍も良い力を持っている彼は、チームに加わってくれれば凄く助かるもの。
「一応新しい拠点も既に用意してあるのよ。案内してもいいわよ?」
「ボクはパス。今の部活で満足してるからね」
「私は行く!]
来夢が立ち上がってから声を上げると、それを見てから魔夜が横目で私を見つめていた。
「一応、私も行くよ。日向も協力したがるかもしれないし」
「それじゃぁ、今から行きましょ」
私の言葉に二人は乗り気でついて来てくれた。
たぶん朱里は前のボディーガードさんとの関わりがまだあるのかもしれないわね。
随分普通じゃなさそうな人だったもの。
私達は部室から出てさっそく、元封鎖区域の巻阿区へと向かった。
未だに五徳市の上空に開きつづけている時空の穴。
日本の学会や世界的にも有名なあの穴は、ディメンションホールと命名されている。
未だに解明不可能な現象で、あの周囲へと物体が近づくと何かの力により弾き返されるらしい。
ファスタードゥルゴーイ。ジャニス・カリバンがやってきたのは、あの穴の向こうからと言っていた。
でも彼はエルディーがファスターになるずっと前からこの世界に存在していたみたいだけど。
その辺はよく分からないわね。
ディメンションホールの中心地なのが、私達が向かう巻阿区だった。


 太陽が沈み始めてから少し寒さを感じ始めた頃、バスから降りて目的の場所へと近づいていく。
前までは存在していなかった一つの博物館がその場所に有り、ここ一帯の中で一番多きい建造物になっていた。
そんな建物の外周から見上げて、三人で一度立ち止まる。
「セリア。もしかしてアレが新しい拠点。でかくない?」
「私もそう思うわ」
そう返しながら博物館の方へと足を進めていき案内しようとしていると、建物の正面ゲート。
ガラスのドアを突き破って男達が出てきたかと思うと、中からサイレンの音が鳴り響いているのが聞こえた。
もしかしなくても、博物館にあるモノを盗んでるわけじゃ……
両手に化石やよく分からない物を持って5人くらいの男達が出て行ってる。
「流石は巻阿区ね。まさか間近で強盗を見るとは思ってなかったわ」
彼等の方へと向かおうとした時だった。
近くの街灯から大量の電気が放電して彼等に直撃して、一気に結合してから人の形へと変わる。
ま、まさか!!
「はぁ、まるで雑草みたいだね」
倒れこんでいる男達は全身が痺れているのか、身動きができない状態になっていた。
火傷をしていない彼等の姿を見るからに、トランスエレクトルは電圧や攻撃の威力もコントロールしているのかもしれない。
倒れている彼等を縄でキツク縛り上げてからサイレンの音が聞こえていたのか、少し急いだ様子で移動しようとしていた。
それに対して私は炎を放射する。
「待ちなさい。トランスエレクトル」
「……君はヴィテスの」
「話が有るのよ。単刀直入に言うと、君にチームへ加わってほしいの」
両手に炎を浮かせながら、ある程度の警戒を怠らずに彼と対話する。
とうの彼はあまり警戒はしていない様だった。
「理由は」
「貴方ならヒーローになれる気がするから、じゃ駄目かしら?」
「あの時のヒートコンバージョンみたいにかい」
「そういう事よ」
彼は何かを思い留まっている様に見えた。
今回の強盗犯達は見た感じアビリティーではなさそうだった。
だとするとコウの目的は犯罪者を倒す事よね。
確証は無いけど、何かの為にそれをしているのは分かる。
「僕は君を信用する事はできない。僕の父親の居場所を聞き出そうと思っているのなら、残念だけど僕は何も知らない」
「そういえば、お父さんはフェボのリーダーだったわね」
今思い出したという事がバレたのか、コウは少し不思議に思っている表情を浮かべていた。
私はあたかもそんな事はないといわんばかりに平常な顔をして返す。
「……僕は君を裏切るかもしれないよ」
「だとしても、この街にはアビリティー犯罪者と戦う人物が必要なのよ。貴方も条件としては悪くないんじゃない?」
「僕は……」
彼が何かを言おうとした次の瞬間だった。
建物の上から飛び降りてきた一人の男が、コウへと襲い掛かる。
男の左腕は人間のものとは違う何かに変化していて、鋭い爪がコウへと直撃したように見えた。
急いで飛び退いたコウは、攻撃を間一髪回避してから表情を歪めていた。
「ケッ 外したか。だがやっと見つけたぜトランスエレクトルさんよォ」
「……」
「今日は逃がさねぇぜ」
コウは全身から電流を放ち操りながら、一気に彼へとぶつけた。
彼の左腕に直撃しているのに、まるで効果が無い様だ。
あの腕には鱗がついている。
魚類系の何かなのだろうか。どちらにしても、コウの力は彼に対して不利。
一気に突進してきた男のタックルに、コウは弾き飛ばされてしまう。
倒れこんだコウは電流体になってから彼の体に激突して通り抜けたが、やはり電気は効果が薄いみたいだ。
火傷をした皮膚が回復しているのが見える。
人間体へと戻ったコウへと振り返りながら、リーチの長い左拳で殴り飛ばした。
「来夢。念動力いける?」
「うん」
背を向けている男に手を向けて上へと上げただけで、簡単に男の体が跳ねあがった。
それを見てから私は青色の炎を大量放出して男へ衝突させる。
炎の勢いで空中からさらに吹き飛んで、男は地面を転げていた。
服に火が燃え移り、黒く焦げた皮膚は再び再生していく。
でも電気よりは効果が有るみたいね。
「クソッ……テメーをブチのめしたい奴は俺だけじゃねェ。せいぜいこの街の中で怯えてるんだな。ハハハハッ」
倒れこんでいるコウにそう言い残すと、左腕が変異している男は走り出したかと思うと、博物館の隣にある川へと飛び込んだ。
やっぱり魚類なのかな。
それにしても、今までに見たことが無いタイプのアビリティーが出てくるなんてね。
私は急いでコウの元へと駆け寄った。
「大丈夫?」
「正直、助かった」
「チームに加わるべきだと、私は思うわよ。きっとお互いに必要になるはず」
中腰で彼の方へと手を差し伸べると、コウは少し考えながらもその手を掴んだ。
交渉成立なのかな。
彼の体を引っ張ってから立ち上がらせると、これから始まるであろう新しい物語の鐘が鳴った気がした。
私達が次に必要なのは、アビリティーの情報だった。
戦いを有利に進めるのに一番重要なこと。
それをこの博物館にある秘密の場所で考えるの。
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