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第八章 開催!ゴーレムフェスティバル!

第七十六話 勝者!ゴーレム!

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 オレは振り向くとそこには下半身を失った戦乙女がぶら下がっていた。
 ぶら下がっていた?
 そう、右手に握っていた剣が宙に浮きそれが戦乙女をぶら下げているのだ。

「動いた?!なんで!?」

 戦乙女陣営から何か聞こえてきた!なんだ?

 宙に浮かんだ剣は切っ先をオレに向けると、真っすぐオレのところに突っ込んできた!
 あぶねえ!
 オレは障壁でそれを防ぐ!
 障壁で止まった剣を掴むべく手を伸ばすが、すぐにその剣は逃げ出した。

「な・な・な・・・なにごとだああああああ?!」

 実況の叫びがこだまする。

「あれは・・・あれは虚空の剣魔!?魔物なのだ!混生期時代に敵対生物を切り裂く為だけに作られた魔法生物なのだ!自立している個体が残っているなんて驚きなのだ!」

 マジか!?魔物か!なんでオレ狙いなんだよ!

「敵陣に放り込まれて起動させ、街や城などを内部から破壊する為に作られた化け物なのだ!動くものすべてを敵とみなすのだ!このままではまずいのだ!」

 てか動きが素早い!オレの周りをグルグル回りながらすごい勢いで斬りこんでくる!
 オレは顔をグルグル回しながらなんとか視界の中に収めつつ障壁で体を守る!
 このタイミングなら!
 オレは手のひらで飛んでくる剣にビンタをかますと、地面へと打ち落とした!
 そのまま踏みつぶしてやる!

「シオ上手い!いや!逃げられた!早い!あの魔物早い!」
「実況なんてしてないで今のうちに避難するのだ!あれは周りの動くものすべてを切り刻む様にインプットされているのだ!制御できずに自身の国をも滅ぼすような厄介な代物なのだ!」

 なにいいいいいいい!?マジか!おいセルジア!手伝え!

「了解だ!雷鯨の一撃受けてみな!」

 セルジアが生み出した強烈な雷撃!だが闘技場の周りに張られた結界によってその雷撃は防がれてしまう!

「は?やっべ」

 こいつつかえねええええええええええ!!!!!

「結界が生きてるうちは平気なのだ!今のうちに避難するのだ!レベッカもアレを相手にするには専用の装備がないとキツイのだ!」

 空中を飛び回る剣の魔物は、鬱陶しそうに体を振るうと掴んでいた戦乙女を振り払う。
 そして再びオレの方へと切っ先を向ける。
 戦乙女はこいつで斬りかかってきてオレの腕に切りこみを入れやがってたな。指も落としかけられたし。障壁無しで受けるのはちと危険か。
 飛んでくるタイミングに合わせて、払い落とす!何度か試すが地面に落とすだけで決定打にはならない!くそ!なんとか動きを止めないと・・・そうだ!

「シオ!どうするんだ!」

 ちょっと待て!今やるから!

 オレは再びタイミングを合わせて地面へと叩き落すと、間髪入れずにトリモチ弾を発射!地面に縫い付けると、動きを止めて上から拳を叩き込む!
 硬いっ!地面にめり込むだけでダメージが入んねえ!

「拳じゃダメか!」

 なんか・・・なんか・・・あれだ!

「どれだ!?」

 いいから黙って見とけ!

 オレはトリモチ弾を残弾全部ぶち当て直すと大角のベンチの近くに歩いていく。

「使うのか?」

 そこには恰幅のいいナイスミドル(?)なドワーフが待っていた。
 オレは頷くと、大角用のオリハルコンの槍を片手で持ち上げる。

「片手か、大角では勝てぬわけだ」

 すまんね。

 オレは今度はレベッカの方に目を向ける。

 えー、ロリっ子聞こえるか?ゴーレムのシオだ。

「ぬ?念話なのだ?ロリっ子?何のことなのだ?」

 やっぱ聞こえたか、それと気にするな。

「感情?いや、意思のあるゴーレムだったのだ!久しぶりに会ったのだ!」

 単刀直入に聞く。あの剣はどこを壊せば動かなくなる?

「うん?剣の握りと刃物部分の中腹に魔核があるのだ!そこを破壊すれば動かなくなるのだ!」

 了解だ!こいつでやってみるわ。

 オレは片手でオリハルコンの槍を持ち上げると、振り向いてトリモチだらけになった虚空の剣魔の上に立った。

「そいつの強度はオリハルコン並なのだ!一撃で仕留めるのだ!」

 相手は動けないんだ。外しようが無いよ。

 オレは槍を両手で持つと、地面に縫い付けられている虚空の剣魔の中心にオリハルコンの槍を思いっきり突き刺した。

 嫌な音と共にオリハルコンの槍にヒビが入り、オレの手の中で砕ける。
 虚空の剣魔も動きを止めた。
 これでこの騒動もお開きだ。



「えー、改めまして!優勝はシオ!セルジアのシオです!今レベッカ様より賞金の授与が行われます!」

『ワアアアアアアアアアア!!』

 歓声と共にオレとセルジアが紹介される。
 てかセルジア、お前当たり前のように手を振ってるけど何もしてないよな?

「いいじゃねえかシオ!こいつらの半分はオレのファンみたいなもんだろ?」

 ちげえよ!優勝したのはオレ!魔物退治したのもオレ!注目されてるのもオレ!

「けちくせえな!だけど一応オレ様がお前のマスター扱いだからな!賞金はオレ様の物だぜ?」

 や、金は使わない(使えない)からいらねえけどさ。なんか損した気分になるんだ。

「祭りなんだ!楽しもうぜ!」

 それもそうか。お前ここんとこちょい役だったからな。これくらい活躍の場があってもいいだろ。

「誰がちょい役だ!?」

 おめえだよ!ほとんどしゃべってねえじゃん!

「喧嘩はやめるのだ。ほれ、賞金なのだ」
「お、さんきゅー・・・ってあれ!?軽くね?」
「当然なのだ。シオはレベッカの作った檻を破壊したのだ。修繕費を抜いた金額はそれなのだ」

 セルジアが袋をさかさまにして振ると、そこから金貨が3枚ほど落ちてきた。

「き・・・金貨3枚って・・・」

 くはははは、よかったじゃねえか!酒瓶10本くらいにはなるんじゃねえの?知らねえけど。

「ふざけんなよっ!てめえが壊したんだからてめえが払えよ!」

 えー?そこはマスター様の仕事だろー?

「このっ!このっ!このっ!」

 蹴んな!

「ほれほれ、観客の前で漫才しててもつまらんのだ。早く歓声に応えてやるのだ」

 それもそうだな、失笑を浴びてるぜ?

「笑われてるのお前だろ!」

 オレは蹴られてるだけだもん?そもそも他の連中にはオレの念話聞き取れないだろうし。

「てめえ!覚えてろよ!」

 うははははは!まああれだ、観客にでも手を振るか。

「そーだな!」

 オレ達が歓声に応えると、会場から割れんばかりの拍手が降って来た。
 うん、こういうのは中々に気持ち良し!

「シオ、優勝もなのだが虚空の剣魔の討伐も見事だったのだ!褒めてつかわすのだ!」

 あ、どうも。

「しかもマスターが『あの』雷鯨セルジアだというのも驚きなのだ!久しぶりなのだな
!」

「おひさ~、てかレベッカもっとでっかくなかった?」
「色々あったのだ!」
「色々あったのか?じゃあ小さくもなるわな」

 納得すんの!?

「まあ色々あったんだろ?」

 適当だなおい。まあいいか?

「そうなのだ!いいのだ!」
「そうだな、それでだ。もう一つの賞品の事なんだが」
「ここで言ってもいい内容なのだ?人によっては内密な話になることもあるのだ」

 ああ、そうだな。こう言っちゃなんだが結構無茶なお願いだと思うから人には聞かれない方がいいかもしれないな。

「なら明日にでもレベッカの家に来るのだ!レベッカはほぼ毎日そこで鍛冶作業を行っているのだ!」
「そうするか、あと見世物になるのも飽きて来たし下がるか」

 そだなー。

「何やらお話合いは終わったようです!果たしてセルジアはレベッカ様に何を望んだのか!公表しないということは商売がらみではなさそうですね!兎にも角にも優勝はセルジアのシオで今大会は幕を降ろします!また四年後にお会いしましょう!それでは皆様!ごきげんよー!!!!!!!!!!」

『わああああああああああああああ!!!!!!!!!!!』

 最後の最後まで大歓声に包まれて、ゴーレム品評祭は幕を閉じた。
 これでようやく、オレの体が手に入るぜ!
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