半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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夏、海、カツオ5

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 結局のところ不審者らしき人物は見つからず、釣りは戸事が主導で再開されていた。コツでもあるのだろうか、それとも舞のセンスやその堪えようのなさが魚にも伝わってしまっているのか、釣り主が変わった途端に打って変わって入れ食い状態、大も小もと引き上げられては間髪入れず辛に締められあれよあれよと死体の山を築くこととなっていた。
 それを見てつまらないと感じるのは舞であり、釣果よりもどうだと言わんばかりに誇らしげに胸を張り人の悪い笑みを浮かべる戸事へ、しかし悪態をつくことも格好悪いと煙草の煙で口の中を苦くする。成果で何が変わるわけでもないのだけれどこうも負けを意識させられては根っからの反骨心に雷が落ちたようで、明日こそはとやる気も出るものである。
 そうこうしているうちに陽も暮れ、空が赤くなるとお開き、帰宅の準備かと思えば今日は宿泊するとのこと。ダンジョンの一部に簡単な小屋、木造の丸太づくりとコテージさながらの一軒家がお目見えしていた。普通のダンジョンならば警備員の1人もで常勤していなければあっという間に廃墟と化すが、水棲モンスターの多いダンジョンではむしろ地上は安全地帯、過去に壊されたことも片手で数えるほどしかないらしく、簡易宿泊施設程度の設備は備わっていた。
 掃除含め、その雑事は新堂ら男性の役目という訳で、釣りを切り上げた頃には夕飯と風呂の準備まで済んでいる用意の良さを見せていた。潮風に当たり汗と砂でざらつく身体を熱い湯で洗い流せるというのはなかなかに贅沢な話で、年功序列、ただ食材を焼いて焼肉のたれと和えただけのバーベキューを済ませた後は新堂から風呂に入ることとなっていた。
 その最後、舞が風呂から出た時である。頭から湯気を立ち昇らせて、頬は薄紅、心地よい疲労感から目がゼリーのように垂れ落ち、普段袖を通さない寝間着にタオルを首にかけてリビングへと戻ってきた頃のことだった。
「何やってるんですか?」
 カツカツと石をぶつける音が響く、お世辞も静かとは言い難く、そろそろ夜も静まりかえる頃である、4人がテーブルにお行儀よく座り卓を囲んでいた。
「麻雀」
「見りゃ分かりますよ」
 緑のマットに白とオレンジの牌、新堂の肩越しから覗けば十数の色とりどりが並び、
 ……ふむ。
 さも物知り気に舞は頷いて見せるも、その実まったくわかっていなかった。
「舞ちゃんもやる?」
「ルールわかんないのでパスします」
 辛の誘いを首を振って断り、煙草を吸う為部屋を出ようとする。波の音に耳を浸しながら煙で空に描く、普段ではなかなかできない風流を楽しむためである。
「――逃げるのか?」
「あ?」
 どうして喧嘩を売るのか、そしてどうして喧嘩を買うのか。似た者同士なのだから仕方がない。
 新堂の売り言葉に舞は足を止める、しかし頭の冷静な部分はやめろという、ただのカモであるから、ただ相手を気持ちよくするだけで自分は不機嫌になるならやらないほうがましである。
「できないなら仕方ないよなぁ。便利な言い訳ってやつだ」
「そんな安い挑発したって乗りませんよ。辛さんルール教えてください」
 冷静であることと舐めた真似に鉄槌を下すと意気込むことは同居していいようだ。
 舞は踵を返し辛の後ろへと回る。1ゲーム後が勝負のときだった。



 かつかつと秒針のようにリズムよく音が重なっていく。
 3時間の時が経過していた、麻雀とはテンポである、4人で行うゲームなのだから1人が詰まれば流れが途絶えることなる、だからこそ短い時間の中でも思考し、思考し、目を配り手を作っていく。
 やり方は理解した、単純であり奥深い、決して運だけが比重の大半を占めているわけではなく、駆け引きが重要となる。手が悪くとも強気に、調子が良ければ弱く見せ、何より出し抜くこと意表を突くことこそが勝利につながるのだ。
「ロン、リードラドラで3900ザンク
「またぁっ!?」
 つまり、ちょっとルールをかじった程度では到底勝つことなどできないということでもあった。
「なんで私ばっかり狙うんですか!」
 半荘はんちゃんを2回終え、ドベは共に舞である。幾度か上がれそうという場面もあったがタッチの差で他3人に上がられてしまい、つまりいいカモにされていた。
 残り少ない点棒を箱ごと新堂に投げて舞は頬を膨らませる、非常にマナーがなっていないことは承知の上、憤慨して暴れないだけまだ理性的と言えるほど勝負になっていないのだから。
「狙えるもんじゃねぇよ。リーチしてるのに危険牌バカスカ捨ててる方が悪いんだよ」
「じゃないと上がれないじゃん」
 舞には舞の言い分があるが、それは半ば駄々をこねているに過ぎない。それに何も皆から標的にされているわけでもなく、他3人が取り取られとちゃんと遊戯している中、度々舞が放銃するという、カモというよりは邪魔しているようで。
 ついには面白くないと椅子の上で膝をかかえる始末、恨みがましく他者を睨むも子供を見るような目で見られ、戸事からは勝ち残りながらも辛が付きっきりでそれはそれで面白くないようで、業の深いジレンマを目線でぶつけてきていたが、その辛はと言うと、
「舞ちゃん……麻雀はどちらかと言えば守るゲームなのよ」
 舞の裏から見た感想は稚拙、愚鈍、地雷原に自ら走り回る行為を極力オブラートに包んで伝えていた。
「……そもそも、なんでそんなに上手いんですか?」
「上手い訳じゃないんだが……前職の関係で接待用に覚える必要があったからかな。他にも競馬とか釣り、キャンプにオーケストラ、後はギターと株式くらいか。波平は?」
「僕も同じ感じですね。社交ダンスと観劇はやっとけと言われましたよ。戸事さんは?」
 話を振られ、相手は同僚なのに右往左往、小さな首が落ちるのではないかというほど震えるのは人付き合いが苦手では済まないようだが、最終的には首をすぼめ視線を逸らしながら、
「……華道、と……茶道、日本舞踊におこと……です」
「ふた昔前の花嫁修業みたいだな」
 茶化され、さらに小さくなる、目を瞑り時の流れが自分ごと消し去ってくれることを願っているようだ。
「なら接待してくれてもいいじゃないですか」
「やだよ。したらしたで怒るじゃん」
 言われ、舞は視線を横に向ける。そんなことない、とは言えずむしろ身に覚えがありすぎてそれ以上の言葉を失っていた。
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