半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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幕間 狂島と波平2

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 訂正すればよりドツボにはまると苦笑いして戸事はなんとかやり過ごそうとするがもう遅く、聞いてしまった新堂も居心地の悪い笑みを浮かべていた。
 それにしてもずいぶんと気安く話すようになったものだ。まだ他の男性の前では言葉につまることもあるが新堂になら落ち着いて話せるようになっていた。悪意的に見れば舐められていると捉えることも出来るが、いつまでもおどおどと怯えられるよりは幾分もマシだった。
 それでもいたたまれない雰囲気は払拭されず、お見合いで両者残されたような気まずさに、見ていただけの家主が口を挟む。
「……何やってんだか。で、それがどうしたんですか?」
「どうしたって……気にならないのか?」
「なりませんが。他人ひとがちょっと落ち込んだくらいでいちいち気にかけるつもりなんです? いつからそんな博愛主義者になったんでしたっけ?」
 舞は容赦のない言葉の雨を浴びせるが言っていること自体はまともである。喧嘩腰なことは彼女なりの愛嬌と目を瞑れば、聞いた方の浅慮が浮き彫りになっていた。
 なぜなら。
「本人に言うならまだしも、うちらに言って解決することじゃないでしょう? 同意したらアイデア出させて不同意なら自分が助けに動かなかった理由になる、そんな考えが透けて見えるような質問するもんじゃないですよ」
「そこまで考えてねえよ! 話の種を振っただけだろ、お前の中で俺はどれだけ性根の腐った奴に見えてるんだ!」
 思惑が事実かどうかは置いておくとして、そこまでこき下ろされれば抗議のひとつやふたつしたくなるものである。が、このままではただの喧嘩になることはこの1年弱の付き合いで判明済みであるから、その対処法が存在していた。
「しんさーん、判定どっち?」
 1口しかないコンロに向いて、背中を向けていた辛が呼ばれ振り返る。コンロには大きな鍋が置かれ、その蓋から白い湯気がもうもうと立ち上っている。
 辛はんー、と考える仕草をした後、
「64で課長の勝ちかしら。あんまり曲解したこと言われると次の話がしづらくなるし」
「よし! ……4割もこっちの過失あるか?」
「上司なんだから部下に相談しなくてもいいんじゃないってことで減点です。舞ちゃんの言葉が間違ってるとも言えないから。さぁチマキできたわよ」
 火を止め、ひときわ大きく湯気が出た鍋を手に持ち、辛はテーブルの上に鍋を置く。蓋を開ければ雪のように白い湯気と共に甘く香ばしい香りが混じり合い、茶色の樹皮をたこ糸で縛った塊がごろごろと転がっていた。
 それをトングでひとつ取り出しては紙皿にのせてそれぞれに手渡していく。火傷するほど熱い紐を解けば、中からよくよく染みたもち米と大粒の鶏肉、人参や椎茸が顔をひしめき合っている。
 視覚と嗅覚で味の保証がされているだけでなく、作りたてという贅沢も上乗せされている、不覚にも喉がなり思わずかぶりつきたくなるようだが油断は禁物、今そんなことをしてしまえば口内にマグマが流れるように焼けただれ、せっかくの美菜びさいも台無しになってしまう。美しい薔薇には棘があるように、食べるにしても作法、慎重さが求められていた。
「はぐっ、はふっはふっ……んんっ、んまい!」
 食前の感謝も忘れてしまうほどの魅力に、舞はその小さな口を大きく開き食らいつく。熱いものは熱いうちに食べることが一番の食べ頃とはいえ、転がり込んだ米は火を吐いて口の中を旨みとともに蹂躙する。吐く息は灼熱と化し、しかし甘辛い味が味蕾みらいを叩きつけるように刺激し頬が綻ぶことを抑えられない。
 まさに絶品、暴力的とも言える味わいの深さに拳大の粽などものの1分も掛からず平らげてしまう。その様子に含み笑いをする辛は追加の粽を舞の皿に乗せていた。
「もっと落ち着いて食えよ……しかし本当にうまいな。故郷の味って奴か?」
 一心不乱の舞に苦言を呈しながらも、新堂はその味を褒める。が、
「故郷じゃこんないいもの食べたことないわよ。こっちに来てから覚えたの、それに母親の手料理なんて食べた記憶もないわ」
 安易に人の過去を探るような物言いは墓穴を掘ることとなった。辛は気にしていないのだが他は別、露骨に責めるような目線を女性陣から浴びせられ、新堂は肩身を狭くして固く口を閉じる。
「何やってんだか。それより、そこまで言ったんだから部長の件どうにかしたいってことでいいんですよね?」
「あ、あぁ。まぁなんとか出来るならしたほうがいいんだと思うけど」
「なら呼べばいいじゃないですか」
 ……。
 新堂のみならず、ほかの2人すら黙ってしまうのは想定外だったようで、視線を集めてしまった舞は小首を傾げていた。
 最適解よりも最短ルートを爆走する、舞の性格ならその答えになることも当然であり、
「いや……そうかもしれないけどさ、なんて言って呼び出すんだよ。馬鹿正直に元気ないので飲みましょうで来るほど関係深くねぇぞ?」
「……」
 なるほどと考え込む舞。仕事ですら顔を出さないのに休日、部下の家に遊びに来るなどもってのほかだった。
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