半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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幕間 狂島と波平1

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「陰謀論者かぁ……」
 冬盛り、暖房のない資料室は身を切るような寒さが息を白くさせる。
 1人たそがれ呟いたのは狂島である。彼は雪混じりの雨が降る外を眺めてなにかする訳でもなくそこにいた。
 今年の冬は例年に比べ寒冬であり、グラウンドの端には砂混じりの雪が積み重ねられている。踏めばコンクリートが見える程度の積雪でさえ交通障害が起こるのが東京という土地である、人の気も知らずに降り続ける雪を人々は憎らしげに見上げていた。
 子供の頃はあれだけ騒いでいたのに、現金なものである。見方を変えれば風情があるなどというが、コンクリートジャングルにおいては自然災害というほかなかった。
 孤独に浸る狂島は何を考えているのか、寒空の下、ぽっかりと空いたグラウンドの穴を見つめているばかりで動く気配は無い。
 巨大なモンスターの1件のあと、ダンジョンワーカーは平穏そのものだった。この時代、何かあれば写真だ動画だと見つめる目は多いが、写ったものが何なのかを処理する脳みそは進化しているとはいいがたく、ろくに被害もなかったものだから新種のモンスターの一言でマスコミも黙ることとなった。宙に浮いた謎の暗い闇に関しては特に説明の機会すらなかった。
 しかし職員は別である。舞の言葉を聞いてしまったものから感染するように貧者の水、魔法についての質問が上司へと矢のように浴びせられ、特に現場にいなかった実働2部の部長など何も知らないのに部下だけは現地に多くいたせいで、混乱のあまりほかの部長に泣きつくように聞きに来る始末だった。1番事情に詳しく頼りにされる六波羅ですら知らんの一言で片付けたものだから、職員たちの間で根も葉もある噂が広まっていた。
 曰く、舞が魔法を授けたと。
 曰く、ダンジョンの食材には魔法を使う力があると。
 真偽はともかく、戸事が魔法を使ったことは事実であり、その直前食堂でフォアグラを作るガチョウのように下水よりもまずい食事をこれでもかと詰め込まれていたことも記憶に鮮明に残っていた。だからだろう、その日以来あれだけ人気のなかった食堂に職員が押しかけるようになったのは。その行動があまりに短絡的すぎて、社内でも問題となっていた。
 しかしそれだけの事である。それ以来戸事の手からメタリックパイナップルは生まれず、舞も追加の情報を広めていない。そもそも人事部の職員は冬の富士山麓で合宿中であるから、聞くことすら出来ないのだった。
 夢見がちの狂騒も現実を見れば落ち着いていくもの、暴徒が沈静化するように食堂の利用者が減るにつれて異様な熱気は冷めていき、時折なんの脈絡もなく自分の手を見て立ち止まる職員を見かける程度には平和な日々が流れていた。
 


「部長が落ち込んでる?」
 話を聞いた舞が愛用のパイプを咥えながら驚いた声を上げていた。
 先日雪深く積もる山から帰ってきたばかり、自室でしばらくぶりの暖かな部屋でのんびりと煙草を食んでいるところだった。
 見た目が幼くともお構い無し、事務仕事で鈍りきった身体を1人前の戦士へとクラスチェンジさせるには並大抵の訓練ではもの足らず、体罰が上等だった時代のしごきが可愛くみえる程度に訓練は過酷なものだった。身体能力に優れる新堂や辛が教官役だったことも相まって最終目標が高く、初日からボロ雑巾の方がまだ綺麗に見えるほど殴られ叩かれと全身綺麗な肌を探すことが難しいくらいには痛めつけられていた。
 1週間という合宿期間は社外に出るには長く、プロフェッショナルになるにはあまりにも短すぎる時間だった。身についたことといえばいかに教官の目に入らないようにいられるか考えるずる賢さと、どれだけ疲れていようと口に物を運ぶ貪欲さくらいなもの。舞の腑抜けた根性はついぞ矯正されることはなかった。
 過去最低の成績で合宿を終えたというのに反省の色すらない舞の休日、そこに居たのは人事部のメンバーである。昨日まで顔を合わせていたというのに今日もとなれば飽きがくるものだが、辛以外の全員がソファーに寝転び煙草を吸う姿はなんとも退廃的に映る。これには事情があり、本来するはずの反省会が行軍に遅れた舞のせいで予定の時間が取れず、あまつさえ帰りの車の中で爆睡してしまったがためにこうして集まっているのだった。
 朝9時と早くから始まった反省会の話題は当然のことながら舞の力量不足をどうするかの1点に尽きた。同じような体型の戸事にすら土をつけるどころか武器禁止、足を動かさない、しまいには片腕も使ってはいけないなどのハンデを貰ってなお勝負にならないのだからなんとも指導のしがいがないのであるが、本人の向上心すらなくては議論にあげることすら馬鹿馬鹿しくなるというもの。1年目だから、身体が小さいからなど言い訳は出来てもいずれ訪れるかもしれない緊急事態の際に戦力にならないでは本人が困るのだ。
 そんな周囲の願いとは裏腹に我が道を行く舞は、驚いてみせたはいいもののそれ以上話に乗ることはなくいつものように有閑を嗜んでいた。むしろ驚いてあげただけ感謝しろとでもいうようなふてぶてしさを今更気にするものはいなかった。
 話を振ってのは新堂で、彼は舞が興味を示さないことも織り込み済みで勝手に話し始める。
「合宿終わりの報告でな。なんというか覇気がなかったんだよ」
「そもそもそんなものありましたっけ?」
 鋭く差し込んだのは戸事である。言ってから気づいて口元を押さえるがもう後の祭り、普段からどう思っているかの本心が漏れ出てしまっていた。
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