半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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舞が壊れた日11

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 そう言って狂島は通話を切る。その足元、隠し扉が勝手に持ち上がり、くりっとした大きな双眸が闇に浮かんでいた。
「……聞いてた?」
「はい……まずかったですか?」
 目が合い、虫のように這い出て来た舞が言う。
 盗み聞きしていたことは悪いと言える。が、狂島は特に怒るでもなく首を横に振り、
「いや別に大した話じゃないから。それより後片付けしていたはずじゃないの?」
 聞くと舞は居心地悪そうな笑みを浮かべていた。
「肉の切り出しとか運搬とか肉体労働じゃないですか。体力も腕力もないって邪魔だから潰された研究室に使えるものがないか探しとけって言われちゃいまして……」
 有り体に言えば戦力外通告、それなら胸を張って答えられるものではない。
 誰かの差し金であるかと勘ぐることも出来たが、人の下働きをするような素直な娘出ないことを加味して、狂島は肩の力を抜いて笑う。
「何か見つかったかな?」
「いや全く。そもそも使えるかどうかの判断が私にはつきませんでした」
「それは新堂君の差配ミスだね。夜巡ちゃんが気にする事はないよ」
 言いながら珍しいと感じる。個人の能力や経験を無視するような初歩的なミスをしてしまうほど、彼女ならどうにかするだろうという盲信は上長として相応しいとは言えない。放っておけば舞だけでなく新堂にも悪影響であった。
 話は終わりを見せ、舞がではと軽く会釈をした時だった。
「あー、ちょっとまって」
 呼び止めると、少女は不思議そうな顔をして振り返る。
「前々から聞きたかったんだ。夜巡ちゃん、君は世界を変えるだけの力を持って今後どうしたいんだい?」
 力とは何も腕力だけではない、舞の知っている知識をひけらかし、い号ダンジョンのコアを制御出来れば世界中のダンジョンからモンスターを溢れさせ、人を人のままモンスターに変えることすら可能なのだ。そうなれば既存の統治が崩壊する、個人が軍よりも強い状況を危惧する声は大きかった。
 当然、公的な仕事についている狂島も同様の意見を持っている。そのため必要であれば舞の行動を制限することも可能だった。しかし予想よりも早く無茶をする少女に、部内の人間も影響されつつある現状、その立ち位置を確認したいと考えていたのだった。
 では当の本人はと言うと。
「……はい?」
 質問の意図がわからないと、首を傾げていた。
 それは演技には到底見えず、ただ狂島を滑稽に映していた。それなりにしっかりとした覚悟を持って聞いたというのに暖簾に腕押しではなんとも格好がつかない。
 しかし、やや紅潮した頬を隠すように額を押さえた狂島は、自分の質問の仕方が悪かったと言うように体裁を整えて、
「僕の話聞いてたでしょ? それについてどう思ったの?」
「はぁ……2つも仕事抱えてて大変だなぁ……とか?」
 それはまるで子供との問答のように要領を得ない。
 はぐらかされている、もしくは小馬鹿にされていると捉えられてもおかしくない舞の態度は、しかしその表情が本心であると告げていた。とにかく裏がないのだ、下手に勘ぐるほうが悪いと思わせる雰囲気にほとほと困るのは狂島の方だった。
「えー、そういうことじゃないじゃん。ダンジョン原理主義じゃないけどモンスターと人との共存が目的じゃないの? 僕はそれがまだ早いって止める立場なんだけど」
「共存は無理でしょ。あいつら人と見れば喜んで襲ってきますし。山ゴブリンだって相手が自分より弱いとわかれば話が通じても襲うんですから」
「そうかもしれないけどさ。家族と慕うくらいの仲なんでしょ?」
 狂島がそういった時だった。ふざける子供を眺める親のような、そんなため息が舞の口からもれていた。
「部長。その理論だと人類皆家族って言ってるのと同じです」
「あ、ごめん」
「確かに、家族と呼ぶものもいますよ。ダンジョンが勝手に作り出しているせいで彼らだって怯えているんですよ、記憶は無いのに文化や知識だけはある、その恐ろしさに発狂してしまうものもいる。だからといって人間を襲っていい理由にはならない。だから友好的に出来るならしたいけど、それで人が割を食うのは違うとは思いませんか?」
「ごもっともです」
 普段のちゃらんぽらんさはどこへやら、舞には舞なりに考えていることがあり、それが最もらしい正論であったがために狂島は言いくるめられていた。
 ダンジョンに居るモンスターは大きく分けて2種類ある。発生型と繁殖型だ。ダンジョンが突然生みだしたモンスターと、そこから繁殖し増えたモンスター。両者の違いが現れるにはまだ長い時間を要することとなる。それを知ってか知らずか、舞は信念を持って答えていた。
「何を危惧してるか知りませんけどお上の方針に逆らってまでやりたいことなんてないんですよ。いずれモンスターと人は今とは違う形で共存することになる、その時私はもう生きてないかもしれないですけどそれを急ぐ必要も無いってわけです」
「そっか……意外だなぁ」
「意外って……皆して適当なイメージで人を語らないでください。それよりいつまでも陰謀論者気取ってないで皆と仕事したらどうです?」
 相変わらず上司への口の利き方がなっていないがそれよりも話の内容に狂島は驚き、目を丸くしていた。
「陰謀論者って、そんなつもりはないんだけど――」
「そんなつもりないからそう思われるんですよ。本当に監視のためにいるなら私に付きっきりになるはずです。今日も思いましたけどやってることが中途半端、それなら愛想良くして相手の懐に入った方が目的に沿っていると思いますけどね」
 言いたいだけ言ってじゃあと舞は退室していた。助言が正しいかどうかなんて彼女には関係なく、ただ気持ちよく言い負かせればいいだけなのだからどうしようもない。
 1人残された狂島は浮かんだ言葉の向け先が居なくなったことに、どうにもならないもどかしさを感じて顔を顰める。彼も彼とて公務員であるがゆえの生真面目さが激昂するだけの無鉄砲さを封じてしまい、歯がゆさを噛み締めるしか出来ずにいた。
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