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終わりの始まり
しおりを挟む全てが最後だと思うと心の重りがどこかへ吹き飛び
随分と体がふわふわするような感覚だった。
僕はきちんと足が地についているのか不安になり、
冷蔵庫へ向かい毎朝のお供である某缶コーヒーを手に取った。
うん、問題なく歩けている。
満足した僕は缶コーヒーを一口飲んだ。
味も変わらず可もなく不可もなくといったところだ。
ソファーに腰掛けぼけっと窓を眺める。
真っ青な空を見ても驚くほど心は曇ったままだった。
あの時から僕の気持ちが晴れることはない。
僕の人生はもっと楽しいはずだった。
子供の頃想像していた未来と今を比べると
空虚感に見舞われる。
そんなよくある話を頭に巡らせていると
飼い猫のアンコが膝に乗ってきた。
いつもは寝てばかりなのに珍しい。
一撫ですると満足したのか窓際で日向ぼっこを始めた。
しかしその平和な景色に僕の心境はそぐわず、
それどころかドロドロとした何かが溢れそうなため
逃げるように出掛ける支度にかかった。
持ち物は毎日付けている腕時計とケータイ。
それだけでいいや。
相変わらず手を離すと空に近付きたがる風船のような体を必死に地に留める子供のような感覚でここに立っている実感がない。
僕が僕として在るのが落ち着かないというのか。
おかしな話だ。
そのくせ足取りは枷が嵌められたように重い。
アベコベな僕は靴を履くのもやっとだった。
じゃあな。アンコ。
焦げ茶色の猫が振り返る前に僕はドアを閉めた。
*****
先週迄の照り付く日射しは嘘のように
肌寒い風が頬を撫でる。
時計を見ると9月10日の6時17分を指していた。
もう夏も終わりだというのに
半袖半ズボンで出て来た自分を恨めしく思うのは一瞬のことで
歩み進める程に足取りは軽くなっていった。
目指す場所はこの街一番の景色を望める場所。
長い長い階段を登るものだからいつも汗ばみ、息を切らしてしまう。
それでも幾度となく通った場所。
ーーーあの人との思い出の場所。
辿り着く頃にはTシャツにはじんわりと汗が滲んでいた。
そこへ風が吹き抜けなんとも言えない爽快感があった。
房総半島最南端の灯台から望むのは太平洋の水平線から顔を覗かせた朝日だった。
十分美しい景色のハズなのに
記憶の中のこの場所はもっともっと美しかった。
好きなんだ。ここが。
あの人と共に生きた証がここにある。
唯一僕を象っていた記憶が少しずつ失われていくその前に。
この選択をあの人は愚かだと蔑むだろうな。
分かってるのに。
だけど目的を失った人は盲目だ。
どこへ進めば良いかも分からない闇の中を
いつまで歩き続ければ良い?
もう僕は終わりにしたいんだよ。
貴方に捕らわれたままの僕をそのままに。
気が付けば陽は高く昇っていた。
一歩踏み出すと僕の羽が生えたかのような足取りとは
正反対に重力を伴った僕の体は真っ逆さまに地上に落ちた。
じゃあな。僕。
落ちながら岩場にいた大きな黒い犬と目が合った。
こんなところに野生の犬が生息してるだなんて。
案外最後ってくだらないことを考えながら
死ぬもんだとこの時知った。
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