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一章
四話 前世の記憶
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―――夢を見ていた。それは、私が一度目の人生で好きな人に裏切られた日のこと。今でも忘れることはできない。
『お前と結婚しようと思ったのは、お前の家が金を持っていたからだよ。だけど家が火事で、明日から住む家もない。身内は全員死んだとなっちゃ話は別だ。
お前の家に婿入りすれば金も好き放題使えると思って、婿入りも仕方なく受け入れたってのに。今まで頑張ってきたのが水の泡だぜ』
『そんな……』
『お前を守るやつはいねぇ。憂さ晴らしに殴らせろ! 俺、一度でいいから綺麗な顔の女をいたぶりたかったんだよ!』
怒らせると気性の荒い性格なのは知っていた。だけど、優しいところもあるし、私の家族を大事にしてくれる。だから私は婚約の話を持ちかけられたとき、迷わず承諾した。
だって、私にとって彼は初めての人だったから。けれど、彼は私自身を見てはいなかった。
『いやっ……!!』
『今どんな気分だ? 生きたまま全身の皮を剥がれる気分はよぉ~』
『もう、やめ……て』
……肌が焼けるように痛い。それだけじゃない。
悲鳴もならない悲鳴を私は上げ続けた。その声は彼にはもう届かない。気がつくと私は全身を剥がされ、壊されていた。
彼は私を見て、「お前って醜いんだな」と言って、その場から姿を消した。
こんな姿になったのは誰のせい? 声が出せたら彼に一言いってやりたかった。でも、思い出すのは彼との楽しい思い出ばかり。彼を責めることはできない。全て私が悪い。
私が疫病神だから家が燃えた。家族や身内が全員死んだ。私だけが生き残った。けれど私は好きな人によって皮を剥がされ、息もできない。
私、このまま死ぬんだ……。
命が尽きる瞬間、私の目の前にいたのは一本の桜だった。……なんて綺麗なんだろう。季節外れの桜も悪くない。まるで私を迎えに来た神様みたい。
何故だろう? その桜が私を見て、涙を流しているように見えたのは。そこからの記憶はない。
そう、私はそのまま生涯を終えたのだから……。
◇ ◇ ◇
「……翠」
「んっ……」
声がする。どこからか、とても懐かしい、そんな声が。
「緋翠」
「庵、様?」
「いつまでもこんな所で寝ていたら風邪を引くぞ」
「今何時ですか!? すみません! って庵様、何をして……」
「なにって、膝枕だが?」
「……っ!」
私はバッと起き上がった。
「触れられるのは苦手だということはわかっているが、膝枕のほうが気持ち良く寝れると思ってな」
「……」
「うなされていたな」
「何か言っていましたか?」
「いや、なにも。ただ寝顔が少し苦しそうだった。膝枕をしたものの、男の硬い膝じゃ気持ち良く寝るのは難しいか」
「いえ、そんなことは……」
むしろ私が起きるまで膝枕をさせていたことで申し訳ないという気持ちが勝ってしまう。
「緋翠。腹は減ってないか?」
「え?」
「せっかくなら俺の団子を食わないか? 今後は俺の家に寝泊まりするわけだから嫌でも団子は食うことになるんだけどな」
「私、お団子はあまり食べたことがないんです」
「そうなのか? 団子は別に高級菓子というわけでもないだろう」
「……」
甘いものなんて滅多に食べられなかった。食事はいつも質素なものばかり。役立たずの私がお菓子を食べるなんてもってのほか。
……おはぎなら私と同じ世話係がこっそり持ってきて食べようとしたことはあるけれど、それが卯月に見つかってその場でおはぎは床に叩きつけられて、食べることはできなかった。
世話係はそれから卯月に厳しく怒られたとあとから聞いた。それ以来、私に少しでも優しくする世話係はいなくなった。
「団子をあまり食べたことがないというなら俺の団子をたくさん食べろ。もちろん食事も用意してやる。俺の作る団子は絶品だと住人からも評判がいいんだ」
「それは楽しみです」
「そうと決まれば、すぐさま団子を食わせてやる。行くぞ、緋翠」
「庵様っ……お団子は逃げませんから」
私の腕を引いていきなり走り出す庵様。男らしくて、やたら距離が近い顔が整った人だと思っていたら、次は無邪気な人という印象だ。
庵様を見ていると表情が毎回違うから見ていて面白い。見ているこちらまで元気になってしまう。
……おかしいな。庵様とは出会ってそんなに経っていないのに。
庵様が作ったお団子、そんなに美味しいんだ。早く食べてみたい。そんな話をしていたらお腹が空いてきた。
さっきまで死にたいと考えていたのに、それでもお腹は減る。人間って不思議ね。
今はお団子のことで頭がいっぱいだなんて、庵様に言ったら食い意地が張ってる女性だと思われてしまう。嫌われるのは嫌。だから、これは私だけの秘密。
でもお団子を食べるのは庵様と一緒がいい……なんて、とてもじゃないけど言えない。
私が寝てすぐのこと、庵様に接吻された気がするのは気のせいだったのかしら。庵様に聞いてみようかな。でも私の勘違いだったら? 庵様を困らせるわけにはいかない。
「緋翠? どうした?」
「いえ、なんでもないです」
……庵様の顔を見ていると顔が熱くなる。
どうしてだろう? 熱でもあるのかしら?
走っているから体温が上がっている。そうに違いないわ。そう、これは決して、庵様を意識してるわけじゃないんだから。
『お前と結婚しようと思ったのは、お前の家が金を持っていたからだよ。だけど家が火事で、明日から住む家もない。身内は全員死んだとなっちゃ話は別だ。
お前の家に婿入りすれば金も好き放題使えると思って、婿入りも仕方なく受け入れたってのに。今まで頑張ってきたのが水の泡だぜ』
『そんな……』
『お前を守るやつはいねぇ。憂さ晴らしに殴らせろ! 俺、一度でいいから綺麗な顔の女をいたぶりたかったんだよ!』
怒らせると気性の荒い性格なのは知っていた。だけど、優しいところもあるし、私の家族を大事にしてくれる。だから私は婚約の話を持ちかけられたとき、迷わず承諾した。
だって、私にとって彼は初めての人だったから。けれど、彼は私自身を見てはいなかった。
『いやっ……!!』
『今どんな気分だ? 生きたまま全身の皮を剥がれる気分はよぉ~』
『もう、やめ……て』
……肌が焼けるように痛い。それだけじゃない。
悲鳴もならない悲鳴を私は上げ続けた。その声は彼にはもう届かない。気がつくと私は全身を剥がされ、壊されていた。
彼は私を見て、「お前って醜いんだな」と言って、その場から姿を消した。
こんな姿になったのは誰のせい? 声が出せたら彼に一言いってやりたかった。でも、思い出すのは彼との楽しい思い出ばかり。彼を責めることはできない。全て私が悪い。
私が疫病神だから家が燃えた。家族や身内が全員死んだ。私だけが生き残った。けれど私は好きな人によって皮を剥がされ、息もできない。
私、このまま死ぬんだ……。
命が尽きる瞬間、私の目の前にいたのは一本の桜だった。……なんて綺麗なんだろう。季節外れの桜も悪くない。まるで私を迎えに来た神様みたい。
何故だろう? その桜が私を見て、涙を流しているように見えたのは。そこからの記憶はない。
そう、私はそのまま生涯を終えたのだから……。
◇ ◇ ◇
「……翠」
「んっ……」
声がする。どこからか、とても懐かしい、そんな声が。
「緋翠」
「庵、様?」
「いつまでもこんな所で寝ていたら風邪を引くぞ」
「今何時ですか!? すみません! って庵様、何をして……」
「なにって、膝枕だが?」
「……っ!」
私はバッと起き上がった。
「触れられるのは苦手だということはわかっているが、膝枕のほうが気持ち良く寝れると思ってな」
「……」
「うなされていたな」
「何か言っていましたか?」
「いや、なにも。ただ寝顔が少し苦しそうだった。膝枕をしたものの、男の硬い膝じゃ気持ち良く寝るのは難しいか」
「いえ、そんなことは……」
むしろ私が起きるまで膝枕をさせていたことで申し訳ないという気持ちが勝ってしまう。
「緋翠。腹は減ってないか?」
「え?」
「せっかくなら俺の団子を食わないか? 今後は俺の家に寝泊まりするわけだから嫌でも団子は食うことになるんだけどな」
「私、お団子はあまり食べたことがないんです」
「そうなのか? 団子は別に高級菓子というわけでもないだろう」
「……」
甘いものなんて滅多に食べられなかった。食事はいつも質素なものばかり。役立たずの私がお菓子を食べるなんてもってのほか。
……おはぎなら私と同じ世話係がこっそり持ってきて食べようとしたことはあるけれど、それが卯月に見つかってその場でおはぎは床に叩きつけられて、食べることはできなかった。
世話係はそれから卯月に厳しく怒られたとあとから聞いた。それ以来、私に少しでも優しくする世話係はいなくなった。
「団子をあまり食べたことがないというなら俺の団子をたくさん食べろ。もちろん食事も用意してやる。俺の作る団子は絶品だと住人からも評判がいいんだ」
「それは楽しみです」
「そうと決まれば、すぐさま団子を食わせてやる。行くぞ、緋翠」
「庵様っ……お団子は逃げませんから」
私の腕を引いていきなり走り出す庵様。男らしくて、やたら距離が近い顔が整った人だと思っていたら、次は無邪気な人という印象だ。
庵様を見ていると表情が毎回違うから見ていて面白い。見ているこちらまで元気になってしまう。
……おかしいな。庵様とは出会ってそんなに経っていないのに。
庵様が作ったお団子、そんなに美味しいんだ。早く食べてみたい。そんな話をしていたらお腹が空いてきた。
さっきまで死にたいと考えていたのに、それでもお腹は減る。人間って不思議ね。
今はお団子のことで頭がいっぱいだなんて、庵様に言ったら食い意地が張ってる女性だと思われてしまう。嫌われるのは嫌。だから、これは私だけの秘密。
でもお団子を食べるのは庵様と一緒がいい……なんて、とてもじゃないけど言えない。
私が寝てすぐのこと、庵様に接吻された気がするのは気のせいだったのかしら。庵様に聞いてみようかな。でも私の勘違いだったら? 庵様を困らせるわけにはいかない。
「緋翠? どうした?」
「いえ、なんでもないです」
……庵様の顔を見ていると顔が熱くなる。
どうしてだろう? 熱でもあるのかしら?
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