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八章 文化祭と抑えきれない気持ち

58話

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「前にも言ったけど、朱里にちょっかい出すのやめてもらえませんか」

「黒炎くん……、お、おはよう」

久しぶりにまともに目を見て挨拶した気がする。私の手を握ろうとしていた会長さんを無理やり引き剥がす黒炎くん。

「何をするんですか」

強引に離されたのが不快だったのか会長さんは鋭い目つきで黒炎くんを睨む。ヒッ! さ、殺気が出てるよ。
会長さんの凍てつくような表情にその場にいた全員がかたまっていた。ただし、一人をのぞいて。

「朱里、おはよう。……それはこっちのセリフです。大事な幼馴染に手を出すなって言ってるんですよ!」

「……」

強気な黒炎くん、カッコいい……って、見とれてどうするの私。でも、まわりが硬直する中、黒炎くんだけは会長さんに臆することなく立ち向かっていた。

「だったら、いつも守って側にいてあげてください。貴方を守ってくれる王子様も来たようですし、自分はこれで失礼します。王子と言ってもまだまだ半人前ようですが……」

そう言い残して、会長さんは教室から出て行った。それにしても王子様って……会長さんでもそんなロマンチックなセリフがって、今のは恋愛作家らしいといえばらしいのか。

「朱里、来るのが遅くなって悪い。今日はシフト空いてたら一緒に回ってくれないか?」

「うん。私も黒炎くんと一緒に文化祭楽しみたい! それで、あの……黒炎くんは執事服着るの? 」

「ああ、クラスの奴が用意してくれてな。本当は準備も少しじゃなくて本格的に手伝いたかったんだけどな。……だから、シフトは他の人より多く入ることにしたんだ。こんな形でしか返せないのがクラスメイトには申し訳ない」

やっぱり黒炎くんは優しい……自分のことよりも他人を優先しようとしてるから。手伝いも大変だったけど、接客のほうがよっぽど大変なのに。それをクラスメイトの為にって。私、黒炎くんのこと好きになって本当に良かった。

「ううん、そんなことない! きっと皆すっごく助かると思う。私も出来るだけ手伝う」

「朱里が一緒なら心強いな。ありがとな、朱里」

「どういたしまして」

私も少しでも黒炎くんの役に立ちたい。それに一人で行動しようものなら、会長さんが来そうだし。会長さんと話すのは楽しいけど、黒炎くんに申し訳ないし、なによりさっきみたいに電気が走るようなバチバチな喧嘩はしてほしくない。 

* * *

ーーー文化祭が幕を開けた。

「おかえりなさいませ、ご……ご主人様」

たくさん練習したけど、やっぱりいざお客様を相手にすると、このセリフは恥ずかしすぎる!

「おかえりなさいませ、お嬢様。お席までご案内します。……こちらメニューになります」

チラッと遠目で黒炎くんを見るも、練習にほぼ不参加だったのにめちゃくちゃ完璧に接客をしている。それどころか本物の執事みたい……凄くカッコいい。
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