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社畜先輩のストレス発散(独自手法)をさせたい後輩の話
しおりを挟むとっくに、ビルは消灯する時間を過ぎていた。ビルの中に詰められた人々は皆、金曜午後の浮かれた雰囲気を連れ立って帰宅しており、シフト制の警備員だけが見回りを続けている。正確には、残っている二人を省いて、だ。
残っている二人のうちの一人である七瀬は、いつの間にかこのフロアの扉が開けられる時間を把握していた。一回目の消灯である十時、それから十二時、三時……それ以降はさすがに分からない。大体三時までには七瀬も家に帰ってしまう。徹夜が必要な案件に携わった同僚からは、朝方は警備員の巡回はないとは聞いていた。
だが、そんな簡単に不確定な情報を信じ込んだりはしない。
「……篠宮さん、篠宮さん」
残っているもう一人の人間に、七瀬はこっそりと名を呼んだ。窓際の椅子に背を預け――他の椅子とは違い肘掛けがついていてそれがいつもちょっと七瀬には羨ましい――瞼を下ろしている男は、全く目を開ける様子がない。
きっちりと整えられた髪も、日中から緩まないネクタイも、どこか草臥れた様子をして着用したままの夜の主を着飾っている。
「今日もお疲れ様でした」
七瀬は眠りに落ちている篠宮の前に膝をついて、労いの声を掛けた。篠宮の帰宅がいつも遅いのは、彼の能力が低い所為では決してない。本来、よく仕事が出来る人間なのだが、よく出来るからこそか、上司からは面倒な案件を押し付けられ、部下や後輩からは上司への愚痴や不満を聞き、技術的に足りない点のフォローが回される。
そうすると、篠宮自身が抱えている仕事は後回しになり、篠宮は定時が終わり残業が始まる時間から、自分の仕事を始める羽目に陥っていた。散々、業務時間内に篠宮にフォローを求めてくる部下たちが定時になって素早く去るのを、彼はいつも「お疲れ」と笑って見送る。
悲しいかな、企業の求める理想的な中間管理職の姿であった。
かくいう七瀬も、篠宮にOJTで指導を受けて以来、数年は篠宮の下で働いている。面倒を見てもらった機会は数え切れず、誰とでも一定の距離を保っている篠宮も心なしか七瀬には心を開いてくれている――と思う。
眠りこけている篠宮の目の下には隈が出来ていた。OJTの時代にはここまで疲労はしていなかったと思うのだが。
「出来ませんって断ったらいいのに。篠宮さんってつくづく不器用だ……」
業務が増えすぎたり、自分の管轄外であれば断ればいい。何度も七瀬は忠言したが、なんやかんやと理由をつけて断らないのが篠宮だ。であれば、仕方がない。篠宮がやりたいと思う気持ちが、心の何処かではあるのだろう。奉仕精神と呼ぶのか、奴隷根性と呼ぶのか、慈愛と呼ぶのかは七瀬にはちょっと難しい判断になっている。
しかし、そういうところも含めて篠宮なのだから、七瀬もなんやかんやと理由をつけて、篠宮の仕事を手伝ったり、自分の仕事をする体裁で夜遅くまで残るようになった。
決して、篠宮と同じように、真面目に仕事をする意図ではない。
「今日もストレス発散しましょ、篠宮さん」
膝をついたまま、篠宮を見上げる。寝息を立てる彼の腰のベルトの下、ズボンの上から股間にちゅっと唇を寄せた。
まるで騎士の誓いみたいだ。まぁ、騎士とするには、七瀬の行為は褒められたものではないが。
ちらりと壁時計を見て時刻を確認する。十二時を過ぎていた。大体、篠宮がコーヒーを飲んでから、三十分ほど経っている。
篠宮は今日もよく眠っていた。
「今日もよく効いたなぁ」
執務机の上に置かれた紙コップに目を向ける。根を詰める篠宮に差し入れをする前に、睡眠薬をこっそり入れるのも日課になってしまった。もちろん、睡眠薬は無暗に服用すれば、薬の成分なしに眠りにくくなってしまう副作用が出る可能性がある。七瀬は可能な限り慎重に、服用させる睡眠薬の種類は選んでいた。
でも、こうでもしなければ篠宮はぐっすりと眠れない日が続くだろうと、勝手に自分の行動を正当化する。他人を救う気は欠片もないけれど、世話になった先輩兼上司くらいのことは気に掛けてはいるのだ。
七瀬は目の前にある篠宮のズボンのファスナーを下ろす。じじっと金属が擦れる音がした。開いたそこにそっと手を差し込み、まだふにゃりと垂れたままの肉棒をボクサーパンツの上から包むようにして撫でる。
「ん……」
夢見心地にもれた声が、頭上から降ってくる。毎晩ひそやかに行われるこの行為に、精神はともかく肉体は期待しているようだ。下着を割り、指を入れる。肉棒を絡めてズボンの隙間からまろび出させた。
すー、すーと規則正しい寝息が聞こえる中、七瀬は篠宮の肉棒の先端を指で突つく。その度に、ぴくっ、ぴくっと肉棒は反応した。
今日もちゃんと反応する。あまりに疲労していると勃たない日もあるかと思い、事前の確認は入念にしていた。幸い、眠りについたままの篠宮の肉棒が反応しない日などなかったが。今夜も入念に反応を確かめてから、掌で軽く扱く。
しゅっ、しゅっ。しゅっ……すりっすりすり……。
くちゅ……くちゅ……。
最初は肌と肌が擦れあうだけの音が、徐々にくちゅくちゅと音を立て始める。肉棒がぐっと質量を増して勃ちあがったのを見て、一度手を止めた。
七瀬はポケットから密封されたビニールの小包を取り出す。ビニールの端を唇に加えて慎重に封を切った。中に入っているコンドームの先の空気だまりを摘まみ、篠宮の陰茎の先に当てる。丸まったゴムを押し出すように、陰茎の根元まで丁寧にコンドームを下ろす。ぴっちりとコンドームを纏わりつかせた肉棒は、期待するようにぴく、ぴくと前後に揺れた。
「ふ……っ、はぁ……」
眠っていても身体の違和感はあるのだろう。或いは快楽を感じているのか。規則的な寝息が乱れ始め、溶けるような吐息が漏れ始める。
七瀬はコンドームの上から、再び掌で握り少し力を込めて根元から先端へ、ぐちぐちと強弱をつけながら扱いた。亀頭箇所に辿り着くと、人差し指と親指で円を作り、捻るようにして抉る。そして先端口に親指をスライドさせ、穴をぐりぐりと押し込んだ。
「あ……っ、は、あ、ふ、ふぁ……っ」
七瀬の頭上で、力なく篠宮の首が横に振られている。ぱさ、と髪がなだれて額に影を作る。反対に手で掴んだままの肉棒はぐぐっと固くなり、掌を押し返すようにびくびくと震え始める。
「ん……っはぁ……ぁっ」
「篠宮さん、何でも溜め込みすぎなんですよ。さっさとストレス発散しちゃいましょ」
一際、手に力を込めて竿をぐちぐちと揉み込む。もう片方で睾丸も揉み、親指を先端の口に当ててごしごしと摩る。
びくっ、びくっ。
心構えもなく刺激を与えられた肉棒がコンドーム越しにぴゅくぴゅくと淫液を吐いている。溜まった熱を吐きたそうに腰が揺れたのを見て、七瀬は熱いそこの根元からじっくりと先端に向かって扱き上げた。
「ぁ、ん――――っ♡」
身体の反応は弱いものの、確かな快感を得て腰が跳ねる。
どく、どく。腰を上下に振り立てて波打った肉棒が、堪りかねて精液を吐き出した。コンドーム越しに伝わった熱いそれを最後の一滴まで搾り上げるように、掌で追い込む。
「あっ♡ ああっ、ふ、あぁ……っ♡」
何度も身体を緊張させ、精を吐き続けた肉棒が、やがてぴくっと最後に震えてふにゃりと硬度を失う。
七瀬は時計を確認して、コンドームを外させながら欠伸をした。巡回が来るまではまだ時間がある。最近、篠宮の射精までの時間は短くなっていて、七瀬が人が来るかもしれないと緊張する機会も減った。
不思議なことに、篠宮が起きるかもしれないという緊張を抱いたことはない。
「ふぁ、眠……じゃあ篠宮さん、起きたら仕事の続き頑張って。頑張んなくてもいいけど」
深夜の零時を回るまで残って、上司のストレス発散をさせてやる自分は傍から見ればいい部下だろう。それは、職場という公共の場で眠った相手に許可なく射精させるという手段でなければの話であるとは、七瀬はあまり深く考えなかった。
◇
「篠宮さん、すみません、ここ分からなくて……」
「ああ、何処?」
「篠宮ぁ、A社の見積もり今日までで頼むわ。超概算で良いから、二十時までに回して」
「あっはい、分かりました」
今日も篠宮のデスクの周りは、ひっきりなしに人が訪れている。七瀬はその光景を呆れた目で見ていた。
――自分でやりゃいいじゃん。
篠宮に聞けば、回答なり見積書だったりがすぐに出てくるとでも思っているのか。まぁ知識や技術がある人間に聞くのは得てしてそうで、分かりにくい後輩の説明を聞いている篠宮は最後まで相手の言い分を聞こうと耳を傾けている。遮って回答をぽんと渡しちゃえばいいと七瀬は思うが、それでは相手が成長しないと生真面目な篠宮は考えているのだろう。
人が良いって厄介だなぁ。他人事みたいに思って、欠伸をする。
「眠そうじゃん、七瀬」
隣席の先輩が声を掛けてくるのに、七瀬は猫のように伸びをした。
「最近、夜更かしする機会が増えちゃって」
「なに? 趣味とか?」
「うーん……ストレス発散の手伝いっすかね? 趣味みたいなもんです」
「へー、ま、今日は早く寝ろよ」
「んじゃ、先輩、この案件引き取ってください。俺、今結構忙しいんで」
「ええ!?」
先輩が素っ頓狂な声を上げたが、七瀬はご丁重に案件を先輩へと回した。彼が何も仕事を持っていなくて、上手いこと仕事の話を躱し、のんびりと会社で過ごしていることなど七瀬は知っている。
篠宮と足して二で割れば、多分、ちょうどいい。いや、それでも仕事量は他に比べ多いか。
――今日もストレス発散させなきゃいけないかなぁ。
デスクの引き出しで小瓶を回し、真面目に考える。「七瀬、この案件、わかんねぇんだけど!?」と喚く隣席の先輩の存在は、綺麗に無視をした。
◇
「はい、篠宮さん。コーヒーです」
やはりいつもこうなる。
時刻は二十二時を回った。二人きりとなった夜の薄暗いオフィスで、七瀬は淹れたてのコーヒーを篠宮に差し出した。そこには勿論、睡眠薬を混ぜている。
この企業の良いところは、コーヒーと水が社員は無料の点だ。お陰で篠宮もあまりコーヒーを差し出されることに違和感を抱かない。良いところはその一点のみで、反して、この企業の悪いところは上げればキリがない。
パソコンから顔を上げた篠宮は、七瀬に向かって笑んだ。どれだけ仕事が立て込もうとも、篠宮が他者に厳しい顔を向けるところを、七瀬は見たことがなかった。
「ああ、ありがとう、七瀬。お前は今日もこんな時間まで残ってるのか?」
「そうでーす。ま、俺は残業代稼いで、仕事してますよアピールしてるんで」
この企業の悪いところ一点目。まだまだ残業時間が評価される、昭和気質である点だ。皮肉にも篠宮も評価される点だが、令和の時代に残業も何もと七瀬は内心思っている。
差し出されたコーヒーを口に含んだ篠宮は、静かに笑って答えた。
「そんなことしなくても、七瀬はちゃんと仕事してるよ。昔から手を抜かないだろ」
「手を抜くのって嫌なんですよね、自分に負けるみたいで。まぁ、俺も今日、先輩に仕事を押し付けましたけど。サボってるからムカついて」
七瀬は手を抜くのは嫌いだ。一度やると決めれば最後までやりたい。
冗談めかして本当の事実を言えば、篠宮が声を出して笑った。
「それはサボってる方が悪い」
「っすよねぇ」
やっぱり自分は何も悪くないのではないか。七瀬は確信を得た。
篠宮は仕事をサボってはいない。けれど――努力していない箇所がある。本人は無自覚だから、七瀬がそれをフォローするのは、ごく自然なことのように思えた。
やがて時計が零時を回ると、すー、とひそやかな寝息が聞こえてきた。
七瀬は先程まで映していた設計書を閉じて、篠宮の下へ向かう。
今日も薬はよく効いたのか、椅子に全身を預けた篠宮が、寝息を立てていた。見積書は既に送信が終わったのか、パソコンにはまた別の案件の工数見積もりの表が開かれている。
「……こりゃ、今日も篠宮さん、自分の仕事できてないな」
七瀬は肩を竦めた。恐らく自分の仕事は土日でカバーするつもりなのだろう。
「俺が篠宮さんの上司になって、適当に仕事を他の奴らに振ればいいのかなぁ」
仕事の再分配だけの能力で言えば、少なくとも篠宮よりはうまくやる自信はある。他の業務は非常に面倒だから、むしろ昇進はしたくないけれど。
言いながら床に膝をつき、椅子に座る篠宮の脚を広げさせた。股間に手を這わせると、小さな声が寝息に混じる。
「ん……」
「今日のストレス、今日のうちに発散させときましょ」
七瀬は呟いて、ジッパーを下ろした。いつものかちゃりとした音が響き、ボクサーパンツがズボンから覗く。昨日も何時に帰ったのか知らないが、帰宅して風呂に入り身支度をして誰よりも早く出社している篠宮は、ある意味で超人だなと感心した。
下着からいつものように肉棒を取り出す。先端を撫で、反応を確かめる。むずがゆそうに篠宮の眉が寄る。手淫を施せば、いつもようにぴくっぴくっ……と竿が勃ち上がり始めた。
「ぁ、はぁ……っ、ん……っ」
コンドームの袋を慎重に開け、取り出す。今更ながら、職場にコンドームを持ってきている社員がいれば、周りの人間はどう思うのだろうと一瞬考えた。七瀬は適当に乗り切る自信はあるが、持ち込み禁止という規則が出来れば面倒だなと思う。
無駄なことを考え、篠宮の竿にコンドームを取り付ける。ぴったりと装着させ、手で扱く。
その瞬間。
「……っあ、な、七瀬……!?」
頭上からはっきりとした声が聞こえた。七瀬は上を見上げ、あーあと思う。
「起きちゃったんすか。あんまりコーヒー飲んでなかったのかな」
「え、な、なに? 何をして……あっ」
篠宮が状況を認識する前に、既に反応していた肉棒を、ぐちりと僅か力を込めて擦る。びくっと腰を跳ねさせた篠宮は、いつもより反応が良い。
「起きてるとやっぱ反応違うんだな」
「ぁっ、はっ、あ、ぁっ、な、なに、なん……うあっ」
「ぐりぐりっ先端抉られるの好きなんだ、篠宮さん。じゃあ、親指でぐりぐり……」
「んんっ、ま、まって、あ――っ」
先端の口をぐりぐりと抉るようにして撫でると、篠宮が立ち上がろうとした。が、七瀬に竿を掴まれたまま亀頭まで舐められ、上げかけた腰を椅子へと下ろしてしまう。太腿に緊張が走り、制御が効かない脚がだんだんと床を蹴った。
「ふ、ふぁ、な、七瀬……っ」
「知らなかったや。舐められる方が好きですか? じゃあ直接フェラしてあげますんで、大人しく座っててください」
コンドーム越しに、ちゅくっと亀頭を吸い上げる。独特の感触がして眉を顰める七瀬に代わり、篠宮は全身を震わせてまたぴゅくりと淫液をコンドームの中に吐いた。
ぞくぞくと下半身から悦楽が込み上げてくる。七瀬を止めようとした手は、篠宮の自分の口に当てられた。
その様子を見た七瀬は息だけで笑う。篠宮にバレるなど、何も緊張しない。押せば流される。そんなこと、ほとんどの人間が分かっているからだ。
亀頭を指で挟むようにして摘まみ、捻っている間に、もう片手でコンドームを根元から外す。篠宮の目は見開かれ、七瀬の指に釘付けになっていた。
「は――ぁ、あっ」
「はは、期待してる」
笑ってから、七瀬は口を開いた。口を寄せ、先端口を舌で舐める。ぴゅくりと溢れた先走りを尖らせた舌先で掬い上げ、舌で穴をほじるようにした。
「ふ……ぅ、ぅあ、あっ、あぁっ」
「篠宮さん、嫌なら断らなきゃ駄目だよ」
唇でカリの裏を食み、ぐちゅりと音を立てて唾液を擦り付ける。ぐじゅ……と吸い上げれば、腰が突き出され、切なそうな声が聞こえた。竿が触って欲しそうにびくびくと震え始める。
「ぁ――っ、ん、し、しごと……?」
ぢゅぽっ。音を立てて口を外し、指で睾丸を揉み込む。じれったい快楽に、篠宮が眉を寄せて強請るように腰を振り立てた。椅子がぎいぎいと鳴っている。
「まぁ、仕事かな。今の問題は」
七瀬に襲われているこの状況を、篠宮が問題視しなければ。
とりあえず強く拒否はされていないので、七瀬はゆるやかな手淫を繰り返す。答えを促すように睾丸への揉み込みを強めれば、眦を赤くした篠宮が首を振った。
「は、ぁっ、で、でも、わ、私が、やらない、と……ぉっ」
年上の大人の男が相手なのに、必死で訴える篠宮を目の当たりにすると、七瀬には慈しみたくなる気持ちが沸いて出る。
「そう思っちゃうんだなぁ、篠宮さんは。でも、マジでそんなことないから。篠宮さんがいなくなれば他に誰かがやるんだって、身を粉にして尽くさなくてもいいんだって言っても、全然聞かないでしょ」
よく頑張っている。七瀬にそう思われても仕方がないだろうが、人の良さに付け込まれる篠宮を見ていると、そこまで頑張らなくていいとどうしても言ってしまいたくなる。
七瀬の掌が竿をきゅっと優しく掴み、先端に向かって扱き上げる。先端に辿り着けば尿道口を爪で少し引っかき、また根元の方へゆっくりと戻す。その度にぴゅくり、ぴゅくりと篠宮の肉棒の先端から淫液が零れ出て、ぐちゃりと静かなフロアに響く粘液の音量が増す。
手淫を続けられる篠宮は、必死で肉棒を扱く七瀬の手の上に自らの手を置いた。動きを阻止するために掴もうとしているのだろうが、力はまったく入っていない。
「頑張ってますよ、篠宮さんは。えらいえらい」
ぶるりと、篠宮の瞼が震えた。快感に歪んだ目に、涙の膜が張る。
「ふぁ……っ、あ、くぅ……っ」
声が大きくなったように、七瀬は思った。
「――大人になると、褒められる経験って減るから。成果が出ない頑張りって認めてもらえないというか……まぁでも、俺は分かってるんで。篠宮さんはいつも頑張ってます。上からも下からも毎日あれこれ言われて大変ですね」
「ハ……ッっ、あ、あぁっ」
びくりと大きく波打った淫液がぱたぱたと椅子の座面に向かって落ちていく。染みになっちゃうかもと七瀬は考えたが、面倒なのでそのままにした。篠宮は気付いていれば慌てただろうが、どうやら今はそれどころではないらしい。
腰の動きが激しくなる。きゅっと力が入り、射精体勢に入った肉棒の姿を見て、七瀬はちゅっと先端に唇を寄せた。僅かに濡れた感触に、篠宮は腰を後ろに引こうとする。
「ぁハ……ッ!」
椅子に腰を押し付けて逃げようとする肉棒を、七瀬はのんびりと口で追った。七瀬の呼吸が当たる度に、期待をした肉棒がひとりでに上下に揺れる。零れた先走りでぐっしょりと濡れたそこは、てらてらと夜の月の光に反射していた。
口を開き、亀頭までを口に含む。びくっと跳ねた腰が七瀬の口内に肉棒を押し入れようとするのを、腰を押さえて止める。
口を窄め先端を吸い上げ、舌で尿道口を抉り、包皮の内側を舐める。
「あっ――! あ、あう、っあ、ああッ」
篠宮の手が七瀬の髪を掴んだ。引き離そうとする手は、舌で愛撫を加えられる度に弱まり、最終的に髪を掴んだまま、篠宮が腰を前後に振る。
七瀬は思わず笑ってしまった。もっと口内の奥深くまで使ってフェラをしてほしいと望んでいる姿にしか見えなかったからだ。
「ふっ……」
「あ――っ」
僅かに歯が先端に当たり、ぎゅうっと篠宮の膝が中心に割り込んだ七瀬の頭を両側から押す。身動きが出来なくなった七瀬はじゅう……♡と液体が絡む音を立てて、先端から一度口を外した。
「篠宮さん、動けないから。力抜いて」
「は、はぁ……んっ」
急に刺激の無くなった篠宮が切ない喘ぎ声を漏らす。期待をしていた分、裏切られたと感じたのか、肉棒はびくびくと震え再び七瀬の口内に迎えられるように、媚びて淫液を零した。
くしゃりと、七瀬の髪を掴んだ指が訴えかける。
「寝てた時は弛緩してていい感じなんだけどな。膝の力抜いてよ、篠宮さん」
「そ、んなこと、言われても……」
「出来ない? まぁ出来なくてもしょうがないっすね。出来ないことがあっていいんですから、人間は」
これ以上、篠宮に期待をかけるのは可哀相だ。七瀬は篠宮のストレスを発散させたいのであって、追いつめたいわけではない。普段よりは口が自由に動かないものの、その分じっくりと愛撫できるだろう。
再び口を開き、舌で先端から押し出されてくる先走りを舐め取る。舐めれば舐めるほど肉棒はひくつき、ますます淫液を吐く。
「ぁ、ぁ――っ」
決定的な刺激に飢えて、膝ががくがくと狭まり、七瀬の頭を責める。早く、早く、と訴える肉棒が上下に揺れる。七瀬は竿を指で摩って、陰嚢を軽く揉んだ。精を蓄えたそこはたっぷりとした感覚を七瀬の指に伝える。
「もどかしそ。じゃ、いただきます」
「ヒっ、あ、あぁ~~ッ」
歯を軽く立てて包皮の上をなぞり、亀頭の下の窪みを擦る。びゅくっと先端から淫液が溢れた。だが、まだ本域の射精には至っていない。熱い口内に迎え入れられ、前後左右問わずに跳ねる肉棒を、七瀬はしっかりと頬の動きで固定した。歯を立てて痛い思いをさせないように、出来る限り開いてゆっくりと唇に力を込め、食むように陰茎を根元まで辿る。
昂った神経を唇と舌、口内の肉の優しく熱い温度で包み込まれて、篠宮の声に甘えるような艶が載った。
「あっ、あぅっ♡ んんんっ♡ あ、ああ~~~ッ♡」
「……ふっ、ふあいい」
「~~~っ♡、あ、やめ、そこで……ッはな、さ、なっ」
きゅっきゅっと口内を窄ませる度に、柔らかな圧迫感を与えられた肉棒が堪りかねて淫液を吐き出した。
慣れ親しんでしまった淫液の味が口に広がる。七瀬は喉を鳴らして飲み込み、摩擦でいたくならないように唾液を絡ませながら、じゅっと音を立てて肉棒を吸い上げる。精嚢から精液を搾り取られるような感覚が腰全体を襲い、篠宮は己の肉棒を七瀬の口内に押し付けて仰け反った。
「で、でる、ぅ、あ、あ~~~~~~~っ♡」
「――――っ」
内側に籠った熱を解放するように、激しく揺れた腰が緊張し、篠宮は吐精していた。七瀬の口の奥に放たれた青臭い精液を、七瀬はどうにか飲み込む。気持ち悪さはあるが、それよりも篠宮が甘ったるい声を上げて、七瀬の手で快楽を得ている姿への満足感の方が勝つ。
再び舌で波打つ肉棒を舐め上げ、喉の奥を窄めるようにして口を前後に動かす。篠宮の身体に残っている精液を一粒残さず搾り上げる。
「んん゛ッ♡ あ、いま、だめ、ま、また、でて……っ♡」
篠宮が身をくねらせ、射精したばかりの敏感な肉棒を愛撫される刺激から逃れようとする。けれど、肉体は篠宮を裏切って二度目の射精まで追いあげた。
「はっ、あっあぁ゛~~~~っ♡」
一度目よりは勢いも落ちた精液が放たれる。びくっびくっと震えて押し出されるそれを舌の奥で嘗め取り、指で精嚢を揉む。七瀬の頭の横にあった膝は、己の衝撃を表すのに必死で、既に力は失われていた。自由になった七瀬は腕で篠宮の膝裏を抱え、己の方へ引き寄せる。逆に頭を篠宮の股間に押し付けるようにし、より深くまで篠宮の肉棒を咥え込み、自分の頭ごと前後に動かす。
ぢゅっじゅうううっ♡
わざと淫猥な音を立てて吸い上げた。
「あぁ゛っあ、いっ、い゛――――あああ゛っ♡」
肉棒に与えられる柔らかな快楽に負けた陰茎が吐精する。篠宮は真っ白となった頭で、射精中の敏感な体に優しく続けられる愛撫に己の身を委ねた。溜まっていた精がどんどんと吐き出され、幸せな虚脱感が襲い掛かる。
じゅるじゅる……♡
ようやく音を立てて、七瀬の口が肉棒から離れる。最後に先端をちゅっと食まれ、ぴゅくり♡と最後に残った精液が溢れ出た。とろりと糸を引いて落ちるそれが、椅子の座面に吸い込まれる。
「は、はぁ♡ はぁ……っ♡ っあ、はぁ♡」
全身を脱力され、射精の余韻に浸る篠宮を七瀬が膝元から見上げる。口を拭った彼は、唇に笑みを浮かべた。
「射精すると幸福感が増えて、ストレスが減るって調べたんです。篠宮さんはいろいろ抱えがちだから、一日のうちに発散しちゃった方がいいでしょ。どうです、今、幸せですか?」
篠宮の潤んだ目が七瀬を見やる。呆然としながらも確かな悦楽の余韻に、彼の口元は緩んでいる。
「あ……っ、しあわ、せ……」
「良かった良かった。篠宮さんが誰かに頼まれごとされても嫌って言えないうちは、こうやってストレス発散しましょ」
篠宮はまだ陶然としながらも、のろのろと顔を動かし――やがて、自分の意思を持って明確に頷いた。
ーーーーーー
お読みいただきありがとうございました!
翌日の話(乳首責めオンリー)をFANBOXに掲載しています。
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