土の魔法使い

前田有機

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第11話 裏切り者

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 人混みは、皇宮の入り口に近くなるにつれ、増えていく。それは当然のことだ。
 皇宮の出入りは全て正面の正門が担っている。皇宮内部には一般的には入ることができずとも、こうして人が集まるのはやはり皇帝の求心力の高さが成すもので、正門の付近には飲食店や、土産物屋など多様な店舗が軒を連ね、一種の観光名所となっていた。
 そんな、帝都で一番、いや帝国内で最も人を集めるその場所は世間をあまり広く知らない幼い少女には輝かしい場所のようで、
「なんなの、ここは! まるで、ここだけで一つの国みたい!」
 道の両側に隙間なく詰め込まれたように軒を並べるそれら店舗は一つ一つの品揃えが全てが新たな発見だった。
「ここは、国内の特産品だけじゃなく、世界中の全てが手に入るって言われるくらいにたくさんの物が集まるからね」
「へえ…………」
 と、テレサは声を漏らし尚も右へ左へと視線を忙しく動かしていた。
 そのおかげでそれ程距離がある訳でもない通りの道をダーシェたちはとてもゆっくりとした足並みで進むこととなった。

 結果、皇宮の目の前までたどり着くのに相当な時間を要した。
 じっくりと通りの店々を冷やかせたテレサは実に満足そうであったが、ダーシェの表情は皇宮に近づくにつれ固く引き締まり、柔らぐことが少なくなった。

 皇宮の門の前には二人の兵士が長槍を携えて門番をしている。彼らは三時間ごとに交代するのだが、この三時間彼らは微動だにしない。これもこの皇宮前が観光名所として栄えている理由の一つでもある。
 ダーシェとテレサはその門番たちの間を抜け、門の奥の皇宮の前庭へと入る。
 ここまでは一般の人々も立ち入りが可能だ。また、皇宮本体を直接見ることができるため、門前と比べてもそこにいる人の数は目に見えて増えている。そうした人混みを掻き分けてダーシェとテレサは皇宮の入り口にたどり着く。
 入り口は大きな木製の両開きのドアが取り付けられており、皇宮に勤める人々が楽に出入りができるよう開放されている。開放されてはいるが、ここからは一般の者が入ることはできず、もし立ち入れば瞬く間に警備の兵に捕まり、追い出されてしまう。
 このように中央ですら高い練度を誇る帝国兵が警備をすることが国の中枢である皇帝の住まう皇宮をここまで開放的にすることを叶えている。

 そんな皇宮にダーシェはテレサを連れ迷いなく中へと足を踏み入れる。そんなダーシェの行動は皇宮に観光しにきた者たちからとても目立ち、周囲から視線を集めることとなる。
 皇宮の入ってすぐはエントランスとなっており、平の文官たちが山のような資料を抱え右へ左へと走り回っている。
 そんな彼らの足元には真紅のカーペットが敷かれており、エントランスはとても歩き心地がよくなっている。また、装飾も豪華絢爛をそのまま表したように照明、置き物、壁に下げられた絵画などどれも一流以上のものが揃えられている。
 ダーシェたちがエントランスに入るとやはり当然のことだが、警備兵がやって来る。
「あんたら、ここからは入っちゃいけないって知らない? 部外者は立ち入り禁止だ。ほら、さっさと出て行きな」
 と立ち退きを指示する。
「皇帝陛下にお目通り願いたいんだ。通してくれないかな。多分、俺の名前を聞けばあの人も会ってくださると思うんだけど」
 ダーシェは引き下がらない。というよりもむしろ、この状況は望ましく彼の考える中でも最も皇帝と面会を果たしやすい状態だからだ。
「なかなか自信あるみたいだが、陛下もお忙しい。それにあんたみたいなのは日に何度か来るが、全員出て行かせるよう言われてんだ。悪いがあんたの願いは叶えられないな」
「あ、そう」
 ダーシェは目を細める。
「君は、ダーシェ・レインコートって名前を知ってるかな。もし君が知らなくても君の上司は知っている。さあ、早く確認を取ってきてくれ」
 屈強な兵士を相手に一歩もダーシェは引かない。そんなダーシェの圧に負け、兵士は渋々、上司へ確認に行くと言って下がっていった。

 それから数分後のことだった。ダーシェとテレサは皇宮の客間へと通された。

 * * *

 客間へと通されてから幾ばくかの時間が過ぎ、客間の本にも飽き手持ち無沙汰になってきた頃。
「ダーシェ・レインコート様、皇帝陛下がお待ちです。玉座の間へとお越し下さい」
 皇帝付きの使用人がやってきた。
 ダーシェはテレサにここで待つよう告げ、使用人とともに玉座へと向かった。

「では、少々お待ちください」
 玉座の間の入り口まで案内されると、使用人はダーシェに一度軽い礼をし、一足先に中へと入って行った。
 程なくして、使用人が戻って来るとダーシェも中へと入れられた。

「久しいな、裏切り者」
 それが玉座に座るシャルマーニ帝国皇帝のかけたダーシェへの第一声だった。
「お久し振りです、皇帝陛下。いつ振りでしょうか。全く変わりないようですね」
 玉座に座る白い髭と髪の男は声高らかに笑った。この玉座に座りダーシェを見下ろし笑う男こそ、シャルマーニ帝国第四十八代皇帝、ムンクドレス・バル・シャルマーニである。
「よく戻ってきたな、裏切り者のダーシェよ。心を入れ替え我に再び仕えようと改心でもしたか」
 煽るような口調。自分が絶対的優勢であることを信じて疑わないその傲慢さこそシャルマーニ帝国皇帝本人であることを示す。
「まさか。どうしてわざわざ過去に逆戻りしなけらばならないんですか。むしろ俺はここに、あなたを止めに来たんですよ」
「ほう…」
「あれを、ついにやってしまったんですね」
「ああ、成功したよ。お前が破綻させ一度は潰えかけた計画。この帝国をより強固な国へと進化させていく技術、見事に成功したさ」
 そう言い、ムンクドレスはさらに続ける。
「お前はこの計画に反対していたな。だから、国を裏切り計画を壊すことをした。だがな、ダーシェよ」
 皇帝は表情を歪ませ、玉座から立ち上がり言った。
「お前のおかげだよ、ダーシェ。お前のあの介入のおかげで計画は当初よりも質を上げ! より確実なものとなったのだよ!」
「………………」
 ダーシェは無言で、ムンクドレスを睨み上げる。
「そう睨むなダーシェ。我はお前に褒美を取らせたいのだ。計画成就に重要な役を果たしてくれたお前に。そうだ、お前にあれと会わせてやろう」
 ムンクドレスは声を張り上げ名を呼んだ。
「エンキよ! ここに来い!」

「お呼びか、皇帝陛下」
 返事はすぐに返ってきた。待ち構えていたように、ダーシェのすぐ背後から。
 その返事にダーシェは反射的に後ろを向いた。
 そしてダーシェはそこにかつての友の姿を見つけた。
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