11 / 22
第11話 裏切り者
しおりを挟む人混みは、皇宮の入り口に近くなるにつれ、増えていく。それは当然のことだ。
皇宮の出入りは全て正面の正門が担っている。皇宮内部には一般的には入ることができずとも、こうして人が集まるのはやはり皇帝の求心力の高さが成すもので、正門の付近には飲食店や、土産物屋など多様な店舗が軒を連ね、一種の観光名所となっていた。
そんな、帝都で一番、いや帝国内で最も人を集めるその場所は世間をあまり広く知らない幼い少女には輝かしい場所のようで、
「なんなの、ここは! まるで、ここだけで一つの国みたい!」
道の両側に隙間なく詰め込まれたように軒を並べるそれら店舗は一つ一つの品揃えが全てが新たな発見だった。
「ここは、国内の特産品だけじゃなく、世界中の全てが手に入るって言われるくらいにたくさんの物が集まるからね」
「へえ…………」
と、テレサは声を漏らし尚も右へ左へと視線を忙しく動かしていた。
そのおかげでそれ程距離がある訳でもない通りの道をダーシェたちはとてもゆっくりとした足並みで進むこととなった。
結果、皇宮の目の前までたどり着くのに相当な時間を要した。
じっくりと通りの店々を冷やかせたテレサは実に満足そうであったが、ダーシェの表情は皇宮に近づくにつれ固く引き締まり、柔らぐことが少なくなった。
皇宮の門の前には二人の兵士が長槍を携えて門番をしている。彼らは三時間ごとに交代するのだが、この三時間彼らは微動だにしない。これもこの皇宮前が観光名所として栄えている理由の一つでもある。
ダーシェとテレサはその門番たちの間を抜け、門の奥の皇宮の前庭へと入る。
ここまでは一般の人々も立ち入りが可能だ。また、皇宮本体を直接見ることができるため、門前と比べてもそこにいる人の数は目に見えて増えている。そうした人混みを掻き分けてダーシェとテレサは皇宮の入り口にたどり着く。
入り口は大きな木製の両開きのドアが取り付けられており、皇宮に勤める人々が楽に出入りができるよう開放されている。開放されてはいるが、ここからは一般の者が入ることはできず、もし立ち入れば瞬く間に警備の兵に捕まり、追い出されてしまう。
このように中央ですら高い練度を誇る帝国兵が警備をすることが国の中枢である皇帝の住まう皇宮をここまで開放的にすることを叶えている。
そんな皇宮にダーシェはテレサを連れ迷いなく中へと足を踏み入れる。そんなダーシェの行動は皇宮に観光しにきた者たちからとても目立ち、周囲から視線を集めることとなる。
皇宮の入ってすぐはエントランスとなっており、平の文官たちが山のような資料を抱え右へ左へと走り回っている。
そんな彼らの足元には真紅のカーペットが敷かれており、エントランスはとても歩き心地がよくなっている。また、装飾も豪華絢爛をそのまま表したように照明、置き物、壁に下げられた絵画などどれも一流以上のものが揃えられている。
ダーシェたちがエントランスに入るとやはり当然のことだが、警備兵がやって来る。
「あんたら、ここからは入っちゃいけないって知らない? 部外者は立ち入り禁止だ。ほら、さっさと出て行きな」
と立ち退きを指示する。
「皇帝陛下にお目通り願いたいんだ。通してくれないかな。多分、俺の名前を聞けばあの人も会ってくださると思うんだけど」
ダーシェは引き下がらない。というよりもむしろ、この状況は望ましく彼の考える中でも最も皇帝と面会を果たしやすい状態だからだ。
「なかなか自信あるみたいだが、陛下もお忙しい。それにあんたみたいなのは日に何度か来るが、全員出て行かせるよう言われてんだ。悪いがあんたの願いは叶えられないな」
「あ、そう」
ダーシェは目を細める。
「君は、ダーシェ・レインコートって名前を知ってるかな。もし君が知らなくても君の上司は知っている。さあ、早く確認を取ってきてくれ」
屈強な兵士を相手に一歩もダーシェは引かない。そんなダーシェの圧に負け、兵士は渋々、上司へ確認に行くと言って下がっていった。
それから数分後のことだった。ダーシェとテレサは皇宮の客間へと通された。
* * *
客間へと通されてから幾ばくかの時間が過ぎ、客間の本にも飽き手持ち無沙汰になってきた頃。
「ダーシェ・レインコート様、皇帝陛下がお待ちです。玉座の間へとお越し下さい」
皇帝付きの使用人がやってきた。
ダーシェはテレサにここで待つよう告げ、使用人とともに玉座へと向かった。
「では、少々お待ちください」
玉座の間の入り口まで案内されると、使用人はダーシェに一度軽い礼をし、一足先に中へと入って行った。
程なくして、使用人が戻って来るとダーシェも中へと入れられた。
「久しいな、裏切り者」
それが玉座に座るシャルマーニ帝国皇帝のかけたダーシェへの第一声だった。
「お久し振りです、皇帝陛下。いつ振りでしょうか。全く変わりないようですね」
玉座に座る白い髭と髪の男は声高らかに笑った。この玉座に座りダーシェを見下ろし笑う男こそ、シャルマーニ帝国第四十八代皇帝、ムンクドレス・バル・シャルマーニである。
「よく戻ってきたな、裏切り者のダーシェよ。心を入れ替え我に再び仕えようと改心でもしたか」
煽るような口調。自分が絶対的優勢であることを信じて疑わないその傲慢さこそシャルマーニ帝国皇帝本人であることを示す。
「まさか。どうしてわざわざ過去に逆戻りしなけらばならないんですか。むしろ俺はここに、あなたを止めに来たんですよ」
「ほう…」
「あれを、ついにやってしまったんですね」
「ああ、成功したよ。お前が破綻させ一度は潰えかけた計画。この帝国をより強固な国へと進化させていく技術、見事に成功したさ」
そう言い、ムンクドレスはさらに続ける。
「お前はこの計画に反対していたな。だから、国を裏切り計画を壊すことをした。だがな、ダーシェよ」
皇帝は表情を歪ませ、玉座から立ち上がり言った。
「お前のおかげだよ、ダーシェ。お前のあの介入のおかげで計画は当初よりも質を上げ! より確実なものとなったのだよ!」
「………………」
ダーシェは無言で、ムンクドレスを睨み上げる。
「そう睨むなダーシェ。我はお前に褒美を取らせたいのだ。計画成就に重要な役を果たしてくれたお前に。そうだ、お前にあれと会わせてやろう」
ムンクドレスは声を張り上げ名を呼んだ。
「エンキよ! ここに来い!」
「お呼びか、皇帝陛下」
返事はすぐに返ってきた。待ち構えていたように、ダーシェのすぐ背後から。
その返事にダーシェは反射的に後ろを向いた。
そしてダーシェはそこにかつての友の姿を見つけた。
0
あなたにおすすめの小説
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる