皇海翔

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   港区立みなと科学館プラネタリウムに来ている。
 初めに港区から見上げた今夜の、つまり未来の88個の星座が映し出された。現実に起こる未来の映像をみれるのも、プラネタリウムならではであるが、実際にこうしてスクリーンで目の当たりにするのは初めてのことだ。ここのドームは直径15m、ドームの天頂まで10mあり、いつも第一場面の星空を見上げると「ああ・・・」と嘆息を漏らしてしまうのだが、これほどの巨大かつ壮大な映像はテレビや映画では味わえない、プラネタリウムに来なければ体感できない。
 今回上映される番組のタイトルは「まだ見ぬ宇宙へ」。HAYABUSA三部作の上坂監督が描くこだわりの宇宙だ。ガイアの観測データに基づいた詳細な天の川銀河の映像化。天文衛星ガイアによって観測された膨大な観測情報を可視化し、オリオン椀など地球近傍の正確な天の川銀河を再現。天の川銀河を離れた後はすべての系外銀河を立体的に描写している。
 中でもオリオン大星雲とかに星雲の映像は大変微に入り細をうがったCGで、観ている自分が壮麗な大星雲に取り込まれているような感覚を味わった。

 帰り際、後片付けしている解説員に、
「とても素晴らしかったです。こういう映像体験は初めてでした。とくにオリオン大星雲とかに星雲は美しかったです。
 実は前にサンシャイン60のプラネタリウムに行ったんですが、タイトルに「R指定、ちょっとエッチなプラネタリウム」とあったので、どんなんだろうとおもっていたら、なんとギリシア時代の青年が女性を後ろから抱き寄せて、自分の下半身を彼女の腰にあてがって前後させているんです。
 観覧料1600円も支払って、こんな映像を見せられたのかと思うと情けなくなってきました」と言うと、女性解説員は口に手を当てて「ホホホッ」と笑った。
 帰る前に受付に行き、年間利用券(2000円)を買った。なんとこれで明日から毎日、無料で解説付きの星空が見れるのだ。東京に暮らしていてこんな風雅なことはない。よい内容のものを放映しているところというのは利用料金も安価である。 

 ショウはよく私の足指をペロペロと舐める。私のベッドで丸くなって全身に私の匂いを染みつかせている。私もまた、横で丸くなっているショウの顔や背中に自分の顔を預ける。先月動物病院でトリミングしたばかりのショウは無臭で清潔だ。

「ショウは翔よりいいものを食べているわ」と母は言う。近頃ショウは丸々と太ってきた。たくましくなって散歩中リードをぐいぐい引っ張っていくのでそれにつられて自然、こちらも小走りになる。
「ショウがいなかったら、この歳で走ることなんてなかったろうな」と父に言った。
   先日、母にショウのえさを買ってきてほしいと言われディスカウントショップへ行った。「これよ」と言って私に手渡したエサの袋を探すとあったので、料金札を見るとなんと1万1千円だった。ふつうのエサは3000~5000円なのにどうしてこんな高いエサをやっているのかわからない。ただショウは前に皮膚病をやっており、動物病院からそれに対応したエサを指定されていたという。ひと月分として一回300円のエサだ。おかゆやカレーで済ませている私よりも経済的に高級なエサを食べていることになる。それから私はショウと一緒に寝るのをやめた。自分より高い食事を食べている方に失礼だと思ったからだ。
 NHKのペット特集で、
「動物の世話をする人間は進歩します。ペットに生きている意味を与えられるからです」というくだりがあった。
 私は映画、製作/監督/主演KEVIN COSTNERの『DANCES WITH WOLVES』を思い出した。私がこれまで見た映画の中で最も好きな作品だ。
 南北戦争時代のアメリカ、広大なフロンティアで生きる男ジョン・ダンパー中尉がオオカミと交流しているシーンが描かれ、それだけでストーリー全体が引き締まっているように感じた。フロンティアと呼ばれた大地で数えきれないほどのバッファローが土煙を上げ、蹄の音を響かせていたころの話だ。
「フロンティアこそ、1度死んだ男が生きなおすのにふさわしい場所だ」中尉はそう思っていた。
 ダンス・ウィズ・ウルブズは彼につけられたインディアン名である。
 インディアンたちはこの映画を観て泣いたという。

 「とも座」
 アルゴ船座は、東西南北がおよそ70度にもおよぶ全天一の大星座としてギリシア時代から知られていた。
 「りゅうこつ座」
 りゅうこつ座で目につく星は何といってもカノープス。マイナス0.7等とおおいぬ座のシリウスに次いで全天で2番目の明るい星だ。南の地平ごく低くにしか見えないため、注意しないと見つけにくいことがある。
 このため中国ではこの星を「南極老人星」とよび、この星を目にすることができれば健康で長寿にあやかれるめでたい星としてきた。
 「こぐま座」
 大小2つの゛ひしゃく゛の形は、昔から大熊と小熊の姿に見立てられ、大熊の方は、もともとは月と狩りの女神アルテミスの待女の美しい娘カリストとされ、子熊のほうはその息子で若い狩人アルカスの姿とされていた。

 NHKに出演中の宇宙飛行士野口総一郎が言っている。
 2026年、宇宙飛行士が月面着陸する。NASAでは宇宙飛行士たちがプールで訓練しており、未来には宇宙船ORIONが旅立つ。
 日本でも月面着陸機SLIMが世界で5番目に、月のクレーターSHIORIに着陸した。しかしトラブルが発生した。メインエンジンのひとつを破損したのだ。ピンポイント着陸に成功したもののSLIMはさかさまになっており、太陽電池の発電ができない。
 BBCはSLIMをムーンスナイパーと呼んだ。
 2026年、イーロンマスク氏がアメリカテキサス州でSTARSHIPを開発予定。乗組員は百人で、人類は2030年、月面で生活するようになる。イーロンマスク氏は、
「地球人を多星人にしたいんだ」
「鉄を無駄にしても(失敗しても)時間はムダにしない」
「人類が生き延びるため、ほかの惑星に進出する」
「重力が違うことでまったく新しい文化が生まれる」
 と言っている。

   「宇宙138億年の謎」より
 宇宙は超銀河団――銀河団・銀河群――銀河――恒星系という階層構造になっている。
 地球は太陽を中心とした太陽系という恒星系に属し、その太陽系は銀河系(天の川銀河)に属している。太陽系は秒速およそ240帰路kmの速さで銀河系内を周回していて、約2億200万年で銀河系内を一周する。
 地球の磁場は太陽風のすべてを防げず、一部が極地方や高緯度地域に入り込む。こうして高度約100~200kmで地球の大気と衝突して起こる発光現象が美しいオーロラである。
 1054年、おうし座の方向で起こった超新星爆発の残骸である「かに星雲」。この超新星爆発は約一か月にわたって輝いていた天体で、日本では藤原定家の「明月記」に記載されている。全体が「カニの甲羅」のように見えることから命名された。
 今から45億年ほど前、誕生したばかりの原始惑星が衝突、双方の惑星から飛散した物質が月になった。
 人工物が太陽圏を脱出したのは、人類にとってボイジャー1号が初めてという快挙だった。
 太陽のように自ら光を発して輝く星を恒星という。恒星の多くは水素とヘリウムでできたガスの塊である。夜空の星を見ると、さそり座の1等星アンタレスは赤色。こと座の0等星ベガは白色・・・といったように青白い星、白い星、赤い星などいろいろな色をした星がある。この色の違いは恒星の表面温度の違いを意味している。青白い星の多くは大質量の星(青色巨星や白色巨星という)である。赤い星は質量の小さい星(赤色矮星か年老いた星(赤色巨星)である。
 超新星爆発は大きな質量をもった星が、その一生の最後に起こす大爆発だ。
 銀河の中心から強力なエネルギーを放出し、明るく光っている銀河を「活動銀河」というが、これは活動銀河の核にあるブラックホールが活発に活動していることを表している。
 仮想的なトンネルワームホールを宇宙船が通れるほど拡大して安定させる。するとワームホールを通って一瞬のうちに別の場所に移動するワープが可能になる。

 モーツァルトの「ジュピター」を聴いた。
 誰もが一度は耳にしたことのある高潔な旋律が耳に心地よい。華麗、優雅であるが、惑星の宇宙における浮遊感、幻想感という点ではホルストの゛惑星゛「ジュピター」のほうがよりリアリティがあると思う。
 モーツァルトの惑星は1つの星を歌ったものというより、多くの惑星が運行している、壮麗、規則性を表現している印象を受けた。

 「ジュピター」とともに借りたCDがもう一枚ある。
 小澤征爾指揮、水戸室内管弦楽団によるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト交響曲第36番ハ長調K・425「リンツ」と交響曲第38番ニ長調K・504「プラハ」だ。
 私は普段は音楽のCDの解説は読まないが、誰もが知っている小澤征爾が今年逝去したので少し勉強してみようと読んでみた。すると次のように書かれている。
 室内管弦楽団は世界に数多く存在するし、当然、わが国にも数例がみられるが、水戸室内管弦楽団はそれらとは少々異なる背景と特徴を持っている。その最大のものが、今やウィーン国立歌劇場の音楽監督として世界の楽団を見据えるマエストロとなった小澤征爾が音楽顧問とはいいながら、実質的に音楽監督のような存在として指導、監督している点である。小澤征爾の過去のキャリアに室内管弦楽団を相手にしたものはなかったわけだが、それだけに小澤征爾は創設以来変わることなくこの室内管弦楽団との演奏活動に情熱を傾け、自らの足跡にも新しく、また誇るべきページを書き加えるようになっているのである。
 かつて小澤征爾は水戸室内管弦楽団を前にしての演奏で、
「指揮者の手そのものはそんなに重要ではない。むしろ大切なのはどういうふうにしたいかが解ることであって、共同作業の要素が強い。そして一人一人の楽員がもつ個性、味を引き出してやることが大切だとわかってきた」と語っていた。
 そのことを敷衍させると演奏の基本はつまるところ室内楽にあるという事実に行きつくように思われるが、それは同時に、ただ単に技術的完璧性や感覚的美しさを目標とするのではなく、もうひとつ高い次元の感動、いわば「理想」を目標に全員が一丸となって突き進むことを可能にしているようにも考えられる。
 「理想」追求しているというこの演奏を、私は繰り返し何度も何度も聴いた。
 モテット「エクスルターテ・イウビラーテ」(踊れ、喜べ、幸いなる魂よ)K・165では次のように歌っている。
     踊れ 歓呼せよ
     おお 汝ら祝福された魂よ
     あまき歌をば歌いつる
     汝らが歌にこたえつつ
     天は我とともに歌う

     親しき日は輝き
     はや雲も嵐も消え失せぬ
     まさに期せざりし平安は生まれたり
     暗き夜はいたるところを統べたりしが
     ついに起きよ 喜ばしきものよ
     汝ら今まで恐れいたりしが
     幸せなる暁に喜び
     右手にあふるる葉とユリの花を与えよ

     純潔の王冠たる汝よ
     汝 われらに平安を与え
     いずこにありても嘆息せし心の
     はげしき望みを慰めよ
     アレルヤ

 小澤征爾にはまさに純潔の王冠がふさわしい。 

     「かに座」
 かに座のプレセペ星団は、星粒の群れる散開星団だとその正体がわかっていますが、肉眼でははっきりとはわかりかねるところがあり、中国では、ぼうっと青白い人魂のようだというので「積尸気(ししき)」とよんでいた。これは死体だけから立ち昇る妖気という意味。縁起をかついで、かに座は死人が地上に残した霊という意味で「鬼宿」と名付けられていた。
 紀元前4~5世紀のギリシアでは、プラトンの一派が、人間が生まれたとき、その体に宿る魂が天上より降りてくるときの出口だとされていた。
      「うしかい座」
 北斗七星の柄のカーブを延長すると、、うしかい座のアルクトゥルスからおとめ座のスピカへとどく大きなカーブが描けます。これが春の星座探しの目印になる春の大曲線です。日本では麦秋の6月の麦刈りの始まるころ、アルクトゥルスが頭上に輝くところから「麦星」の名で親しまれてきた。
 うしかい座のオレンジ色のアルクトゥルス、おとめ座の白色のスピカ。この二つの星のペアが春の夜空で輝く様子を日本では「春の夫婦星」と呼んだ。
 アルクトゥルスは非常に動きの速いことでも知られる。現在秒速125kmのスピードでおとめ座のスピカの方向へ移動している。これは東京と大阪間をわずか4秒間で駆け抜けてしまうほどの速さだ。
       「おとめ座」
 ボーデの古星図に描かれた乙女は右手に長い麦の穂を持ち、左手に短い穂を持ちその先端に一等星のスピカが輝いている。右手の星座名JUNGFRAUはドイツ語で『少女』。
 白色のスピカは日本ではかつて福井県のあたりで「真珠星」と呼ばれていた。
 銀河の覗き窓といわれるほど、おとめ座付近には銀河系と同じような星の大集団「銀河」が群れ集っている。

                    国立天文台NAOJホームページ
 冬の星座たちが宵の空でよく目立つ季節になりました。冬の星座には明るい星が多く、夜空がとてもきらびやかです。三大流星群のひとつであるじぶんぎ座流星群の極大は、1月4日の夕方です。
 2024年の年明けには、「明けの明星」金星が鋭い輝きを放っています。1月は西方最大離角となる彗星と合わせて、内惑星が日の出前の空にそろいます。春を迎えるころには夜明けの金星は見るのが難しくなります。一方、日の入り後の空では、明るい木星が春の盛りまで目を引くでしょう。
 夏を迎えると、未明の空に土星、火星、木星がそろってみられます。8月15日には、火星と木星の接近が注目されそうです。惑星の見ごろの時間は、次第に深夜から夜の前半へと移っていきます。年末には、この3惑星に「宵の明星」になった金星も加わって、明るい惑星が東から西まで横断する夕方の空がにぎやかです。
 2024年には、月の出直後に終わる半影月食が1回、日本からは見られない浅い部分月食が1回と、日本で観察条件のいい日食・月食は起こりません。注目したい天文現象として、夜空を移動する月に惑星や恒星が隠される現象「星食」を挙げます。とくに12月には土星食、海王星食、おとめ座の一等星スピカの食と続けて起こります。プレアデス星団(すばる)の食もあり、月は明るいですが星団の中をゆっくりと進んでいく様子がわかるでしょう。
 流星数が多い三大流星群のうち、8月のペルセウス座流星群は、夜半に月が沈むため、未明の時間帯には月明かりの影響がない好条件でみられるでしょう。

                       『全地球史アトラス 地球そして生命の誕生と進化』
            1  地球誕生
 天の川銀河が近傍の矮小銀河と衝突し、星々が爆発的に生まれるスターバーストが起きた。
 我々の太陽系もその中のひとつである。その内部では物質大循環が起こっていた。
 外縁部の物質は、太陽に近づくにつれて水分が蒸発しドライなものとなった。こうして水分量の違う粒子の分布が生まれた。やがて双極流が停止することによって、物質大循環が停止。粒子密度の高い場所が生まれる。そこでは引力による衝突が頻繁に起こり、徐々に大きなかけらに成長して微惑星となった。こうして生まれた微惑星は衝突を繰り返し、さらに大きな惑星に成長していった。
            46億6000万年前:原始地球誕生
 同じ公転軌道上に、たくさんの惑星が生まれたため原始地球は火星サイズの惑星と衝突を起こした。
            45億5000万年前:ジャイアントインパクト
 この衝突により月が生まれる。こうして月を従えた現在の地球が誕生した。
            2   プレートテクトニクス
 ドライな原始地球には、たくさんの微惑星や氷惑星が降り注いだ。これらの微惑星に含まれていた水によって、地球には大気と海洋が生まれた。
            47億7000万~42億年前:大気と海洋の誕生
 大気中の水蒸気が雨となり海を作ったことによって、大気圧は下がっていった。さらに、二酸化炭素が液体に相転移して海に変わる。また二酸化炭素は岩盤にも取り込まれ、風化浸食作用によって海に落ち込んでいった。しかしこの時の海水は超酸性高塩分で、大量の重金属元素を含んでいたため、生命にとっては猛毒の海であった。
            43億7000万~42億年前:プレートテクトニクス開始
 上昇するマントル対流が海洋プレートに裂けめを作った。マントル対流によって持ち上げられたプレートは自己重力によって横滑りをはじめ、プレートテクトニクスが開始された。大陸プレートより重い海洋プレートはその下に沈み込んでいく。一方、風化浸食作用によって海に落ち込んだ岩石は、超酸性の海を中和させていく。そしてこれらの岩石や、海嶺で析出した重金属はプレートとともにマントルの深部へ閉じ込められていく。こうして海は浄化されていったのだ。42億年前ころまでに、地球の中心部には液体の外核ができた。そしてそこに発生した電流により強い磁場が生まれた。この磁場によって地表に降り注ぐ宇宙線が緩和され、生命誕生へとつながっていった。
            3 原始生命誕生
 生命の始まりは、まだ太陽の光が地上に十分届かないころ、間欠泉の地下で始まった。ウラン鉱床がエネルギーを供給すると水と反応し、生命の材料となる様々な分子「生命構成単位」ができあがっていった。間欠泉内部は100°cになると地上への噴出により水が入れ替わる。よって水は100°cを超えることはなく作られた分子は守られていた。また地下で還元、地上で酸化の場を提供したことも、分子の合成には不可欠な条件だった。
 当時、地球に近かった月の潮汐力は今よりもはるかに大きく、湖にも満ち引きを生み出し乾湿サイクルを生じさせた。乾湿サイクルの場は生命構成単位を合成する大切な場である。
 脂肪酸は集まって生命を包む膜となる。ウエットとドライな状態が繰り返されることで重合反応が進み、触媒活性をもつたんぱく質様原始物質が作られた。そしてこれらの分子が循環し、まじりあうことによってさらに複雑な分子へと発展した。
 生命を記述する分子「原始RNA」。これがさらに「酵素様原始物質」とまじりあい自己複製機能を持つ「リボザイム」に進化する。こうして分子は生命の「配列」を複製する力を身につけた。そしてこれらが脂質の膜に取り込まれ、「原始生命体」が生まれた。
            41億年前:原始生命誕生
 これがすべての出発点となった。
 
 パリのノートルダム大聖堂の聖歌がラジオから流れてきた。星には聖歌がよく似合う。「神なる主に立ち戻れ」と歌っている。
 NHKFMが毎週土曜の朝に放送している「ウィークエンドサンシャイン」のナレーター、ピーターバラカン氏にメールを送った。私の小説を読んでくれるよう頼んだのである。曲はCharlie  Haden&Pat  Metheny゛Beyond The Missouri Sky゛の「Spiritual」をリクエストした。曲がかかるかどうか、来週ラジオを聴くのが楽しみになった。
    
                                   4   生命進化の第一ステージ
            43億7000万~42億年前:原初大陸の消失と強い磁場の発生
 海洋の誕生とともにはじまったプレートテクトニクスによって、大陸は強力な構造浸食により削り取られ、マントルに沈み込んでいった。こうして生命を生んだ母なる大地は、原初大陸の小片にしがみついて生きていた生命体を地表に残して、マントル深部に消えていった。しかし地球内部では新しいドラマが始まろうとしていた。
 沈み込んだ原初大陸がコアに向かって落下していった。大陸の岩石には放射性同位体元素が多く含まれていたため、自己発熱してコアの上部を溶かした。
 これによって42億年前頃に強い磁場が生まれ、表層環境をまもる強固なバリアとなった。生命は有害な太陽風にさらされることがなくなったのだ。
            42億年前:太陽光エネルギーを利用する生命体に変化
 生命体には、エネルギーの供給と栄養塩を含む物質循環が不可欠である。生命とはたゆみない電子の流れともいえるのだ。
 地下で生まれた第一次生命体は、そのエネルギー供給源から離れてしまうと電子が流れなくなり死滅していった。生命体は突然変異を起こし、多種多様な生命体へと進化する。そして厳しい環境の変化に適合した種のみが生き残るのだ。
 生命はやがて、太陽の光エネルギーを利用する第二次生命体に進化する。それは太陽が沈んだ後でも代謝を維持できるシステムを持っていた。
 日中にためた糖を周囲の共生体とやり取りすることで、夜の間も代謝を行えるようになった。生命はそのエネルギー源を『地下の太陽』である自然原子炉から地上の太陽へと切り替え、第二次生命体へと進化したのだ。
                                    41億年前:大量絶滅
 この時の海水はまだ浄化が終わっておらず、その猛毒にさらされた生命体は死滅した。しかしその厳しい環境を生き抜いた生命体があった。有害な金属イオンが生命体に入らないようにすることによって、猛毒に対応したのだ。
 そして外部共生していた生命体同士が融合し、徐々に複雑な生体システムに進化していった。
 現在の生命は、20種類のアミノ酸しか利用していないが、これはその大量絶滅の中で選択された最終結果であったと考えられる。
 絶滅と進化は紙一重である。
 不安定だったRNAは、自然原子炉がより安定した構造の形成を促し、電離放射線がより安定した構造の形成を促し、安定したDNAへと進化した。
 こうして第三次生命体である原核生物が誕生した。ここで誕生した第三次生命体こそが、原始的な古細菌と真正細菌の先祖である。

 文京シビックホールの「フルートアンサンブルコンサート」へ来た。
 出演は東邦大学フルートアンサンブルである。時間になると、白いブラウスに黒のスカートを着た女学生たちがホールの奥に集まりだした。私が思うにどうも最近の若い娘というのは、私が学生だった頃に比べだいぶ美しく、かわいくなっている。こういう娘たちが奏でるフルートを演奏する姿はまことに可憐だった。一曲に4人、計12人の娘たちがいる。
 一曲目はイプセンの戯曲にグリーグが曲をつけた「ペールギュント」第一組曲より『朝』だった。フルートの音色は私の思った通り華麗であり、しっとり水気をふくんだように耳になじむので心地よい。気品があるので弦楽器と違い゛かき鳴らす゛つまり゛かき吹く゛といったシーンがない。私は今年、このフルートを学ぶため音楽教室に通おうかと思っている。4、5年して思うように吹けるようになったら、上野公園で演奏してみたい。
 2曲目はにぎわう祭りの雰囲気の、P.Cデュボアの「四重奏曲」より第一楽章。次にディズニーメロディー、『いつか王子様が』『ちいさな世界』『ホールニューワールド』、そして最終がビゼーの「アルルの女」より『ファランドール』。
 どの曲も一度は耳にしたことのある曲だ。私は若いころこそフォーク、ポップス、フュージョン、ジャズを聴いていたのでクラシックはあまり聴かなかったが、還暦になると奇矯な旋律より完成された楽曲――クラシックを好むようになった。大半は聴いてもすぐに忘れてしまうような交錯した楽曲だが、今日聴いた演奏やベートーベンの『田園』などは一度耳にしただけでたちどころに身内に浸透してしまう。こういう人々に一発で受け入れられる楽曲を、作曲家はどうやって作ったのか、なぜこのメロディが印象に残るのか、他曲との違いを学びたいと思うようになった。
 ところで今回のコンサートを聴いて思ったことは、ふだんはCDでプロの演奏を聴いているのに学生の演奏を聴いていても不思議と違和感を覚えない。私の素人の耳には学生の演奏でもたいへん美しい調べに聞こえた。































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