他人のセックスが見たい

上条左腕

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 青葉さんは週二回、学食にパンを売りに来る業者の人だった。
 青葉さんの前に立つ水城先生は、ここ数日、私たちが見てきた彼とは別人のようだった。
 不健康そのものの蒼白い顔は、頬が紅潮して若干健康そうに見える。死んだ魚のような目も光を取り戻し、新鮮な生きた魚の目だ。
 幸い、水城先生の後ろに並んでいる人はいない。青葉さんと少しでも長く話せるチャンスだ。

「今日は四つも!?」
「はい……好きなんです、これ」
「ありがとうございます。嬉しいです」

(青葉さん、好きです……)

「このパン、あまりにも売れないから、今度からちょっと減らそうって……」
「え、え……そうなんですか?」
「はい、残念ながら」
「じゃあ、売り切れちゃうかもしれないから……もっと早く買いに来なきゃ……」

(好きです、青葉さん……)

 会話のところどころで、青葉さんに愛を伝える心の声が響く。この何気ない会話に込められた水城先生の淡い恋心を思うと、口の中に甘酸っぱい味が広がっていくようだ。こんなにも彼女のことを思っているのに、それを口に出すことが出来ない。わかる。わかるよ、水城先生。私も好きな人はいたけれど、告白なんて夢のまた夢……そんな人生だったから。
 まあ、水城先生と私ではステージが全然違うので、一緒にするのはいかがなものかと思うけれど。

「……そんなパン売り切れねーよ」

 そんな甘酸っぱいやりとりを聞き、私の口から出たのはこの言葉だった。7さんもこれに同調する。チョコミントソーセージあんぱんなんて水城先生以外に買う人がいたら見てみたい。

「ありがとうございました」

 満面の笑みを浮かべている青葉さんに、水城先生は深々とお辞儀をした。少し歩いては振り返ってぺこり。また少し歩いてはぺこり……昔、テレビで見た、野良犬に餌をやったら立ち去る時に何度もこっちを見てはお辞儀するような仕草をする、という映像のようだ。
 火曜と木曜にパン屋が来るというのは知っていたが、実際に見たのは初めてだ。この学食は二階建て。私が来ていたのは一階で、パン屋が来るのは二階だから縁がなかったのか。

(青葉さん、好きです)

 腕に四つのチョコミントソーセージあんぱんを抱え、研究室に戻る途中、何度この告白を聞いたことだろう。傍から見れば、妙なパンを抱え早足で進む水城先生は相当異様に見えるだろうが、彼の心中を知っている私には、その身体の周りに桃色の花がくるくると舞っているように見える。
 こんなにも恋する乙女といった風なのに、午後の仕事が始まれば見事に思考を切り替える。帰路に就くまで青葉さんのことは引き出しの中に大事にしまわれたようだ。
 その日の帰路は、些か運転が乱暴に感じた。信号で止まるたび、少し大きく揺れる車体。何だか急いでいるようだ。
 自宅アパートに着くと、水城先生は急いで靴を脱ぎ、コートを脱ぎ捨てた。
 暖房器具をつけ、夕食の用意でもするのだろうかと思っていたが、違った。
 彼は突如、ズボンと下着を脱ぎ捨てた。丸出しになった下半身は、雄々しく天井を見上げていた。

「え、ちょ……」

 あまりにも急過ぎる展開に、私は動揺した。7さんの方を見ると、彼も若干、動揺しているようだった。
 帰り道、水城先生の脳内は青葉さんでいっぱいだった。その中に「早く帰りたい」という謎の焦りが見え隠れしていたのは、運転の荒さからも見て取れた。こういうことだったのか。
 水城先生の男性器は、腹に付いてしまうのではないかと思うほど、大きく反り上がっていた。はち切れんばかりに膨張したそれは、触る前からぴくぴくと脈打っている。正直、とても四十代のものとは思えない。いや、四十代のそれどころか何十代のそれも生で見たことはないのだけれど。

「……っ、は」

 水城先生は息を荒くし、己のものを握った。

(青葉さん……青葉さん……)

 そのまま、手を上下に動かしていく。
 彼の頭の中は、青葉さんで溢れていた。いつもの三角巾とエプロン姿の青葉さん。屈託のない笑顔を浮かべている。私服の青葉さん(水城先生の妄想)。下着姿の青葉さん(水城先生の妄想)。全裸の青葉さん(水城先生の妄想)。頬が紅潮し、口は半開き。憂いを帯びた瞳が、たった一人の男性を映している。水城先生だ。

「ぁ、っ……」

 荒い息遣いだけが聞こえていた部屋に、粘着質な音が加わる。先から透明な液体を垂れ流し、水城先生のものは自らの手の中で濡れていく。
 彼の頭の中の青葉さんの目の前に、彼自身が現れた。同じく全裸だ。そして、抱き合い、口付けを交わした。彼女の胸や下腹部に唇と舌を這わせている最中、

「あ、青葉さ……うっ……!」

 水城先生のものの先から、白濁した液体が勢いよくビューッと飛び出した。三度ほどびゅるびゅると精を吐き出し、彼自身はしぼんでいった。
 まだ最後までしていないのに。彼の頭の中から、青葉さんがスーッと消えて行く。
 私は畳にまばらにつけられた精液の後を、まるで賢者のような気分で眺めていた。自分が自慰をしたわけではないのに、不思議な気持ちだった。下半身丸出しの水城先生がそれを除菌ウエットティッシュで拭く姿を見て、更に賢者感が強まった。
 そして、その後の彼の思考から、彼が童貞であることを知った。
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