他人のセックスが見たい

上条左腕

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0~篝谷朱里~

 毎週金曜日。私たち夫婦はセックスをする。
 しかし、それも数年前までの話。最近は全くない。
 夫から誘って来ることもないし、私から誘っても断られることが多くなり、段々とそういう雰囲気から遠のいていった。
 しかし、そろそろ子供が欲しい。
 ここ最近、私は自分から様々な工夫をして、なんとか夫をその気にさせようと必死だった。
 結果は玉砕。悲しくて虚しくて、若干、自暴自棄になった私は深夜の公園で一人考え事に耽ることが多くなった。
 そんなことが続いたある日、若い男の子に話しかけられた。
 最初はナンパかと思ったが、何故か彼は私の話を真剣に聞いてくれた。
 そもそも、ナンパされるには、彼と比べて私は少し年上過ぎる。

「朱里さんは、どうして子供が欲しいの?」

 深夜のバーで、暁斗くんが私に問う。
 朝倉暁斗くん。二十歳。
 公園で話しかけられたその日から、彼は毎回私を見付けると公園に入って来た。
 他愛のない話を公園のベンチでするようになって、徐々に打ち解けた。
 公園では何だったので、連絡先を交換し、毎回、バーで一緒に飲むようになった。
 毎週金曜日は、夫とセックスをする日ではなく、暁斗くんとお酒を飲む日に変わっていった。

「私と夫の子供に会いたいから」

 何故、子供が欲しいのか。
 そう聞かれれば、私はこう答える他ない。
 世間体とか老後の問題ではない。純粋に「自分の子供」という存在に会ってみたい。そして、その子供に愛する人の遺伝子が入っていたら、尚、良い。

「ふーん」

 自分で聞いてきたくせに、暁斗くんは興味なさげな声を出す。
 私たち夫婦がセックスレスだということは、おそらく彼しか知らない。
 なんとなく友人に話す気にもならないし、夫もプライドが高いのでそんなことは誰にも話していないだろう。
 そのせいか、私の中で暁斗くんは何でも話せる相談役のような存在になっていった。
 七つも年下の二十歳の若者に対して、私は何をやっているのだとたまに思うことはある。しかし、彼と飲んでいると自然体でいられるし、少しだけ嫌なことも忘れられた。

「レスになってから旦那さん以外とそういうことしたことないの?」
「ないよ」

 彼の問いに、思わずカクテルグラスを落としてしまいそうになる。華奢なグラスは落としたら絶対に割れてしまう。私は細心の注意を払ってグラスをテーブルに下ろした。
 この子は何ということを聞くのだろう。若い男性ゆえか。
 そもそも、私は夫しか男性を知らない。それを純愛だと思うのか、勿体ないと思うのかは人それぞれだが。

「じゃあ、性欲とかどうしてんの?一人でしてるの?」
「それは……まあ……」
「女の人にも性欲はあるもんね。男は一人でするのが普通だと思われてるけど、女の人はしないのが普通なんておかしいよね」
「……そうだね」

 それに加え、一昔前は「男は浮気するのが当たり前」だと言われていた。
 今考えるととんでもない。女性……いや、それ以上に浮気をしない誠実な男性に対して失礼千万。
 浮気……か……。

「……旦那さんが浮気してるって可能性はないの?」

 絶妙なタイミングで暁斗くんが質問をした。
 私はむせてしまった。暁斗くんが背中をさすってくれる。その手の感覚に、なんだか心がざわつく。

「ないと思うけど……考えたことはある」

 私だけではなく、セックスレスを経験したことのある人なら誰でも一度はパートナーの浮気を疑ってしまったことがあるのではないだろうか。
 セックスレスだけではない。直前の前戯が雑になったと感じた時も、私は夫の浮気を疑ってしまった。
 「浮気を疑うのは、自分にも疚しいことがあるからだ」なんていうけれど、私には一切なかった。夫のことが好き過ぎるから、自分に自信がなくて不安だから……そういう心理からくるものなのではないかと思う。
 拒否されて余計に自尊心が傷付いているわけだし。

「でも、全然そんなことなかった」
「そっか」

 暁斗くんは、どんどん質問を飛ばしてくる割には、あまり深く入り込んでこない。
 それが一緒にいて心地良い理由なのかもしれない。

「やっぱりさ、私に飽きたのかな……」

 甘ったるいカクテルをぐっと飲み干し、今度はバーボンのロックを注文する。
 弱気になると強い酒が飲みたくなる。

「大して美人でもないし……」

 バーボンのロックもすぐに飲み干してしまう。
 次はショットを頼む。

「結婚してから太ったし……」

 おかわりを頼む。

「完全な家族になっちゃってるのかな……四六時中、一緒にいるとそういう対象じゃなくなるんだ」

 もう何杯目かわからないものを口に運ぶ。

「ちょっと、朱里さん……飲み過ぎじゃない?」
「大丈夫……」

 チェイサーを下さいと言う暁斗くんの言葉を遮り、私は更にアルコール度数の高いものを注文する。
 頭が空っぽに近い状態になる。もう、夫のこともセックスのこともどうでもよくなってくる。
 アル中の一歩手前なのだろうな、と自分でも思う。

「もう、いっそ……私が浮気しちゃおうかな……」

 とんでもないことを口走っているのに、今の私にその自覚はない。
 馬鹿げたことを口走る私の横で、暁斗くんは無言だった。
 ふと、目が合う。

「……じゃあ、場所変える?」

 暁斗くんは私の目をじっと見つめてそう言った。
 彼がカウンターの下で、私の手を握る。
 私は黙って頷いた。
 ああ、そういうことか。

 その夜から、私は誰にも言えない咎を背負った。
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