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4.失意と相違
10.
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麗良が頭を横に振る。
「そんなこと……できるはずない」
「できるわ。
優しい麗良は、病弱な私が寂しいから会いに来て、と言えば、他の予定を断ってまでも私のところへ駆けつけてくれる。
私が人見知りだから他の子を連れてこないで、と言えば、私以外の人と距離を置く。
実際、そうだったでしょう」
マヤが首を傾げて、にこりと笑みを見せる。麗良は、反論しようと口を開いた。
「私にだって、趣味の一つや二つ……」
「読書? 私が勧めたのよね。麗良にたくさん本を読んで聞かせてあげたのは、私よ。
私が本を好きだと言って、本の話をすれば、あなたは私に合わせて自分も本を読んでくれた。
読書なら、《妖精の国》へ行くのに支障のない趣味として都合が良かっただけ」
麗良が言葉を探すように口を開き、何か言おうとするのを、マヤが言葉を被せた。
「生け花? 初めは良かった。
妖精にとって植物と慣れ親しむのは自然なことだから。
でも、あなたは、ただ生けるだけでは満足しなくなった。
大会に出られる年齢になってからは、毎年引き留めるのに苦労したわ。
だから、やめてもらったの。覚えてない?」
麗良の瞳が大きく揺れ動く。
その表情を見て、マヤがほらね、というように笑みを見せた。
「そう、思い出した?
良之おじいさまがプランツハンターと話をしていたことを教えたのは、私。
あなたはすぐには信じなかった。おじい様のところへ事実を確認しに行って、そこで知ったのよね。
あなたがそれまで信じてきた事実は全て偽りだったと。
おじい様は、死んでしまった植物たちを悼んで花を生けている聖職者なんかじゃなく、人間のエゴで植物を殺すことを平気で行える、他の人間たちと同じだということに。
そして、あなたは、生け花をやめた」
何も言えないでいる麗良に、マヤが優しく詰め寄る。
「全部、あの人の命令だったの。
私は、妖精王であるあの人の命令には逆らえない。
……これで分かったでしょう。あの人は、そういう人なの。
目的のためなら手段を選ばない。全部を真に受けて、信じちゃだめよ」
マヤは、麗良の頬に手を当てると、そっと寄り添うように麗良を抱きしめた。
マヤの綿毛のような髪の毛が麗良の頬をくすぐる。
カモミールの匂い。マヤの匂いだ。
「私だけは麗良の味方よ」
マヤが耳元でそっと囁く。
麗良は、頭が痺れてうまく考えることができない。
「…………帰って」
ようやく絞り出せた声は掠れていたが、マヤの耳には、はっきりと届いた。
マヤが身体を離し、少し意外そうな表情で麗良の顔を見返す。
麗良は、いたたまれず、マヤのトンボ玉のような瞳から目を逸らした。
「よく考えて」
マヤはそれだけ言い残すと、自らドアを開けて外へ出て行った。
麗良は、背後でドアの閉まる音を聞いても振り返ることなく、マヤの足音が小さくなって聞こえなくなるまで、そこから動くことが出来なかった。
「そんなこと……できるはずない」
「できるわ。
優しい麗良は、病弱な私が寂しいから会いに来て、と言えば、他の予定を断ってまでも私のところへ駆けつけてくれる。
私が人見知りだから他の子を連れてこないで、と言えば、私以外の人と距離を置く。
実際、そうだったでしょう」
マヤが首を傾げて、にこりと笑みを見せる。麗良は、反論しようと口を開いた。
「私にだって、趣味の一つや二つ……」
「読書? 私が勧めたのよね。麗良にたくさん本を読んで聞かせてあげたのは、私よ。
私が本を好きだと言って、本の話をすれば、あなたは私に合わせて自分も本を読んでくれた。
読書なら、《妖精の国》へ行くのに支障のない趣味として都合が良かっただけ」
麗良が言葉を探すように口を開き、何か言おうとするのを、マヤが言葉を被せた。
「生け花? 初めは良かった。
妖精にとって植物と慣れ親しむのは自然なことだから。
でも、あなたは、ただ生けるだけでは満足しなくなった。
大会に出られる年齢になってからは、毎年引き留めるのに苦労したわ。
だから、やめてもらったの。覚えてない?」
麗良の瞳が大きく揺れ動く。
その表情を見て、マヤがほらね、というように笑みを見せた。
「そう、思い出した?
良之おじいさまがプランツハンターと話をしていたことを教えたのは、私。
あなたはすぐには信じなかった。おじい様のところへ事実を確認しに行って、そこで知ったのよね。
あなたがそれまで信じてきた事実は全て偽りだったと。
おじい様は、死んでしまった植物たちを悼んで花を生けている聖職者なんかじゃなく、人間のエゴで植物を殺すことを平気で行える、他の人間たちと同じだということに。
そして、あなたは、生け花をやめた」
何も言えないでいる麗良に、マヤが優しく詰め寄る。
「全部、あの人の命令だったの。
私は、妖精王であるあの人の命令には逆らえない。
……これで分かったでしょう。あの人は、そういう人なの。
目的のためなら手段を選ばない。全部を真に受けて、信じちゃだめよ」
マヤは、麗良の頬に手を当てると、そっと寄り添うように麗良を抱きしめた。
マヤの綿毛のような髪の毛が麗良の頬をくすぐる。
カモミールの匂い。マヤの匂いだ。
「私だけは麗良の味方よ」
マヤが耳元でそっと囁く。
麗良は、頭が痺れてうまく考えることができない。
「…………帰って」
ようやく絞り出せた声は掠れていたが、マヤの耳には、はっきりと届いた。
マヤが身体を離し、少し意外そうな表情で麗良の顔を見返す。
麗良は、いたたまれず、マヤのトンボ玉のような瞳から目を逸らした。
「よく考えて」
マヤはそれだけ言い残すと、自らドアを開けて外へ出て行った。
麗良は、背後でドアの閉まる音を聞いても振り返ることなく、マヤの足音が小さくなって聞こえなくなるまで、そこから動くことが出来なかった。
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