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6.新たな世界への扉

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 突き抜けるような青空が広がっている。
爽やかな風が湿気を帯びた花の香りと僅かに初夏の気配を運んでくるのを肌で感じ、麗良は目を閉じた。

 明日、麗良は十六歳を迎える。
 自分の命が尽きると言われても、未だに実感すら沸かないが、ラムファもそれを否定しなかったのだから事実なのだろう。
色々と隠されていた事実はあったものの、思い返せば一度だって彼は麗良に嘘をついていなかった。

 一番信頼していたマヤに裏切られたことは麗良にとってショックだったが、マヤの立場と境遇を思えば、それも当然のことだろう。
そもそも彼女をあそこまで追い詰めたのはラムファだが、自分の存在にもその一端があるのだから、自分には彼女を責める権利はないと麗良は思っている。
《妖精の国》を離れて、誰も知っている人のいない人間界に一人取り残されたのだ。
誰だって怒りこそすれ、受け入れられる筈がない。

 マヤは、麗良を孤独にした、と言っていたが、本当に孤独だったのは、マヤ自身だった。
麗良には父親がいなかったが、胡蝶や良之、依子、青葉、そしてマヤがいた。
決して自分は孤独ではなかった、と麗良は今更になって気付いた。

 あの後、麗良がラムファと二人で家へ帰った時、泣きながら麗良を抱きしめる依子の柔らかな胸の中で、麗良はそのことを強く実感した。
依子の肩越しに赤い目を隠すように抑えていた良之を見て、麗良は自分がどれほどこの人たちを心配させて、愛されていたのかを知った。

 せめてそのことをマヤに伝えたかったが、彼女が消えてしまった後となっては、それはもう叶わない。
マヤは、麗良のことを何でも分かってくれていたが、麗良は、マヤのことを何一つとして分かってあげられなかった。
もし、マヤの孤独に麗良が気付いてあげられていたら、何か違う結末があっただろうか。

麗良にナイフを突きつけた山高帽を被った男は、いつの間にか姿を消していた。
結局、あの男の主が誰だったのかは分からず仕舞いだが、ラムファが言うには、麗良が《妖精の国》へ来ることと都合が悪いと考えた誰かの仕業だろう、とのことだ。
《妖精の国》というのも、色々と事情が複雑らしい。

つまり、決して自分は歓迎されるばかりの存在ではないと身をもって知った麗良は、ラムファに落ち着いて考えるための時間が欲しいと伝えた。
麗良の誕生日は三日後に差し迫っていたが、きちんと自分の中で答えを出してから決めたかった。
目に見えない何かに知らないまま支配されるのだけは嫌だと思ったのだ。
ラムファは、何も言わず、ただ黙ってうなずいてくれた。
内心では今すぐにでも麗良を連れて《妖精の国》へ帰りたいと顔には書いてあったが、麗良は、自分の意志を尊重してくれたラムファの態度に改めて感謝の念を抱いた。

喜ばしい出来事もあった。
事件が起きた翌日、青葉が花園家へ戻って来たのだ。
彼が言うには、家を出て行方不明になっていた兄が突然家に戻って来たそうだ。
しかも、何故か兄は、それまでの記憶を失っており、自分から家を出たことも覚えていないという。
もしかしたら……いや、きっと、マヤとあの山高帽の男が裏で手を引いていたに違いない、と麗良は考えたが、真実を知る者は誰もいない。

青葉が再び庭の離れに住むようになり、麗良は、心から嬉しく思った。
と同時に、今度こそ自分の青葉への気持ちに整理をつける時が来たのだと覚悟を決め、その日、部屋の整理を終えた青葉を庭の散策に誘った。

昨晩、雨が降った所為で、庭の土は濡れていたが、水捌けの良い土を使っているため、ぬかるんで歩けないという程ではない。
石畳をゆっくりと歩きながら、麗良は、どうやって話を切り出そうかと考えた。

「青葉って、実は、すっごいお金持ちだったのね」

 麗良が軽い調子でからかうと、青葉が困ったように笑った。

「そんなことはない……って言いたいけど、実はそうなんだ。
 これまでお金のことで困ったことは一度もないし、そのことで悩む機会すらなかった。
 与えられることが当然だと思って生きてきた……今思うと、とても人として恥ずかしい生き方だったと思う」

 場の雰囲気を和ませようと思っただけだったのだが、青葉の表情が暗くなるのを見て、麗良は、慌てて軽い口調で青葉をやじった。

「もう、そこまでして華道家なんかが良いのかしら。
 せっかくお金持ちになれたのに、本当もったいない」

 青葉は、麗良の気遣いを察して、本当にねと笑った。
そこで麗良は、前から青葉に聞いてみたいと思っていて聞けずにいたことを聞くことにした。

「青葉は、どうして花道家になろうと思ったの?」
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