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壱怪 藤原徹の憑いてない一日。
二、
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「ここか」
『うぬ。なにやら、ただならぬ妖気を感じる』
影が動く。
「御免っ!」
ガラッ、と大きな音を立てて扉が開かれた。
その音に驚き、比較的まだ意識のあった生徒達の視線が一斉に扉へと向かう。
教授は、それをただの遅刻者だと思ったのだろう。
扉が開く音など聞こえなかったかのように、黒板にミミズのような文字を書き連ねながら授業を続けている。
徹は、朦朧とした意識を覚醒させてくれた音に、反射的に目を向けた。
と同時に、徹の睡魔が一気に霧散する。
その開いた扉から現れたのは、徹が昨日見た例の夢に出てきた侍と犬だった。
「おのれ、妖め……このような神聖な学舎にまで現れるとは言語道断!」
侍は、腰の佩刀を抜き、それを顔の横で構えた。
刀がきらり、と光るのを見た生徒達が騒ぎ出す。
「な……何なんだねっ、……君は!」
その騒ぎに一歩遅れて気が付いた教授が、震える声でそう叫んだ。
しかし、その声は、生徒達の騒ぎ声に掻き消され、侍の耳には届かない。
「はぁあ……っ!」
威勢の良い掛け声と共に、侍が刀で空を切る。それと同時に、外の新鮮な空気が、教室内の熱気を払ったかのように思えた。
一瞬、あまりの出来事に場が静まったが、それまで居眠りをしていた何人かの生徒達が起き出すと、更に騒ぎが大きくなった。
逃げまどう者もいれば、机の下に隠れる者もいる。
こんな時、一番しっかりしなければならない筈の教授は、腰が抜けたのか、教壇の上で尻餅をついたまま動かない。
しかし、侍は、それらに構う事なく刀を振り続けていた。
その刃先が人を傷つける事は決してなく、そのすれすれの所の空だけを切っている。
そんな中、徹一人だけが落ち着いていた。
そう、これは夢なのだ。
どうも自分は、授業中にうたた寝をしてしまったらしい。
(早く起きないと……)
そう思って目を覚ます努力をしてみるが、見える景色は一向に変わらない。
侍が刀を振り回し、教室から逃げようとする生徒達を犬が扉前で牙を剥いて塞いでいる。
その光景は、とても現実のものとは思えないが、それが夢ではないという事だけは事実だった。
「また会ったな」
呆然としている徹の傍に、いつの間にか侍が立っていた。
「…………頼む。これは夢だって言ってくれ」
「なんのことだ?」
その時、にわかに廊下が騒がしくなった。
どうやら誰かが警備員を呼んだらしい。
「こっちです!
ここに、日本刀を持った侍が暴れてるんです!」
「あはは、君ねぇ。
侍って、一体いつの時代だよ。
時代劇じゃあるまいし……」
全くだ。
と徹は、警備員のおじさんに強く同意した。
しかし、この光景を目にした後のおじさんを想像すると、同情せざるを得ない。
案の定、教室に顔を出したおじさんの表情が見る間に変わっていった。
「な、何だね君は!
そそそんな物を持って……今すぐソレを収めなさい!」
警備員が現れた事により、いくらか安心したのだろう。
生徒達の騒ぐ声が少し落ち着く。
『うぬ。なにやら、ただならぬ妖気を感じる』
影が動く。
「御免っ!」
ガラッ、と大きな音を立てて扉が開かれた。
その音に驚き、比較的まだ意識のあった生徒達の視線が一斉に扉へと向かう。
教授は、それをただの遅刻者だと思ったのだろう。
扉が開く音など聞こえなかったかのように、黒板にミミズのような文字を書き連ねながら授業を続けている。
徹は、朦朧とした意識を覚醒させてくれた音に、反射的に目を向けた。
と同時に、徹の睡魔が一気に霧散する。
その開いた扉から現れたのは、徹が昨日見た例の夢に出てきた侍と犬だった。
「おのれ、妖め……このような神聖な学舎にまで現れるとは言語道断!」
侍は、腰の佩刀を抜き、それを顔の横で構えた。
刀がきらり、と光るのを見た生徒達が騒ぎ出す。
「な……何なんだねっ、……君は!」
その騒ぎに一歩遅れて気が付いた教授が、震える声でそう叫んだ。
しかし、その声は、生徒達の騒ぎ声に掻き消され、侍の耳には届かない。
「はぁあ……っ!」
威勢の良い掛け声と共に、侍が刀で空を切る。それと同時に、外の新鮮な空気が、教室内の熱気を払ったかのように思えた。
一瞬、あまりの出来事に場が静まったが、それまで居眠りをしていた何人かの生徒達が起き出すと、更に騒ぎが大きくなった。
逃げまどう者もいれば、机の下に隠れる者もいる。
こんな時、一番しっかりしなければならない筈の教授は、腰が抜けたのか、教壇の上で尻餅をついたまま動かない。
しかし、侍は、それらに構う事なく刀を振り続けていた。
その刃先が人を傷つける事は決してなく、そのすれすれの所の空だけを切っている。
そんな中、徹一人だけが落ち着いていた。
そう、これは夢なのだ。
どうも自分は、授業中にうたた寝をしてしまったらしい。
(早く起きないと……)
そう思って目を覚ます努力をしてみるが、見える景色は一向に変わらない。
侍が刀を振り回し、教室から逃げようとする生徒達を犬が扉前で牙を剥いて塞いでいる。
その光景は、とても現実のものとは思えないが、それが夢ではないという事だけは事実だった。
「また会ったな」
呆然としている徹の傍に、いつの間にか侍が立っていた。
「…………頼む。これは夢だって言ってくれ」
「なんのことだ?」
その時、にわかに廊下が騒がしくなった。
どうやら誰かが警備員を呼んだらしい。
「こっちです!
ここに、日本刀を持った侍が暴れてるんです!」
「あはは、君ねぇ。
侍って、一体いつの時代だよ。
時代劇じゃあるまいし……」
全くだ。
と徹は、警備員のおじさんに強く同意した。
しかし、この光景を目にした後のおじさんを想像すると、同情せざるを得ない。
案の定、教室に顔を出したおじさんの表情が見る間に変わっていった。
「な、何だね君は!
そそそんな物を持って……今すぐソレを収めなさい!」
警備員が現れた事により、いくらか安心したのだろう。
生徒達の騒ぐ声が少し落ち着く。
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