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第二章 魔女の杖と魔獣
第19話 ごろつき
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はじまりの森を抜けて、東へ道を進んでゆけば、半日もせずに目的の町が見えてくる。
……はずだった。
「有り金ぜ~んぶ、置いていきな」
町まであと少し、というところで、わらわの目の前に、三人の男が立ち塞がった。
男たちは、冒険者の恰好をしているが、みな無精ひげを生やしており、土気色の顔が彼らの人相を悪くしている。いわゆる〝ごろつき〟だ。
一人は長剣を、もう一人は魔法の杖を、最後の一人は弓を手に構えている。一見、隙がなさそうに見えるものの、持っている装備品から彼らのレベルの低さがわかる。
わらわの敵ではない。
「なんじゃ、お前ら。わらわのことを知らぬのか」
短剣をもった小男が、下卑た笑みを浮かべる。
「はっ、知らねぇな。どっかの金持ちのお嬢ちゃん」
どうやら本気で知らないらしい。魔王を倒した勇者一行を知らぬとは……呆れて説明する気にもならない。
「おい、勇者! こやつらをめったんこのぎったんこにしてやれっ! 遠慮はいらぬ!」
啖呵《たんか》を切って人差し指を突き出したものの、背後はしーんと静まり返り、反応がない。
不思議に思い振り返ると、かなり離れた先で、勇者と聖女がのんびり腕を組んでこちらへ向かって歩いている姿が見えた。二人の視線は、道端に咲く名もなき花へと向けられ、わらわがごろつきに絡まれていることに気付いていない。
あいつらぁ~……こんな時にイチャこきやがって!
「どうやらお仲間に見捨てられたようだな。ここは大人しく俺たちの言うことを聞いておいたほうが身のためだぜ」
「あやつらは仲間などではない。お主らなど、わらわ一人で充分じゃ」
わらわの言葉を皮切りに、真ん中の男が長剣を振りかざし、切りかかってくる。
わらわは身をかがめて剣先から逃れると、男の股間に容赦のない蹴りをくらわせてやった。
「ぐほっ……!!」
男が股間をおさえてうずくまる。目玉が飛び出さんばかりに両目を開き、口はタコのようだ。
ふんっ、か弱き子女を狙った罰じゃ。苦しむがいい。
男は剣を取り落としたまま、しばらく動けなさそうだ。
「この女……!」
仲間をやられた他の二人が、それを見て激高した。
短剣を持った男がわらわに襲い掛かり、もう一人の男が弓に矢をつがえる。同時に攻撃されては面倒だ。
わらわは、さきの男が落とした長剣を、短剣男の足元へ向かって蹴り飛ばした。
さすがに重いのでこれを振り回すことはできない。
短剣男は、突然足元へ飛んできた長剣を避けようとしてバランスを崩し、前につんのめる。
その隙に、わらわは地面から砂を掴み、弓をつがえた男に向かって投げかけた。
「うわっ……!」
男が叫んで目をつぶる。見事、目くらましになった……筈だった。
ところが、砂から顔を守ろうとした男が、矢を掴んでいた手を離してしまったのだ。至近距離から放たれた矢は、わらわの真正面へと迫ってくる。
しまった……避けられぬっ!
何とか身をよじって避けようとしたが、間に合わず、肩を矢が掠っていく。
「くっ……!」
痛みに声が漏れた。それでも足を踏ん張り、立ち上がろうと顔をあげた先に、短剣が光る。
「大人しくしてれば、乱暴はしなかったのになぁ」
短剣男が、わらわの髪の毛を掴み、引っ張り上げた。
「いっ、いだいだいっ! 何をする! この無礼者がっ!!」
びたんっ、と男の頬に平手打ちをくらわしてやったが、男は手を離さない。その目に怒りを宿して、わらわを睥睨する。
「とんだじゃじゃ馬だぜ。無礼者だとよ。やっぱりどこかの貴族令嬢なのかな」
元・魔王令嬢じゃ! くそっ、魔法さえ使えれば、こんなやつら瞬殺してやるのに…………!
「俺たちがしっかり可愛がってやるよ」
短剣をわらわの頬にぴたぴたと当てて、男の目が怪しく光った。
男の背後からは、長剣男と弓男が近づいてくるのが見える。
「さあて、身体検査といこうか」
……はずだった。
「有り金ぜ~んぶ、置いていきな」
町まであと少し、というところで、わらわの目の前に、三人の男が立ち塞がった。
男たちは、冒険者の恰好をしているが、みな無精ひげを生やしており、土気色の顔が彼らの人相を悪くしている。いわゆる〝ごろつき〟だ。
一人は長剣を、もう一人は魔法の杖を、最後の一人は弓を手に構えている。一見、隙がなさそうに見えるものの、持っている装備品から彼らのレベルの低さがわかる。
わらわの敵ではない。
「なんじゃ、お前ら。わらわのことを知らぬのか」
短剣をもった小男が、下卑た笑みを浮かべる。
「はっ、知らねぇな。どっかの金持ちのお嬢ちゃん」
どうやら本気で知らないらしい。魔王を倒した勇者一行を知らぬとは……呆れて説明する気にもならない。
「おい、勇者! こやつらをめったんこのぎったんこにしてやれっ! 遠慮はいらぬ!」
啖呵《たんか》を切って人差し指を突き出したものの、背後はしーんと静まり返り、反応がない。
不思議に思い振り返ると、かなり離れた先で、勇者と聖女がのんびり腕を組んでこちらへ向かって歩いている姿が見えた。二人の視線は、道端に咲く名もなき花へと向けられ、わらわがごろつきに絡まれていることに気付いていない。
あいつらぁ~……こんな時にイチャこきやがって!
「どうやらお仲間に見捨てられたようだな。ここは大人しく俺たちの言うことを聞いておいたほうが身のためだぜ」
「あやつらは仲間などではない。お主らなど、わらわ一人で充分じゃ」
わらわの言葉を皮切りに、真ん中の男が長剣を振りかざし、切りかかってくる。
わらわは身をかがめて剣先から逃れると、男の股間に容赦のない蹴りをくらわせてやった。
「ぐほっ……!!」
男が股間をおさえてうずくまる。目玉が飛び出さんばかりに両目を開き、口はタコのようだ。
ふんっ、か弱き子女を狙った罰じゃ。苦しむがいい。
男は剣を取り落としたまま、しばらく動けなさそうだ。
「この女……!」
仲間をやられた他の二人が、それを見て激高した。
短剣を持った男がわらわに襲い掛かり、もう一人の男が弓に矢をつがえる。同時に攻撃されては面倒だ。
わらわは、さきの男が落とした長剣を、短剣男の足元へ向かって蹴り飛ばした。
さすがに重いのでこれを振り回すことはできない。
短剣男は、突然足元へ飛んできた長剣を避けようとしてバランスを崩し、前につんのめる。
その隙に、わらわは地面から砂を掴み、弓をつがえた男に向かって投げかけた。
「うわっ……!」
男が叫んで目をつぶる。見事、目くらましになった……筈だった。
ところが、砂から顔を守ろうとした男が、矢を掴んでいた手を離してしまったのだ。至近距離から放たれた矢は、わらわの真正面へと迫ってくる。
しまった……避けられぬっ!
何とか身をよじって避けようとしたが、間に合わず、肩を矢が掠っていく。
「くっ……!」
痛みに声が漏れた。それでも足を踏ん張り、立ち上がろうと顔をあげた先に、短剣が光る。
「大人しくしてれば、乱暴はしなかったのになぁ」
短剣男が、わらわの髪の毛を掴み、引っ張り上げた。
「いっ、いだいだいっ! 何をする! この無礼者がっ!!」
びたんっ、と男の頬に平手打ちをくらわしてやったが、男は手を離さない。その目に怒りを宿して、わらわを睥睨する。
「とんだじゃじゃ馬だぜ。無礼者だとよ。やっぱりどこかの貴族令嬢なのかな」
元・魔王令嬢じゃ! くそっ、魔法さえ使えれば、こんなやつら瞬殺してやるのに…………!
「俺たちがしっかり可愛がってやるよ」
短剣をわらわの頬にぴたぴたと当てて、男の目が怪しく光った。
男の背後からは、長剣男と弓男が近づいてくるのが見える。
「さあて、身体検査といこうか」
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