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【本編】
東城先生とコウヤの関係
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東城先生の後を追い、私たちは、畜舎の中へと入って行った。
中は獣の臭いが充満している。
懐かしい。
大学のサークル活動では、よくこの臭いを嗅いでいた。
東城先生に案内された一室は、中央に動物を乗せるための治療台が置いてあり、中に入ると消毒薬の臭いがした。
その間、コウヤはずっと私の手を握って、傍から離れようとはしなかった。
ただ、部屋に入る時、少しだけ嫌そうな顔をしたのを私は見逃さなかった。
私がコウヤの名前を呼ぶと、少し躊躇しながらも部屋へと入る。
私たちが中へ入るのを見て、東城先生が内側から鍵を閉めた。
「それじゃあ、まずは何から話そうかしら。
……ああ、あなたの大事なワンちゃんが死んだって話からかしらね。
あれも嘘ではないわ。
ただ私は、書類上〝死亡〟と書いてあげただけ。
でも、そのことならむしろ感謝して欲しいわ。
そのおかげで、動物愛護センターの監視から逃れられたのだもの」
「……えっと、つまり、東城先生は、コウヤを助けてくれた……ってことですか?」
「そうよ。私が居なかったら今頃、あなたのワンちゃんは、一生檻の中か、殺されていたでしょうね」
ごくり、と私は、唾を飲み込む。
やっぱり、コウヤは、それだけのことをしたのだと思い知らされる。
一歩間違えていれば、本当にコウヤは今ここには居なかったらかもしれないのだ。
私は、無意識にコウヤと繋いでいる手に力を込めた。
すると、コウヤも私の気持ちに答えるかのように強く握り返してくれる。
(大丈夫。コウヤは、ここにいる)
私は、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「でも、どうして助けてくれたんですか?
東城先生は、その……コウヤのこと、どこまで知っているんですか?」
東城先生は、にやりと含み笑いをして言った。
「どこまでって……そうねぇ……身体の隅から隅まで知り尽くしてるわよ。
あなたの知らないところまで、ね」
「おいっ、ファムに変なことを言うな!
ただ検査しただけだろう!
……ファム、この女の言うことなんて信じる必要ないからな。
全部嘘なんだ」
「あらやだ、人聞きの悪いこと言わないで欲しいわ。
誰があなたのことを助けて、かくまってあげたと思ってるの?」
「それは……そのことは、感謝してる。
でも、俺からファムを遠ざけようとしただろう」
「何言ってるのよ。
あなたみたいな危険生物を野放しになんて出来るわけないでしょ。
私は、私の仕事をしただけよ」
「俺は、猛獣じゃない!」
「人に害を成したんだから、猛獣と同じよ」
「あれは、あいつがファムを襲ったからだ!
俺は悪くない!!」
二人の言い合いが終わりそうにないので、私は、手を上げて話に割って入った。
「……あの! 検査って、何のことですか?
コウヤの身体に、どこか悪いところが……?」
「ない!!」
「大ありよ!
こっちへ来てから一度も検査を受けてない上に、必要なワクチンすら全く接種してないんだから。
本当なら即、強制送還対象よ!」
二人の声が重なる。
「え、こっちへ来てからって……やっぱり、東城先生は、コウヤの正体を知っているんですね」
「ええ、もちろんよ。
だって私も〈獣人〉ですもの」
そう言うと、驚いて目を見開く私の目の前で、
東城先生の姿がみるみるうちに変わっていく。
白銀に輝くつややかな毛並み。
ふさふさの尻尾。
ぴんと頭の上に立つ、二つの三角の耳。
黄緑色の瞳。
コウヤが犬になった時くらいの大きさ程のからだは、犬にも似ているけれど、鼻先が犬のそれよりも長い。
「……き、狐?」
私の目の前に居た筈の美女は、白銀の毛並みを持つ大きな狐の姿に変わっていた。
中は獣の臭いが充満している。
懐かしい。
大学のサークル活動では、よくこの臭いを嗅いでいた。
東城先生に案内された一室は、中央に動物を乗せるための治療台が置いてあり、中に入ると消毒薬の臭いがした。
その間、コウヤはずっと私の手を握って、傍から離れようとはしなかった。
ただ、部屋に入る時、少しだけ嫌そうな顔をしたのを私は見逃さなかった。
私がコウヤの名前を呼ぶと、少し躊躇しながらも部屋へと入る。
私たちが中へ入るのを見て、東城先生が内側から鍵を閉めた。
「それじゃあ、まずは何から話そうかしら。
……ああ、あなたの大事なワンちゃんが死んだって話からかしらね。
あれも嘘ではないわ。
ただ私は、書類上〝死亡〟と書いてあげただけ。
でも、そのことならむしろ感謝して欲しいわ。
そのおかげで、動物愛護センターの監視から逃れられたのだもの」
「……えっと、つまり、東城先生は、コウヤを助けてくれた……ってことですか?」
「そうよ。私が居なかったら今頃、あなたのワンちゃんは、一生檻の中か、殺されていたでしょうね」
ごくり、と私は、唾を飲み込む。
やっぱり、コウヤは、それだけのことをしたのだと思い知らされる。
一歩間違えていれば、本当にコウヤは今ここには居なかったらかもしれないのだ。
私は、無意識にコウヤと繋いでいる手に力を込めた。
すると、コウヤも私の気持ちに答えるかのように強く握り返してくれる。
(大丈夫。コウヤは、ここにいる)
私は、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「でも、どうして助けてくれたんですか?
東城先生は、その……コウヤのこと、どこまで知っているんですか?」
東城先生は、にやりと含み笑いをして言った。
「どこまでって……そうねぇ……身体の隅から隅まで知り尽くしてるわよ。
あなたの知らないところまで、ね」
「おいっ、ファムに変なことを言うな!
ただ検査しただけだろう!
……ファム、この女の言うことなんて信じる必要ないからな。
全部嘘なんだ」
「あらやだ、人聞きの悪いこと言わないで欲しいわ。
誰があなたのことを助けて、かくまってあげたと思ってるの?」
「それは……そのことは、感謝してる。
でも、俺からファムを遠ざけようとしただろう」
「何言ってるのよ。
あなたみたいな危険生物を野放しになんて出来るわけないでしょ。
私は、私の仕事をしただけよ」
「俺は、猛獣じゃない!」
「人に害を成したんだから、猛獣と同じよ」
「あれは、あいつがファムを襲ったからだ!
俺は悪くない!!」
二人の言い合いが終わりそうにないので、私は、手を上げて話に割って入った。
「……あの! 検査って、何のことですか?
コウヤの身体に、どこか悪いところが……?」
「ない!!」
「大ありよ!
こっちへ来てから一度も検査を受けてない上に、必要なワクチンすら全く接種してないんだから。
本当なら即、強制送還対象よ!」
二人の声が重なる。
「え、こっちへ来てからって……やっぱり、東城先生は、コウヤの正体を知っているんですね」
「ええ、もちろんよ。
だって私も〈獣人〉ですもの」
そう言うと、驚いて目を見開く私の目の前で、
東城先生の姿がみるみるうちに変わっていく。
白銀に輝くつややかな毛並み。
ふさふさの尻尾。
ぴんと頭の上に立つ、二つの三角の耳。
黄緑色の瞳。
コウヤが犬になった時くらいの大きさ程のからだは、犬にも似ているけれど、鼻先が犬のそれよりも長い。
「……き、狐?」
私の目の前に居た筈の美女は、白銀の毛並みを持つ大きな狐の姿に変わっていた。
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